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デザインの力が、中川政七商店の事業・顧客・ビジョンをつないでいる

#わたしが応援する会社 で書きそびれた、中川政七商店の経営について学んだことをまとめたい。

インプットは、2/14に(うちの会社で)開催されたセミナー『デザイン経営の解剖学 〜ユニークな組織と文化のつくりかた〜』から。

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ビジョンに仕える

このセミナーで、中川政七商店 現社長 千石あやさんの話を1時間聴いた。千石さんはとてもチャーミングで、優しく落ち着いた感じの経営者だった。社長交代のエピソードも素敵だ。あくまで『みんな、社長ではなくビジョンに仕えている』という認識があっての事業継承。

『ビジョンも変えていこうと思ってんねん、まかすわ』だったら『お断りします』ってなったと思います。『日本の工芸を元気にする!』というビジョンと、『こころば』という心構えの10カ条、それは変えない。


私は2010年の書籍『ブランドのはじめかた』以来の中川淳ファンだ。……というわりに、中川政七商店ブランドを積極的に選んで買うようになったのは、ほんとうにここ数年なのだけれど(推しアイテムについては後述)。いちファン顧客の視点で、経営論を聞けるのは面白い。


カリスマ社長の第13代中川政七さんから、実務肌の千石さんにバトンが渡された過程で、会社としてのビジョンはかなり明確に整理され、言語化の解像度が上がっている。

「日本の工芸を元気にする!」

という元々のビジョン・ステートメントに、

「なくなったら惜しい、残したい」

という、千石さん流の「解釈」が加わった。


これまで、「日本の工芸を元気にする!」ためのアプローチとしては、中川さんが主導する工芸分野特化の「経営コンサルティング事業」の方が、脚光を浴びてきた。ただ、「日常業務」と少し離れた経営コンサルティングだけでは、ビジョン実現の説明ができない。

ここで千石さんの付与した言葉が、《本業》である「工芸SPA(製造小売)事業」=ものづくりの活動自体も、ビジョン実現に確実に貢献することを明確にしている。

より「個々の作り手」が意識されることで、

①「売れるものをつくる」ためのデザイン(プロダクト、パッケージ)

②「つくったものを売る」ためのデザイン(コミュニケーション)

この両軸が、日々の仕事=つくること、売ることが、直接的につくり手の経済的自立と誇りに作用して、ビジョンの実現に貢献することを実感しやすくなる。

ビジョンは「柱」としてどんと立てることも大事だし、解像度を上げたり、粒度を細かくして、確実な浸透を図ることも必要だと改めて理解した。社内コミュニケーションでは、リンクアンドモチベーション出身の副社長・荻野さんも含め、かなり工夫を凝らしているそうだ。


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デザインの力を内部化する

中川政七商店のストーリーにはたびたび、GOOD DESIGN COMPANY 水野学さんの名前が登場する。

2頭の鹿が「七」という文字の脇に並ぶ、あたかも創業当時からあるかのような、古風なロゴ。これこそ水野さんが「中川政七商店らしさ」を突き詰めてごく初期に提案したデザインだという。水野さん自身がブランディングデザインを語る著書や講演などにも、中川政七商店のケースがよく登場する。

このロゴの世界観から一貫したトーン&マナーで、商品パッケージ、店頭・売場空間、さまざまなコミュニケーションのデザインが展開される。


経験豊富なクリエイティブディレクターである水野さんだが、あくまで「外の人」として、関与は一部に留まる。彼に触発されながら、ひとつひとつの商品にデザインを落とし込んでいくのが、インハウスデザイナーの役割だ。

私は「インハウスデザイナー」の存在こそが核だと思った。

千石さんは、企業の力を

《競争戦略》×《組織能力》×《ビジョン》

の式で表現した。

SPA=Speciality Store Retailer of Private Label Apparelという業態は、通常「小売の会社が製造に進出する」ケースと説明されるけれど、製造卸から直営店での小売強化に動いた中川政七商店の狙いも同じ:顧客のニーズを対面店舗で細やかに拾い、ものづくりに反映させること。

小売で勝負するためにも、相当絞り込んだ差別化で闘わなければ勝負にならない。デザインへの投資は、競争戦略のコアになる。


水野さんの力を借りて、ビビッドな《競争戦略》をデザインしたあとは、それを隅々まで浸透させ、継続的に使っていくための《組織能力》を持つことが重要になる。デザイナーを組織の一員として抱え、事業活動の中心ではたらいてもらうことが、組織能力をぐんと高めることになるということだ。


デザイナーの仕事だけが商品の企画ではないけれど、装飾的な部分だけではなく機能的な部分も含めて、デザインはビジネス上の核を担う活動だ。

だから中川政七商店にとってデザイナーの存在は、対外的な経営コンサルティングと同等の価値を持つのだと思う。


ここまでが、セミナーを聞いて私が感じた、中川政七商店流の『デザイン経営』のかたちだ。

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おまけ:推しアイテム紹介

さて、最後に中川政七商店ブランドの個人的な「推しアイテム」を3つ紹介したい。

花ふきん2008年グッドデザイン賞金賞受賞、奈良の伝統的な「蚊帳織り」を活かした主力商品だ。安価なほうの「かや織りふきん」に比べても相当値段は張るが、吸水/乾燥/汚れ落ち、どれもほんとうに圧倒的に高機能で使いやすい。国内外の大切な人へ、プレゼントするのにもぴったりだ。長く使いたい。イチオシは猫柄の「はにゃふきん」(ECは現在売り切れ。一昨日見たら京都ラクエの店頭にはあった)。


土鍋。うちは炊飯器を持たずに土鍋で毎朝ご飯を炊いている。インフラとして。

先日「一号」を派手に割ってしまい、どうしようかな……と一瞬悩みつつも即座に「二号」を注文して今も使っている。大きさも重さもちょうどよく、フォルムも色味も本当に美しい。


筆ペン。これは土鍋一号を買ったときに、送料無料にするのに何か……と探していて閃いたものだが、使ってみると本当に心地よく、鹿紋にとてつもなく愛着が湧く。カートリッジ方式でインクが詰め替えられる。これは「万年筆」だろう。長く使いたい。この筆ペンを活かすために『筆ペン練習帳』も購入した(これはAmazon)。

あと、行動上のおすすめは、創業の地・ならまちにある、遊 中川の本店に行ってみること。


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近日中に、昨日注文した2冊の書籍——『経営とデザインの幸せな関係』と『中川政七商店のものづくり ものざね』が到着する予定だ。いち消費者として、ブランドともに暮らしながら、デザイン経営の勉強は続く。


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