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医師の採用方法┃99%がやっていない、たった1つのこと

採用に必要だけど、99%がやっていない、たった1つのこと

それは、

採用の市場調査

です。

・・・採用の市場調査!?

あまり聞き馴染みがない話かもしれません。

今回は、医師の採用方法を紹介しつつ、どんな採用方法を選ぶにしても必要な、採用の市場調査について解説していきます。

最新!医師の採用方法トレンド

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2019年12月に厚生労働省が採用に関するアンケート調査結果を公表しました。

▼厚生労働省|採用に関するアンケート調査結果

資料の中で紹介されている医師の採用経路に関する結果がこちらです。

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民間職業紹介事業者が35%と最も多くの割合を占めていることが印象的です。

一昔前は、大学の影響力が強く、医師側も病院側も職業紹介会社を使いたがらなかった印象がありますが、現在では医師の職業紹介も一般的になっています。

参考までに、エムスリーキャリア(医師・薬剤師の職業紹介会社)経由の年間の就職者数を調べてみた結果が以下の通りです。年々、増加傾向にあることが分かりますね。

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採用経路として、2番目に多かったものが直接募集です。

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・・・

直接募集の定義が曖昧で少しわかりにくいですね。

おそらく民間会社を経由せずに、病院独自で採用したケースを定義しているのでしょう。

私が関わった中国・四国地方の病院では、医師採用の為に、東京の転職希望医師のもとに事務長が直接訪問して、口説いていました。

そこまでする病院もあるのだと驚いたことを覚えています。

また、最近では医師採用専用のホームページを充実させている例も多く見られます。ご参考までにご紹介します。

▼IMSグループ|医師採用ページ

▼医療法人 神甲会 隅病院|医師採用ページ

採用経路として多かったものの3位は学校等、4位は縁故でした。

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大学医局からの派遣や、理事長・院長の縁故といった従来型の採用方法も引き続き重要な選択肢となっています。

特に、中小規模の民間病院においては、大学医局からの派遣や、理事長・院長の縁故経由での採用が出来るのか、出来ないのかで経営の安定性は大きく変わってくるはずです。

採用を成功させるために必要なこと

採用方法を知っていても、現実に医師を採用することは難しいものです。

1つだけ質問です。

あなたの街(市町村や県)には、何人の医師がいますか?

・・・

・・・

答えられた方は、素晴らしい方だと思います。

ほとんどの方は答えるのが難しいのではないでしょうか。

例えば、釣りをしようと思ったとき、どうすればうまく釣ることができるでしょうか。

まずは、魚が多いスポットはどこなのか、そこにはどんな魚がいるのかを、確認しますよね。

そして、そこにいる魚が食いつきそうな餌を使って釣りをします。

採用も同じで、まずは医師がどの地域にどの程度いるのかを調べて、その地域に住んでいる医師に提示できる病院の魅力はなんなのかを考えることが大切です。

それこそが採用の市場調査です。

採用の市場調査の流れ

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採用の市場調査の流れは以下の通りです。

・あなたの街の医師数を調べる
・あなたの街の病院当たり医師数を調べる
・あなたの街の平均医師給与を調べる
・あなたの街の立ち位置を知る

あなたの街の立ち位置がわかったら、その立ち位置に応じた採用方法を検討しましょう。

あなたの街の医師数の調べ方

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医師数は、厚生労働省が発表している統計データから確認できます。

▼医師・歯科医師・薬剤師統計(旧:医師・歯科医師・薬剤師調査)

こちらの統計を使うことで、市区町村別や年齢別の医師数や専門医数を調べることができます。

生データを見るのは少し大変でもありますので、私の方でも医師数の可視化データを作成しています。

▼医師数の可視化データ

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左から順に、「都道府県別」「二次医療圏別」「市区町村別」の医師数を確認できます。

都道府県別の一覧から、都道府県を選択すると、二次医療圏と市区町村が絞り込まれます。

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二次医療圏一覧についても同様に、対象の二次医療圏を選ぶと、市区町村が絞り込まれます。

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対象の地域内に医師が数えるほどしかいない場合、がむしゃらに採用をしようとしても医師採用は難しくなります。

医師が少ない場合、近隣で医師が多い地域や、Iターン、Uターンを狙った採用の検討も必要になります。

まずは、あなたの街の医師数を確認してみてください。

専門医数を調べたい場合は、以下のCSVから確認できますので、合わせてご参考ください。

あなたの街の病院当たり医師数の調べ方

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採用のしやすさの視点では、単純な「医師数」よりも「病院当たり医師数」を見ることをおすすめします。

