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看護師不足の3つの原因と対策とは?|都道府県別データで解説

この記事のポイント

看護師不足の原因が分かる
看護師不足の対策が分かる
都道府県別の看護師不足の原因が分かる
都道府県別の看護師不足の対策が分かる
・看護師の市場調査の方法が分かる

今回は、看護師不足の原因と対策を解説していきます。前半では、全体的な傾向を説明し、後半では都道府県別のデータを交えて解説していきます。

看護師は最大27万人不足する見込み

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厚生労働省が看護師の必要数と不足数を調査して発表しています。

▼看護師需給分科会 中間とりまとめ

厚生労働省からは、2025年における看護師の必要数に対して、最大で27万人の看護師が不足する可能性が示唆されました。

2025年の看護師必要数は188万人~202万人とされ、2025年の看護師供給数は175~182万人とされています。そのため、2025年の不足数としては、6~27万人です。

世界的に見ても日本の看護師不足は際立っています。

OECD加盟国の病床100床当たり看護職員数の比較が次のグラフです。

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病床100床当たりの看護師数は、OECD単純平均で183.4人に対して、日本は87.1人で他の先進国と比較しても大きく少ないことがわかります。

看護師不足、3つの原因

看護師不足の原因は何でしょうか。大きく3つに集約できます。

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①日本の病床数は多い(看護師需要が多い)

OECD加盟国の病床100床当たり看護職員数で、日本の看護師数が圧倒的に少なく見えるのには理由があります。

それは、日本の病床数が多過ぎることです。

人口1,000人当たりの病床数を比較したデータがこちらです。

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出典:日医総研リサーチエッセイ No.77(医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2019-)

一番左端のTotal hospital bedsが人口1,000人当たりの病床数です。日本は13.1床で、他の先進国と比べて圧倒的に病床数が多いことがわかります。

病床数が多いほど、看護師が必要になります。日本は病床数が多いため、看護師不足が起こっているのです。

②離職者が常にある

日本看護協会では、毎年看護師の離職率を調査しています。(2018年 病院看護実態調査)調査結果によると、直近5年間は離職率約11%で推移していることが分かります。

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男性看護師も少しずつ増えてきていますが、それでもまだ看護師の92.8%は女性です。(2018年 衛生行政報告例

女性は男性に比べて、年代によるライフスタイルの変化が大きく、結婚や出産の為、どうしても職場を離れなければいけなくなることがあります。

厚生労働省が行った看護職員就業状況等実態調査では、看護師の退職理由について以下のような結果となりました。

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退職理由の1位は出産・育児のため(22.1%)、2位は結婚のため(17.7%)です。雇用主側の改善だけでは対処ができないライフスタイルの変化による退職が多いことが分かります。

③働き方改革が進む

看護師に限らないことですが、全産業において働き方改革が進められています。厚生労働省の看護職員需給分科会の中でも、超過勤務時間や有給休暇の取得日数など勤務環境改善を前提として3つのシナリオを作り、看護師の需要を推計しています。

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働き方改革により、労働環境の改善が進むことはもちろん良いことです。しかし、働き方改革が進むことで、益々、看護師不足感が強まると考えられます。

