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モテ

僕は女の子にモテたいという気持ちが希薄らしい。
会社の先輩に「いさをはモテたいと思わないの?」と聞かれた。「人並みにはモテたいです」と答えた。「じゃあ、モテるためになんかしてるの?」と先輩に聞かれ、「いやぁ~…」と言葉を濁した。
「モテ」とは、もう何十年も会っていない遠い親戚のような感覚だ。まったく会う機会がないから「モテ」とはどういうもので、どんな様子をしていたのか分からない状態である。

小・中学生のときは意外とモテていた気がする。女の子とも仲良くできたし、好意を寄せてくれる女子も少ないがいた。
しかしそのくらいのお年頃の子たちは、頭が良くてスポーツができれば誰でもかっこよく思えたり、可愛くみえたりするものだ。あの頃の僕は王道で単純な特性を持っていたからあのときはモテていたのだと推測する。
高校からは単純明快なモテ特性を持つものは淘汰され、本当に人間性に優れた男子がモテていた。僕はもれなく淘汰された。

そこから自分磨きをして女の子にモテようと努力した…わけではなかった。モテるために頑張るのは、少しダサいと思っていた。飾った自分を好きになってくれたとしても、本当の自分を好きになってくれないんじゃないかと疑ってしまう。ありのままの自分を受け入れてくれる人といつか、巡り合えればいいのだと生意気に考えていた。結局そんな脚本付きの素敵なストーリーはいまだに繰り広げられていない。繰り広げられる予兆もない。

モテることを嫌っているわけではない。
自分が苦手に思っている人以外なら、好意を寄せてもらえるだけでとても嬉しいことだ。
それでもモテる努力をしないわけはただ一つ。

モテる努力って何をすればいいのか、分からないのだ。

顔面は中の下だし、お金を持っているわけでもない。外面はいつもへらへらしていてあまり怒らなさそうなイメージを持たれているが、腹の中は真っ黒である。そんな中身も外見も魅力的ではない僕がモテるためには、自分磨きしかない。

だけど、その自分磨きも、面倒くさい。

自分に足りないものは何か。
身長と体型である。
男子中学生と目線が同じで、男子高校生からは見下ろされるような形となる、165cmの低身長。筋肉があまりついておらず何かあったらと不安になる細さの腕。腕と比べて栄養が余分についてしまったお腹周りとお尻、太もも。ひざ下もこれまたよく言えばほっそりときれいな脚、悪く言えば少しの衝撃でポキリといってしまいそうな脚。風呂上がりに鏡で自分の姿を見るととにかくチグハグでみっともない体型をしているのだ。
身長はもうどうしようもない。公園にあるうんていに掴まって身体を伸ばすしかない。でも体型は変えることができる。
僕はジムへ行くことはせず、家で腹筋・背筋・腕立てを30回ずつ毎日やることにした。ジムへ行かなかった理由は、行くことが面倒になりそうだから。もうこの時点で自分磨きをしようという意思が弱い。
一日目、ちゃんとやった。
二日目、三日目もこなした。
四日目、それぞれ20回ずつ。
五日目、お腹周りがたるんでいるから腹筋だけでいいかと思い、腹筋30回だけ。
六日目、筋トレを全くしなくなった。
三日坊主を避けたと言っていいのかどうなのか分からないが、結論、筋トレは現在やっていない。

大学生時代に友人に「何その中学生みたいな恰好は(笑)」と苦笑された悲しい過去を持っている。そう言われたその日のうちに「大学生 おしゃれ」と検索ボックスに入力し、魔境に入るためのボタンを押した。出てきたのは、ずらーっと並ぶ様々な洋服とモデルさんたち。目に入った瞬間なぜか恥ずかしくなり、急いでホーム画面に戻った。
画面で見るよりも現実で見たほうがリアルでもっとイメージが湧きやすいのではないかと考えた僕は、大学の構内を歩いている男子学生の服装をくまなくチェックすることにした。実際の男子学生の姿を見たら恥ずかしさはなかったが、もし自分が着たら似合わないだろうなという思いと、僕と何ら変わらないTシャツにジーパン、大きめのリュックを背負っている男子学生も一定数いたので、考えるだけ無駄だったのかと思い、おしゃれなんて人それぞれだ、無理することはない! なんて現実逃避をしてしまい、おしゃれの門を叩かずに現在に至った。

モテを追いかけて、自分を良いように見せようと本当の自分を押し殺しながらも『自分磨きもどき』をしたが、結局長続きをしなかった。
一途に追いかけられなかったモテは愛想を尽かして他の男へ行ってしまった。僕はおしゃれを微塵も感じさせない無地のTシャツを着てアイス片手に、素敵なストーリーを繰り広げているテレビの中の世界をただぼーっと眺めているのである。

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