医師数が多くても、病院数も多い場合、採用は難しくなります。一方で、医師数が少なくても、病院数が少なければ、採用はそこまで難しくない場合もあります。

病院数は病院報告で公表されています。

▼病院報告

病院報告では、病院数や病床数、平均患者数等も調べることができます。

対象地域の医師数を、対象地域の病院数で割ることで、病院当たり医師数を計算することができます。

医師数と同様に、病院当たり医師数も可視化していますので、ぜひご参考ください。

▼病院当たり医師数の可視化データ

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病院当たり医師数は、実数値で見るよりも、他の地域との比較で見た方が、わかりやすくなります。

そのため、全国平均を0とした場合の指数でもデータを見てみましょう。

▼病院当たり医師数(全国を0とした場合の指数)

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0より左側に棒が伸びている地域は病院当たり医師数が全国に比べて少ないことを示しています。逆に、0より右側に棒が伸びている地域は病院当たり医師数が全国に比べて多いことを示しています。

こうしてみると、採用がしやすい地域なのか、そうでないのかが一目瞭然です。

例として、神奈川県を見てみましょう。

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神奈川県は、医師数19,476人で全国3位、病院当たり医師数も58人で全国2位です。基本的には採用しやすい地域と言えます。

しかし、病院当たり医師数を詳しく見ていくと、全国を下回る地域があることがわかります。

県西医療圏では、病院当たり医師数が25人であり、全国平均の38人を下回っています。

周辺の医師が多い地域とのアクセス状況にも寄りますが、採用が難しい可能性もあるでしょう。

このように、病院当たり医師数を可視化したデータを見ることで、その地域の採用のしやすさがわかります。ぜひ、みなさんも参考にしてみてください。

あなたの街の平均医師給与の調べ方

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続いて、平均医師給与の調べ方を紹介します。

採用について考えるうえで、医師数と並んで重要になる指標が給与です。

給与だけが全てではありませんが、周辺の病院と比べて、あまりにも給与に差があれば、採用は困難になるでしょう。

平均給与を知ることで、どの程度の給与の求人を出せば、採用確率が高まるのかを検討することができます。

給与に関するデータは、賃金構造基本統計調査で公表されています。

こちらもデータを可視化しています。

▼医師の平均年収データ 

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賃金構造基本統計調査の結果は調査年によって、給与が高めに出てしまったり、低めに出てしまったりするため、調査年の影響を軽減する為、3年分のデータの平均値を用いています。

残念ながら、市区町村別のデータはオープンデータには存在しません。より詳細に調査する場合は、実際に対象地域の病院の求人を調べて、平均給与を算出することをおすすめします。

あなたの街の立ち位置を知る

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最後にあなたの街の立ち位置を知る方法をご紹介します。

あなたの街の立ち位置は、これまで調査した「医師の年収」と「病院当たり医師数」のマトリクスによって表現することができます。

・・・と言っても、わかりにくいと思いますので、以下のデータをご覧ください。

▼ 医師の年収と病院当たり医師数の関係

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縦軸に病院当たり医師数、横軸に医師年収を取り、各都道府県をプロットしています。

このマトリクスで分けられた4象限で、採用市場が異なります。それぞれの特徴に合わせた採用方法を検討することが重要です。

4象限の内、右下にあるエリアは「採用難・高給エリア」になります。

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採用難・高給エリアの代表的な都道府県は「岩手県」や「青森県」です。

病院当たり医師数が少ないうえに、医師の平均年収も高いエリアになります。4象限の中で、最も医師採用が難しいエリアです。

このエリアに位置する病院においては、医師を採用する場合、相応のコストがかかることを覚悟する必要があります。

新幹線の交通費や、社宅の用意をする病院も多く、遠方の医師に高給を提示して短期間の出稼ぎ的な誘致をしている病院の話を聞くこともあります。

もちろん給与だけが全てではありませんが、周辺の病院が用意している給与水準を確認し、求人内容を吟味する必要があります。

4象限の内、左下にあるエリアは「採用難・低給エリア」になります。

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採用難・低給エリアの代表的な県は「石川県」や「富山県」です。

病院当たり医師数は少ないものの、医師の平均年収は低いエリアになります。

給与での競争をしなくてよいという意味では、「採用難・高給エリア」に比べると採用はしやすくなります。

採用難・低給エリアに属する県では、高額の給与を提示しなくても、魅力や特徴をしっかりと伝えていくことで採用することができます。

専門性を身につけることができることや、柔軟な働き方が出来ること等、病院個々の特徴を見つめ直してみると良いのではないでしょうか。

また、あえて給与を高くするという戦略も取ることができます。周辺の病院は、高給の提示はしていないわけですので、給与を高くするということが差別化になります。

4象限の内、左上にあるエリアは「採用易・低給エリア」になります。

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採用易・低給エリアの代表的な都道府県は「東京都」や「神奈川県」、「大阪府」になります。病院当たり医師数が多く、医師の平均年収も低いエリアです。