看護師不足の対策は2つの軸で考えよう

では、そんな看護師不足にどのように対応していけば良いのでしょうか。2つの軸で考えてみましょう。

2つの軸

①人材確保対策に取り組む

1つ目の軸は人材確保対策に取り組むことです。

先ほどの退職理由のグラフをよく見てみると、結婚・出産による退職だけでなく、職場に対する不満による退職も見受けられます。

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これらの不満による退職は対策次第で防ぐことができます。

厚生労働省が公表している、人材確保に「効く」事例集では、4種類の人材確保策に取り組むことを推奨しています。

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1、「採用管理」が適切にできているのかどうか

2、「定着管理」が適切にできているかどうか

3、「就労条件」を適切に設定できているかどうか

4、「理念・価値観」を適切に創れているかどうか

人材確保に「効く」事例集では、どの程度対策がとれているかをセルフチェックするチェックシートが付いていますので、ぜひ試しにやってみてください。

どこに課題があるのか見つかるかもしれません。

②採用環境に合わせた体制を検討する

人材確保策と合わせて取り組みたいことが、採用環境に合わせた体制を検討することです。

冒頭でお伝えした通り、看護師は最大27万人不足する見込みです。

どんなに人材確保策を行ったとしても、看護師不足の解消がむずかしい地域もあるはずです。

マトリクス2

縦軸に人材確保対策をしているかどうか、横軸に看護師が不足しやすい地域かどうかをとったマトリクスで考えてみます。

下の2つは、人材確保対策が必要な領域です。

どのような地域でも、人材確保対策が必要なことに変わりはありませんので、人材確保対策をしていない医療機関は、まずは人材確保対策から取り組む必要があるでしょう。

しかし、左上のように、人材確保対策に取り組んでいても、看護師が不足しやすい地域の場合、看護師不足に陥ることがあります。

その場合、看護体制を再検討することも必要です。

例えば、

・入院基本料や病床機能を見直し看護配置基準を下げる
・病床数を減らす
・准看護師や看護補助者で人員を補う
・非常勤看護師の組み合わせを検討する

等です。

特に入院基本料や病床機能の見直しは、難しい決断です。しかし、採用が難しい地域においては、経営を持続させるために必要な選択肢になります。

では、具体的にどのような地域が看護師が不足しやすい地域なのでしょうか。

看護師が不足しやすい地域とは

看護師が不足しやすい地域かどうかを見極めるための2つの視点をご紹介します。

1つ目の視点は、100床当たり看護師数です。

看護師は病床数が多ければ多いほど必要になります。地域にある病床数が多ければ多いほど、看護師の獲得競争が激しくなります。

そのため、「地域別の100床当たり看護師数」を比較することで、看護師が不足しやすい地域かどうかを判断できます。

100床当たり看護師数を都道府県別に比較してみましょう。比較しやすいように全国平均を0とした指数でグラフ化しています。

100床当たり看護師数

全国平均を上回っている都道府県を青色で上に伸びる棒グラフで示しています。全国平均を下回っている都道府県を赤色で下に伸びる棒グラフで示しています。

こうしてみると、100床当たり看護師数が少ない地域(赤色)は北海道・東北・四国・九州で、多い地域(青色)は東京・中部・関西であることが分かります。

実数値やランキングは以下にまとめていますので、ぜひご参考ください。

▽100床当たり看護師・准看護師数

100床当たりデータ

2つ目の視点は、離職率です。

看護師は女性が多く、結婚や出産など、ライフスタイルの変化による退職がつきものです。

しかし、離職率は地域によって差があります。

そのため、「地域別の離職率」を確認することで、看護師が不足しやすい地域かどうかを判断できます。

離職率についても全国平均を0とした指数で、都道府県別に比較してみましょう。

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離職率の低い地域を青色で上に伸びる棒グラフで示しています。離職率の高い地域を赤色で下に伸びる棒グラフで示しています。

こうしてみると、関東圏と関西圏で離職率が高く(赤色)、その他の地域で離職率が低い(青色)であることが分かります。

離職率の実数値は以下をご参考ください。

▽看護師の離職率

同じ看護師不足でも地域によって原因が異なる

さて、看護師が不足しやすい地域を「100床当たり看護師数」と「離職率」の2つの視点から確認してみました。

2つの視点をマトリクスにして表現すると次のようになります。

▽離職率と100床当たり看護師数のマトリクス

関係1

縦軸で100床当たり看護師数の多い、少ないを表しています。横軸で離職率の高い、低いを表しています。

このようにして4つのエリアに分けることで、各都道府県の特徴がみえてきます。

関係2

右上のエリアは、100床当たり看護師数が多く、離職率が低いエリアです。

4つのエリアの中で最も看護師不足が起きにくいエリアです。ただ都道府県別にみると、特別、このエリアに代表的な都道府県は見当たりません。日本の現状はそんなにあまくないですね。

強いて言えば、「山形県」「新潟県」が該当します。この2つの都道府県は、100床当たり看護師数が平均的で、看護師離職率が低いという特徴を持っています。

関係4

左上のエリアは100床当たり看護師数が多く、離職率が高いエリアです。

代表的な都道府県は、東京都、神奈川県、京都府です。

100床当たり看護師数は多い為、採用は比較的しやすい地域と言えます。しかし、退職者が多い地域である為、看護師不足から脱却するためには、離職防止の取り組みが重要になります。

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右下のエリアは100床当たり看護師数が少なく、離職率が低いエリアです。

代表的な都道府県は、徳島県、秋田県、福島県です。

離職率は低いため、一度採用ができれば、長く勤めてくれる看護師が多いです。しかし、100床当たり看護師数が少ない為、そもそもの採用が難しいことが特徴です。

採用力を高めることはもちろんですが、それでも現実的に採用が難しいこともあるでしょう。そのようなときは、看護配置基準を下げたり、准看護師や非常勤の積極活用を進めるなど、看護体制を見直すことも必要です。

看護配置基準を下げることで収入が落ちる可能性がありますが、その分、人件費や紹介会社に支払う手数料等の採用コストは削減されます。収支シミュレーションを行い利益ベースで意思決定していくことをお勧めします。

関係3

左下のエリアは、100床当たり看護師数が少なく、離職率が高いエリアです。

4つのエリアの中で、最も看護師不足が起きやすいエリアです。代表的な都道府県は「鹿児島県」「北海道」です。

このエリアにある地域では、離職防止に向けた取り組みも行いつつ、採用力を向上させていくことも必要です。当然、看護体制を見直すことも必要になります。

このように100床当たり看護師数と、離職率という2つの視点で、地域別の特徴をみることで、看護師不足の原因とその対策が見えてきます。

自分の地域の特徴を調べて、看護師不足からの脱却を目指しましょう。

【コラム1】看護師の採用環境で、入院基本料が決まる

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ここからは関連するおまけ的な話です。

看護師不足が起きやすい地域では、看護配置基準の検討も必要とお伝えしました。実際に看護師不足が起きやすい地域ほど、看護配置基準(入院基本料)を下げている傾向にあります。

