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今度は本当かもしれない

僕がインターネットに初めて触ったのは、地元広島で高校生だった頃だ。まだクレジットカードも持ってなかったし、当時の広島にインターネット回線なんてどこにも無かった。予めテック系雑誌で予習を済ませていた、既に充分なギークだった僕は、町の家電デパートの一角にようやくできた実験的インターネットカフェにオープン初週に馳せ参じた。

客はまばら、オタク以外にはインターネットという言葉すらあまり知られていなかった時代だ。当時のネットには日本語コンテンツも殆どなく、かろうじてYahooとかがあったくらい。そこから海外のニュースサイトとかに飛んで、意味もわからず目的も無いまま、ただウロウロとサーフィンしていた。しかし心臓はドキドキしっぱなしだった。これは大変な事になると思った。世の中が激変すると思った。

が、大変な事には全然ならなかった。

「情報化社会!IT革命で世界が変わる!」なんてことは前世紀から既に言われていた。いや、確かに着実に変わってはきたんだけど、実感として世界が激変するような感覚はなかった。このまま日常の延長上に、便利な技術やサービスが増えていって、順当にシフトしていくパターンなのかと若干落胆した。

しかし現在、回線は末端地域まで浸透し、転送速度も飛躍的に向上、更にはそれを運用できるパワフルなデバイスも各個人に行き渡り、コンテンツもサービスも爆発的に充実した。インターネット登場20年にしてついに真の意味でインフラが整ったのだ。それらは有機的に結合し、これまでの延長上でない完全に別の何かを形成し始めた。臨界点突破。インターネットの本領はここから始まるのだ。古きを駆逐していく革命的変化。「IT革命で世界が変わる」今度は本当かもしれない。


人類史にこういった革命は度々あった。農業、宗教、産業、それらはそれ以前のシステムを尽く滅ぼし、人の価値観や世界の様相を塗り替えた。

日本史でいえば、倒幕近代化、戦争前後の民主化や経済成長など、これまでも大きな変革は度々あった。侍は消え、馬車も消えた。

情報革命に限っても、出版、ラジオ、テレビ、記録メディアの出現の度にプチ革命は起きてきた。しかしインターネットによる革命はそれらの比ではない。あらゆる分野に影響し、根幹構造を変えさせる程の力を持つ。学生の時に感じた、あの期待と恐怖の入り混じったような興奮が、20年を経て再び蘇る。その気配をひしひしと感じる。


僕が子供の頃、テレビでトトロを見ていた時、母親が「懐かしい」と言って僕は仰天した。「給水ポンプ?交換式電話(しかも本家にしかない)?バスが1日2本??」そんな世界と地続きな気がしなかった。しかし僕も当時の母親の世代になり、ふと思う。僕自身、実家にあった黒電話をかろうじて憶えている。そして今、当の母親と、ごく普通にiPadで国際テレビ電話で話しているのだ。

市民生活レベルで見ると、たった半世紀の変化としては歴史的にも極めて驚異的な変化だ。そしてそれはまだ始まりでしかない。


時間は前進を続ける。技術も発達を続ける。革新的な人々がどんどん先へ行く中で、その速度についていけない人が「ちょっと待って」とブレーキをかける。そうやって速度調整しながら、それでも全体としては前に進んでいく。後に戻る事は無い。それは歴史の常である。速度が早過ぎれば、追いつけない人も増える。つまり保守側に回る人が増えて、より強いブレーキをかける。それを指して「世界の右傾化」と言ったりもする。

都市部でのライフスタイルが激変してゆく一方で、地方では今も多くの人々が、トトロとは言わないまでも旧態然な生活を続けている。このメンタリティの開きは、まるで時空の裂け目のようにどんどん大きくなっている。それはトランプやブレグジットのような現象さえ引き起こすが、しかしそれも通過儀礼でしかない。


とある説によると「現代人は、1日で江戸時代の人間の1年分の情報量を処理している」らしい。まさに情報の洪水。人類史上未曾有のこの状況に、人間の脳というハード側がまだ対応し切れていないのだとか。ジェネレーションZなどと呼ばれるデジタルネイティブな新世代の脳は、そんな世界に最適化されているのだろうか。


なんだか不安事のようにつらつら書いてきたが、正直なところ個人的にはかなりワクワクしている。10年後の世界が予想もつかないなんて最高だ。僕は生来のギークで、ゲームの進化と共に育ち、そのままゲーム業界に入ってしまった程だ。90年代日本のゲーム分野は神がかっていた。新しいアイデアで世界をぶっちぎっていた。今やそれも成熟し切ってしまい、退屈していたところだったのだ。でもこれからきっともっと面白い事が起こる。どんどん起こる。すっかりおっさんになってしまった今も、まだまだ楽しめる。


世界が激変する。今度は本当かもしれない。いや絶対本当に違いない。

いつの世も、アーティストという職業はファンやパトロンのサポートがなければ食っていけない茨道〜✨