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Dinzu Artefactsについての考察/Matsumoto, Shiroishi, Watanabe - Yellow [Dinz Artifacts]

Artist: Matsumoto, Shiroishi, Watanabe
Title: Yellow
Label: Dinz Artifacts
Format: LP
Genre: Jazz, Improvisation
Release: 2022


アメリカ合衆国のロサンゼルスに拠点を置く実験レーベルDinz Artifactsより、琴奏者のKozue Matsumoto、サックス奏者のPatrick Shiroishi、尺八奏者のShoshi Watanabeの3名による共作LP。

Dinz Artifactsというレーベルは一体何を見据えているのか?
レーベルオーナーにもちろん会ったことも話したことも接点があったこともない。このため、自分自身の目というフィルターを通して、この疑問について考察したい。ただし、独断と主観によるものなので誤りなどが多く含まれているだろうが、広い心でご容赦いただきたい。

過去の膨大なリリースを見て分かるように、Dinz Artifactsは物音、ドローン、環境音などを中心に実験的なアプローチをしている楽曲、とりわけ一般的な音楽の形態からかけ離れた、それもメロディー皆無といった楽曲を制作しているアーティストを輩出している。

では、Dinz Artifactsの審美眼は何を見据えているのだろうか?

ここで今回紹介している本作が一つの判断材料にもなり得るのではないだろうか。

先述した通り、過去に膨大なリリースをしている中でも一際目立つ本作は、インプロビゼーションとしてのジャズという音楽の形態を成しているのである。一般的にある程度の範囲のジャンルを数多く輩出している中で、それらとは毛色の違うリリースがあったとき、それはレーベルにとって重要な意味合いを持つリリースであることが多いように思われる。

ここでDinz Arifactsがジャズのレーベルであると仮定するならば、今までのリリースに対する一つの基準が見えてくるように思える。

ジャズの一般的な魅力について言えば、即興であったりセッションであったりと、その場での刹那主義とも捉えることができると思う。これに物音やドローンがどう絡んでくるのかと考えたとき、時間軸を極小と捉えたものが物音に、極大と捉えたものがドローンであると見えるのではないだろうか。要するにジャズ音楽の恍惚とする瞬間をより細かく刻んだり、永遠とも言える時間に引き伸ばしたいのではないかということである。

顕微鏡や望遠鏡で観察するがごとく、Dinz Aritfactsというレンズを通して、ジャズの瞬間を拡大にも縮小にも解釈している、というのがこのレーベルの本質なのかもしれない。そういう視点で見ると、物音やドローンの音楽に対する視点も新たに広がりを見せ、今までとは違った解釈で楽しめるようになる。ただ音楽として物珍しいだけでもなく、ただ尖ったことを実践しているだけでもなく、一つの可能性として、それらの裏側には繊細かつ人間的な感性と音楽に対する膨大な経験が潜んでいるのかもしれない。


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