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娘のロンパースをメルカリで売った

4月に入って急に断捨離熱が高まり、これまで手付かずだった、サイズアウトした子ども服や子供用品を片っ端から売りまくった。

ほとんど使わなかったプラスチックの哺乳瓶を売り、サイズアウトした息子の靴を売り、服を売った。

息子がこれ無しには寝られなかったスワドルアップを、ためしにオキシクリーンでつけてみると綺麗になったのでこれもまた売った。
毛玉もあるものだったけれど、存外すぐに売れた。

勢いが出てくるとハイになり、部屋中を見回して、ほかにも売れるものがないかと探した。

一読しただけのいくつかの綺麗な本も売り、出産祝いでもらったもののどうにもこうにも使わなかったものも、ついに売った(ごめんなさい…)。

メルカリの自分のプロフィール欄に、いままで自分と親しかったものが一つずつ並んでいく。
それはちょっとしたアルバムのようで、ただ捨てるよりも心穏やかで居られることは発見だった。

毎日3,4個の小包を作り、保育園に行く途中のコンビニでせっせと発送した。

最初はドキドキしながらやりとりをし、梱包発送していたものが、やっているうちにすっかり手馴れていった。

使わなくなったものが一つずつ部屋から消えていくにつれて、すっきりとした解放感や達成感を感じていた。


そんなことを毎日して一週間ほどたった今日、なかなか売れずに残っていた娘のロンパースセットが、ぽろりと売れた。

まだまだ着られるものを集めたセットだけれど、中古ということもあってかなかなか売れず、写真を撮り直したり価格を下げたり、試行錯誤していたものだった。

やっと売れた。
そのはずが、おなかの中を持っていかれるような寂しさに襲われた。

クローゼットから、すでに一枚ずつ畳んでセットにしていたそれを取り出してくる。
出品写真と見合わせて、内容の違いがないことを確かめる。

いちばん上にあった、特にお気に入りだった水色に白い花柄がついたロンパースを、まじまじと見た。

ふいに心許なくなってカメラロールを辿り、その服を着た半年前の娘が一生懸命寝返りがえりの練習をしている動画を凝視した。静かで薄暗いリビングのテーブルで、二度、三度、それを巻き戻した。

そしてその服たちを丁寧に水避けのビニールに包み、封筒にまとめ、駅のポストから発送した。


帰り道はすっかり春景色で、今年は遅かった桜が満開になっていた。

道が変わると今度は菜の花が連なっている。
菜の花の、茎が凛とまっすぐに伸びるところも、枝に余白を残したような可憐な花の咲き方も、とても好きだなと思いながら歩いた。

ベビーカーの娘はすっかり眠ってしまっていた。
もう10か月になった。1歳になるのもあっという間だろう。

なんでもニコニコとよく食べて(お口の中が空っぽになると、満面の笑みで右手を上げるのだ。可愛すぎて毎日くずれ落ちそうになっている)、
布団におろせば毛布をひしっと掴んで口元にあてながらすーっと寝る。

あまりに手間のかからない子で、さらに3歳の息子にまだまだ振り回されている毎日。息子の時と比べると、3倍も5倍もあっという間に成長してしまっている感じがする。

娘を産んだ直後は、あまりに新生児が可愛く、これで出産が最後になるなんて考えられない。絶対に3人目が欲しい、と思っていたのだけれど、生活していく中でどうしても、ひとり子供が増えると、ひとりにあげられる時間が少なくなる現実と直面した。

息子も娘もかわいいあまりに3人目に対する気持ちが徐々に薄まり、踏ん切りをつけるために、一度、全部売ることにした。


ああ。もうすぐ私は「赤ちゃん」という存在を失う。ひょっとしたら永遠に。

息子を育てているときの自分が聞いたらびっくりするだろう。
何言ってるの、成長してもまだまだ一緒にいるじゃないのと。

もちろん、娘という存在と別れるわけでは全くない。
赤ちゃん時代に手がかからなかった分、これから思春期なんかにものすごく手がかかる子になるかもしれないし、まだまだ向き合う時間が長く長く待っているはず。

そうなのだけれど、やわらかくて、あたたかくて、思うようにまったくならない、このどうしようもなく可愛い生き物は、
私のことを全身全霊で求めてくれる赤ちゃんは、やっぱり成長していってしまう。その成長に、まだまだ気持ちが追いつきそうにない。


家に帰ってクローゼットを見ると、お気に入りで沢山着て、破れ目もあり出品するのを諦めた娘のロンパースが2枚残っていた。

柔らかい柔らかいその服を顔に当てると、あの狂おしい赤ちゃんの匂いがした。
残しておいて良かった。本当に良かった。

この2枚はもう、死ぬまで手放せない気がした。少なくとも今は、とてもじゃないけれど。




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