ストーリーサークル1「題材」
ストーリーサークルは僕が考える「物語を捉える指針」です。
原形は100文字小説大賞の選考をした際に考えついたもので「100文字小説大賞」最終選考会の音声でも解説していますが、その後、考え方が深まりサークル内の項目を入れ換えました。
また、読書会では前説として三幕構成やビートシートなどと併せて必ず触れています。
ストーリーサークルの考え方は、企画など物語を創作する上でも使える指針なので、1つずつ説明してみようと思います。
サークルの見方
ストーリーサークルは三つのサークルが重なった図ですが、これは数学でベン図と呼ばれる、よくある図なので言わんとすることは、直感的にお分かりなるかと思います。
大きな三つのサークル「視点」「題材」「人物」の三つが重なりあったところに「物語」が置かれています。
「物語」は小説や映画と置き換えて考えてもらって構いません。
つまり「視点」「題材」「人物」という3つの大きな要素によって「小説」が成り立っていると言えるのです。
この3つのサークル=3つの要素について個別に説明していきます。
今回は「題材」についてです。
「時空」としての題材
題材とは、その物語が扱ってる題材です。ジャンルと似ているところもあります。
「戦争もの」「ホームドラマ」「ミステリー」「ラブストーリー」……
こういったものはジャンルとして、よく使われる言葉です。
「戦争もの」をもう少し、分類していくと「世界大戦」でも第一次なのか第二次なのか、あるいは「十字軍の遠征」や「アレクサンダー大王の領土拡大」なのか。
日本でいえば、戦国時代なのか、源平合戦なのか、神話をもとにしたヤマトタケルの遠征だってあります。
SFであれば「エイリアン」や「超能力者」との戦争」(たとえばX-MEN )
古い時代の話になると「歴史もの」になるかもしれません。
そういった、大雑把な括りがジャンルの分け方です。
あくまで、レンタルビデオ店の棚や、映画紹介上の、分類に過ぎないのです。
それに対して「題材」は、もっと端的に捉えます。
一言でいえば「時間」と「空間」、
物語が「いつの」「どこの」話なのか?という捉え方です。
「太平洋戦争中」の「日本」というのは、ひとつの言い方ですが、企画・創作していく上では、もっともっと具体的にしていくことで「ドラマ」が浮彫になってきます。
日本による真珠湾攻撃は1941年12月8日で、これによって「太平洋戦争」が始まったとされますが、物語の「時間」が、
1941年の12月31日なのか?
1945年の7月頃(敗戦前)なのか?
で、まったく変わります。具体的に資料などを調べていけば、数ヶ月違うだけで全く変わるでしょう。
また、「空間」についても、ただ日本とするのではなく「東京」なのか、軍事工場が多い「広島」なのか、疎開先の「青森」なのかで、全く違います。
この意味では「題材」には「物語の舞台」という言葉を含むと考えてかまいません。
例では、わかりやすく歴史上の「時間」「空間」で考えましたが、現代の日本でも、東日本大震災やコロナ拡大前なのか後なのかで、変わることは想像にかたくないでしょう。
作者が、おぼろげに想定している「時間」「空間」を、具体的にしてみることが、ストーリーサークルとして「題材」を考える意義のひとつです。
「設定」としての題材
「時間」と「空間」を具体的に想定していくことは、歴史に限らずSFやファンタジーでも当てはまります。
SFをイメージだけで、ぼんやりと「宇宙旅行」をしている設定などにせず、
現代からつづく未来の年譜を想定して、
「今から100年後にこういう技術が開発され、それによって宇宙旅行が可能になった」
というところまで想定していくことによって「宇宙船」のつくりや原理などが変わってくるはずです。オリジナリティが出てくるのです。
そういうことを考えない場合、過去の名作のクリシェになってしまいます。(※クリシェについては「オリジナリティを出す」参照)
ファンタジーやアニメなどで使われる「魔法」や「超能力」についても同じです。
「魔法は誰でも使えるのか?」「生まれによるのか、修行によるのか?」「使うには何らかのエネルギーや道具が必要か? 無限に使えるのか?」・・・
こういった「設定」(あるいはルール)が必要です。(※設定については「設定」と「構成」のちがい参照)
ただ漠然と「魔法が使える世界」とはせずに、具体的な「設定」を考え、オリジナリティを出していくことは、ストーリーサークルとして「題材」を考える意義のひとつです。
「ネタ」としての題材
すでに説明した「時間」「空間」「設定」の部分を想定してみます。
「時間」は2020年12月6日(これを書いてる日です)
「空間」は東京の巣鴨(「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる高齢者の多い街です)
「設定」として、超能力やファンタジーな要素は一切いれない、とします。
これだけだと「題材」が何なのか、いまいちわかりません。オリジナリティが弱いのです。
こんな「題材」のまま、主人公を想定していくと、地味なストーリーになりそうなのは、想像できるかと思います(次回、説明する「人物」が際立っていれば「題材」が弱くても成立はしますが)。
では、ここにもう少し「題材」としてのオリジナリティをくわえてみます。
たとえば「おばあちゃんの原宿こと巣鴨で、100年以上つづいている老舗和菓子店の家族」では、どうでしょう?
そのネタだけで、ビッグコミックあたりに連載してそうな一話完結の「ちょっといい話」系のマンガが浮かんできませんか?
あるいは「巣鴨にある、高齢者専用の学校がある」というのファンタジー設定にしてみたら、どうでしょう?
おじいちゃん、おばあちゃんの学園モノストーリーになるかもしれません。
そこに転任してきた、新米教師を主人公にすることもできるかもしれません。
「ネタ」としての題材は「時間」「空間」「設定」と重なる部分があり、厳密にわけることなどできません(する必要もありません)。
重要なのは、物語で扱ってる「題材」にオリジナリティがあるのか?という指針なのです。
次回はストーリーサークル「人物」について説明していこうと思います。
緋片イルカ 2020/12/06