一般病棟を届け出ている病院の入院基本料を都道府県別に調べていくとその傾向が見て取れます。

▽入院基本料の割合と100床当たり看護師数のマトリクス

7対1について1

縦軸に、7対1を届け出ている割合を取りました。上に行くほど多く、下に行くほど少ないことを表しています。

横軸に、100床当たり看護師数を取りました。右に行くほど多く、左に行くほど少ないことを表しています。

この図を見ると、100床当たりの看護師数が多い都道府県ほど(右にいくほど)7対1を届け出ている割合が高いことが分かります。

7対1について2

一方で、入院基本料15対1(現在の地域一般3)を届け出ている割合を見てみましょう。

15対1について1

縦軸に、15対1の割合を取っています。横軸は先ほどと同じく100床当たり看護師数です。

この図からは、100床当たり看護師数が多い都道府県ほど(右にいくほど)15対1を届け出ている割合が少ないことが分かります。

その逆に、100床当たり看護師数が少ない都道府県ほど(左にいくほど)15対1を届け出ている割合が多いことが分かります。

15対1について2

つまり、看護師不足が起きやすい地域(100床当たり看護師数が少ない地域)では、実際に看護配置基準を下げている病院が多いということです。

100床当たり看護師数が少ない地域で、高い看護師配置基準を無理に維持することは、得策とは言えないのかもしれません。

【コラム2】看護師と准看護師の関係

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もう一つ、おまけの話です。

看護師不足が起きやすい地域では、准看護師の活用も必要とお伝えしました。そのことに関係して、看護師と准看護師の関係を見てみましょう。

▽100床当たり看護師数と准看護師数のマトリクス

看護師、准看護師の関係1

縦軸に、100床当たり”准”看護師数を取りました。上に行くほど准看護師数が多く、下に行くほど准看護師数が少ないことを表しています。

横軸に、100床当たり看護師数を取りました。右に行くほど看護師数が多く、左に行くほど少ないことを表しています。

この図を見ると、100床当たり看護師数が多いほど(右にいくほど)、100床当たり准看護師数が少ないということが分かります。

逆に、100床当たり看護師数が少ないほど(左にいくほど)、100床当たり准看護師数が多いということが分かります。

看護師、准看護師の関係2

つまり、看護師不足が起きやすい地域(100床当たり看護師数が少ない地域)は、准看護師が多い地域であるということです。准看護師が多いのであれば活用しない手はありません。

地域の特性を無視して、看護師比率の高い加算を取りに行くよりも、地域の特性を生かした経営をしていく方が、安定した経営をすることが可能になります。

看護師数だけでなく、准看護師数にも注目して、市場調査をしてみてはいかがでしょうか。

【コラム3】看護師の採用市場の調査方法

最後に、看護師の採用市場調査の方法について簡単にご紹介します。

看護師数、准看護師数の調べ方

厚生労働省の「衛生行政報告例」で調べることができます。

ただし、こちらのデータは、都道府県別のデータになります。残念ながら市区町村別のデータはありません。

都道府県が行っている「保健統計調査」(埼玉県の例)で市区町村別や、保健所別の看護師数を公開しているケースがありますが、市区町村別データまで公開している都道府県は多くありません。

市区町村別のデータがあれば、より精度の高い市場調査が出来るようになりますので、ぜひ各都道府県にはお願いしたいですね。

病床数の調べ方

厚生労働省の「医療施設調査」で調べることができます。

医療施設調査では、病床数だけでなく、科目別や開設者別の病院・診療所数を調べることができます。

看護師の離職率の調べ方

日本看護協会の「病院看護実態調査」で調べることができます。

日本看護協会では毎年、前年度の実績として都道府県別の離職率を公表しています。ただし、会員限定の公開となっていますので、看護師等から情報の共有を受ける必要があります。

広く公表していただきたいものですが・・・、仕方ないですかね。

その他、今回利用したデータについては以下にまとめています。気になる方は参考にしてみてください。

おわりに

今回は、「看護師不足の3つの原因と対策は?|都道府県別データで解説」と題して、以下の事を説明しました。

1 看護師不足の3つの原因は、①病床数が多い ②離職が常にある ③働き方改革が進む。
2 看護師不足の対策は、①人材確保対策 ②採用環境に合わせた体制を検討。
3 看護師不足が起きやすい地域とそうでない地域がある為、市場調査をしたうえで具体的な対策を検討しよう。


今回の記事を含めて、「病院・介護施設の市場調査ができるようになるnote」シリーズでは、病院・介護施設の市場調査の方法を紹介しています。

取り上げる調査項目は以下の7つです。

調査項目リスト

今回の記事は、項目4の「医療職・介護職の需給状況」になります。

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以上です。

次回は、介護職の採用市場について解説していきます。

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