どの地域でも医師の採用は当然難しいのですが、そうはいっても採用易・低給エリアに位置する病院は全国的に見れば、採用が容易な地域です。

代表的な都道府県である「東京都」や「神奈川県」、「大阪府」のイメージからもわかる通り、住環境としての魅力もあり、そもそも人が集まりやすい環境にあります。

一方で、有力な病院が多いのも、これらの地域の特徴です。病院ごとの特色を如何にして作っていくかが重要になります。

特色をしっかりと作っていくことができれば、数合わせではなく自院の方向性に合った医師をお招きすることも可能となる地域です。

4象限の内、右上にあるエリアは「採用易・高給エリア」になります。

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採用易・高給エリアは、病院当たり医師数が多いにも関わらず、医師の年収が高いエリアになります。

が、こちらにプロットされる代表的な都道府県はありません。医師数が多い場合、無理に年収を上げる必要はありませんので、当然と言えば当然ですね。

一方で、もし病院当たり医師数が多い地域に属しているにもかかわらず、あなたの病院が不必要に高額な年収を医師に提示しているのであれば、見直してみるのも良いかもしれません。


基本的な話はここまでです。

が、もう少しお読みいただけるのであれば、補足したいことが3つありますので、合わせてお読みください。


コラム1 大都市は医師数と年収が比例関係にある

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医師の年収と病院当たり医師数のマトリクスでは、人口の多い都道府県ほど大きい丸で色を濃くしてプロットしています。

人口の多い都道府県に注目すると、ある特徴が見えてきます。

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人口の多い都道府県については、病院当たり医師数と医師の年収が比例関係にあることが分かります。

病院当たり医師数が多ければ年収が低くなり、病院当たり医師数が少なければ年収が高くなる関係ということです。

一見、当たり前のように思われるかもしれませんが、人口の少ない都道府県では、このような比例関係は見られません。

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人口の多い大都市の方が、より給与で意思決定がされる傾向にあるようです。

地方都市の方が、給与以外で意思決定される傾向にあるのは、なんとなくわかる気がします。

大都市と地方では採用戦略が全く異なるともいえるのではないでしょうか。

コラム2 ほとんどの人が有効求人倍率を誤解している

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採用の市場調査として、最も有名な指標は有効求人倍率です。

有効求人倍率とは、求職者1人当たり何件の求人があるのかを示した指標です。一般職業紹介状況(職業安定業務統計)にて公表されています。

▼一般職業紹介状況(職業安定業務統計)

有効求人倍率は、そのわかりやすさから採用の難易度を語るうえでよく使われています。

しかし、

有効求人倍率では、医師の採用の難易度はわかりません。

有効求人倍率は、あくまでハローワークの求人と、ハローワークの求職者の状況をとりまとめたデータです。

そのため、ハローワークがよく利用される職種においては、有効ですが、ハローワークが利用されない職種においては、有効ではありません。

医療介護職でいうと、医師・薬剤師はハローワークをほとんど利用しない為、有効求人倍率はあてになりません。

一方で、看護師・介護職は、ハローワークの利用者数が一定数いますので、有効求人倍率が参考になります。

職種に応じて、うまく使い分けていくことをおすすめします。

コラム3 人口10万人当たり医師数だけで判断するのは間違い

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地域の医師数を語るときによく使われる指標が、人口10万人当たり医師数です。

厚生労働省が公表している資料でも基本的には人口10万人当たり医師数が使われます。

しかし、採用の市場調査という観点では、人口10万人当たり医師数で考えることは適切とは言えません。

人口10万人当たり医師数が多くても、競合する病院数が多い場合もあれば、少ない場合もあり、一概に採用が簡単とは言えない為です。

医師の年収と人口10万人当たり医師数の関係を見ても、互いに関係性がないことが分かります。

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そのため、採用の市場調査では、病院当たり医師数を使うことをおすすめします。

おわりに

今回は、「医師の採用方法┃99%がやっていない、たった1つのこと。」と題して、以下のことを説明しました。

1 採用に必要だけど、99%がやっていない、たった1つのことは、「採用の市場調査」
2 採用の市場調査のステップ は、次の通り。
  ①医師数を調べる
  ②病院当たり医師数を調べる
  ③平均医師給与を調べる
  ④あなたの街の立ち位置を知る
3 あなたの街の立ち位置が分かったら、立ち位置に合わせた採用戦略を検討しよう


こちらの記事を含めて、「病院・介護施設の市場調査ができるようになるnote」(旧:はじめての外部環境分析)シリーズでは、病院・介護施設の市場調査の方法をご紹介しています。

取り上げる調査項目は以下の7つです。

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以上です。

次回は、その他の医療介護職の採用環境市場調査について解説していきます。

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