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カスタマーサクセスに必要な、たった一つの魔法、"YOURS"[後編]

前編はこちら

手厚い支援が仇(あだ)に

それほど難しいソリューションを導入したわけではありません。他の案件では、高齢者の方でも十分使いこなしており、該当SaaS自体が悪いわけでもありません

また、導入支援は他の案件の何倍もリソースをかけましたから、手薄だったとも思えません。

ただ、今なら何が足りなかったのか、分かります。

まさにYOURS(当事者意識)です。

利用に関わるスタッフ間で操作方法の理解が進んでいないことは、プロジェクト担当者は分かっていたはずです。しかし経営者にその件は報告していませんでした。担当者は、プロジェクトに全く積極的に絡んでくれませんでした。

経営者のYOURSも、足りていません。現場のプロジェクトの状況を確認に来てくれませんでした。定期的に同席を依頼し、現状報告を行っていましたが、私が話しかけても

「はい、はい。よくわからないから、私は、もういいです」

とそっけない対応を続けられました。結果、5ヶ月間、プロジェクトにノータッチでした。

これはIT導入に不慣れな企業ほど確実に起こりうる「YOURSのズレ」という問題です。お金を払ったからあとは何もしなくていい、と勘違いされてしまうことです

カスタマーサクセスは、その名が冠する通り「成功」というとてつもない巨大な期待値を背負っている部署です。にも関わらず、成功のために、手を出しすぎてはだめなのです。

大切なのは、YOURS(当事者意識)を醸成し、いかに顧客自身が「動いてくれる」状態を作るか、にかかっています。

成功を掴むべきは顧客自身です。カスタマーサクセス担当者の手助けありきの成功は、長続きしないのです。

サクセスするためには、いかに"自転車を漕いでもらうか"

"YOURS"があやふやなITプロジェクトは、基本失敗します。

・お金を払ってるので「面倒事は全部やらなくていいんだよね?」となる
・自分ごとではないから、宿題は基本後回しに
・経理など現場担当者にとって、プロジェクトが「余計な仕事」扱いされる
成果が出ないのは100%支援者のせい、となる

これらすべてが、YOURSの欠如によって発生します。そしてこの問題は、さらに悪化しがちです。

なぜなら、プロジェクトが上手く行かなくなればなるほど、カスタマーサクセス担当者は不安になり、手を出したくなるからです。

これが悪循環の始まりです。YOURSを醸成しなければいけないのに、つい過保護になってしまうのです。

カスタマーをサクセスさせないと」というプレッシャーのせいで、YOURSは遠のくのです。

結局、クライアントは独り立ちができません。

カスタマーサクセスのプロセスと子育ては非常に似ています。子供の成長のためには、成長機会は必要ですが、強制しても良いことはありません

ボールを渡すには、知識も経験も必要

ここまでの話を元にすると、

「なるほど、ではお客様に色々任せれば良いんですね!」

と思われるかもしれませんが、一つ注意が必要です。

当事者意識を持ってもらうことは大切です。しかし、丸投げすればよい、という意味合いではありません。

むしろ、相手にボールをわたす以上、逆に深い深いプロダクト知識と、それを活用する上での業務知識が必要です。

「ここからは、◯◯さんに作業を任せてみて、その裏で△△業務の移行を始めてはいかがでしょうか?」といった誘導提案ができるためには、業務知識と深い想像力が要求されます。

クラウド勤怠管理のKing of Timeさんのように、業務知識と製品知識を兼ね備えた素晴らしいサポート体制も、存在します。

しかし、大抵のSaaS企業のカスタマーサクセス/サポート担当者は、プロダクト知識はあれど、業務知識に関してはほとんど持ってないないというのが、私の実感です。

これは、例えば給与計算ソフトのカスタマーサクセス担当者自身はあくまで会社員であり人を雇用したことがありません。当然限界があります。想像で、説明するわけですから、実務担当者に知識で勝てません。

このユーザーとカスタマーサクセスの解像度の溝をどうやって埋めるのかというのも、SaaS業界の一つの乗り越えるべき課題だと感じます。

YOURS(当事者意識)を醸成する方法

ここまで、YOURS(当事者意識)について説明をしてきました。何よりも、成功を掴むのは顧客自身であり、その過程を奪いすぎてはいけないのです。

そして当社ではこの"YOURS"をさらに拡張して、「カスタマーがサクセスするために必要な8の診断項目」というものを作りました。

さて。

次のnoteでは、具体的なこの手法について説明したいと思います。

拙い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。

この小さな物語が、SaaSマーケットの役にたちますように。

令和2年6月5日 Iryo

頂いたサポートを元に、様々なことにチャレンジしていきます!