見出し画像

墓場まで運ぶ案件

不意に言われた些細なことを意外と覚えてしまう。その言葉がポジティブな言葉だといいのだが、大抵ネガティブな言葉しか覚えていない。

中学2年の時、少しやんちゃで意地悪な、苦手な男の子がいた。彼はバスケ部、僕はバドミントン部で体育館を2面で分けて活動をしていた。たまたま距離が近くなった時、その子が「もっと足動かせよ! それじゃあ試合負けるぞ!」と僕をからかってきた。急にそんなことを言われて驚き上手く返せず「いやぁ~、今試合してないから……」と笑っていると、「……マジでお前のそういうところが嫌いだわ。いつもヘラヘラしやがって」と吐き捨てるように言い放ち去っていった。
突然のカミングアウト。まさかそんなこと言われるなんて思っていなかったから、一瞬誰に対して何を言われているのか理解ができなかった。自分に言われたんだと自覚した途端、ぞわぞわっと恐怖が押し寄せてきた。
自分も彼のことが嫌いだけど、彼も自分のことが嫌いだということ。
自分はいつもヘラヘラしていること。
彼に言われたその言葉は、とても客観的で自分が気付けなかった部分だった。時間を置いた今だったら言ってくれてありがとう、と思う。だがその当時は情報処理能力が乏しかったから、中学卒業まで彼の顔を見るたびにその言葉を思い出し、迂闊に近寄ることができなかった。

簡単に忘れたい言葉もある。そんな言葉は社会人になってから降りかかってきた言葉が多い。
会社の食事会で、会がお開きになる直前、僕を見つけた同期が「あれ? まだいたんだ?」と半笑いで言ってきたこと。
社長に「ちょっとずつ頑張ってきたね」と言われたこと。
新人の時研修中にお客さんに「もっと先輩みたいにしっかりしないとだめだよ」と言われたこと。
まだまだたくさん、忘れたい言葉がある。それらの言葉には妬み・嫉み・恨み・劣等感がびっしりと付きまとっている。思い出すだけで苦虫を嚙み潰したような気持ちになる。言われた人の顔、名前、言われた状況すべて、死ぬまで抱え込みながら生きていくのだろう。

上司に「今まで見てきた中でいさおが一番繊細だよ」と言われたことがある。男子だけでなく女子もいる中で、一番繊細。自分でも繊細だとは思っていたが、他人から言われるということはよっぽどなのだろう。客観的な視点から言われたこの事実は大事に抱えて、いつでも思い出せるようにネガティブな言葉に埋もれないように一番上に置いておきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?