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『水ba』イベント開催で1500万円を超える大赤字~独りよがりじゃ、まちは変わらない~

前々回、前回の2回にわたり、大塚を変革するプロジェクト「ironowa ba project(いろのわ・ビーエー・プロジェクト)」に加わってくれた仲間として、スパイスワークスHD代表の下遠野さん(ba02「東京大塚のれん街」)と対談させていただきました。

下遠野さんをはじめとして、個性溢れる仲間がこのプロジェクトに加わってくれているおかげで、大塚の街の魅力に深みと多様性が生まれ、僕たちが大塚で目指す「36.9℃のカラフルな日常」の実現に近づくことができていると思っています。

ただ、「想いを同じくする仲間とつながりをつくり、プロジェクトを形にする」プロセスは、当初想像していたより何倍も難しいものでした。

今回は、山口不動産が単独でイベントを主催したときの、苦い経験を振り返ります。

非日常的な夏の夕涼みイベント『水ba』を企画

2018年5月に、ba01の「星野リゾートOMO5東京大塚※」と、ba02の「東京大塚のれん街」を無事にオープンさせた後、ba01の地下に卓球パブ「ping-pong ba」をつくる準備をしていた頃のこと。※現在は「OMO5東京大塚by星野リゾート」に名称変更

僕はふとしたきっかけで、木材を取り扱う企業の幹部の方と知り合い、「間伐などで使い道のない木材を使って、何か一緒にイベントができないか」という提案をいただきました。

イベント開催予定の季節は夏。ということで思いついたのが、ba02に隣接する駐車場に木材を組み立てて、「足湯」ならぬ「足水」ができる掘りごたつ型の客席を作り、ビールを飲みながら夕涼みができるイベント。題して『水ba(ミズバ)』でした。

蒸し暑い夏に、♪冷たい泉に素足をひたして 見上げる星野リゾート~♪(ちょっと古いかもしれませんが・・)なんて口ずさみたくなる雰囲気の中で、ビールを楽しむ・・非日常感を味わえて、ちょっと艶っぽさもあって、カップルや男女グループで来たらきっと盛り上がるだろうな。想像するだけでワクワクして、すぐに開催実現に向けて動き出しました。

現場設営、飲食提供に、集客。責任をすべて自分で抱え込んだ結果・・

とはいえ、当時の山口不動産のメンバーには、自社所有ビルからの家賃徴収や管理・メンテナンス以外の仕事をほとんど任せていませんでしたから、当然、イベントの企画・運営の経験はありません。

本来であれば、現場のデザイン・施工、飲食提供のオペレーション、集客の計画、それぞれに責任者を置いて、僕が全体を見る、という体制を整えるのが理想的です。しかし当時の僕は、「人に任せてマネジメントするより、自分が窓口をやってしまった方が話が早い」と考えて、そんな体制づくりをせずに、すべてを自分主導で走り出していました。

自分がすべての部門の意思決定をすれば、スピーディーに動けることは間違いありません。イベントの規模は比較的小さいものでしたから、僕主導でも準備を進めることはできると考えていました。

四苦八苦しながらも『水ba』はどうにか形になり、2019年7月の終わりにオープンすることはできました。

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イベント開催期間は2カ月間。そこそこの数のお客様に来場いただけたものの、当初思い描いていた盛り上がりにはどうも程遠い。振り返ると、プロジェクトのあらゆる局面において準備も当日のオペレーションも詰めが甘く、終わってみれば、目標としていた来場者数を大幅に下回り、1500万円を超える多額の赤字を計上してしまいました。

大赤字が教えてくれたこと

こうした非日常的なイベントを訪れたとき、気持ちが盛り上がる要素って何でしょうか。僕は、それを決定づけるのは「ディティール」だと思っています。

駅から歩いてイベント会場が見えてきた時の高揚感、その場で出会ったスタッフさんと交わす言葉、その場所らしさを味わえるお酒や食事。

大塚駅側から現地を見たときにテンションが上がるような外観ってどんなものだろう?目隠しの高さや席配置はどうしたら心地良いだろう?どんなメニューを提供したら、来場したお客さまが「美味しかった」って周りにも拡散してくれるだろう?

振り返ってみれば、なんとかお客様を迎え入れられる状態こそ整えたものの、こうしたディティールについて考え抜いて、お客様の期待を超える場とサービスを提供するまでには、到底至っていませんでした。

一人で責任を抱え込んでいては、この狭い会場に来てくれる人たちすら、十分に満足させることが出来ない。

この『水ba』での経験は、大塚に暮らす人、働く人、訪れる人の体温があがるようなまちをつくっていくには、このビジョンに共鳴し、積極的にコミットしてくれる人材が必要だと、身をもって実感させてくれました。

『水ba』から2年。当時と同じ場所で、ビアフェスを開催

『水ba』を終えた後から、僕は「ironowa ba project」を推進していくために必要な人材の採用に乗り出しました。

この2年の間に、経験もさまざまで個性豊かな4名のメンバーが山口不動産に加わりました。

以前から山口不動産を支えてくれている社員も含めて意識してもらっているのが、「大塚の街を一緒に変えていく仲間とつながる」ことです。

その成果が表れたのが、2021年10月に開催されたビアフェス「North Tokyo Okto ba fest.(ノーストウキョウオクトーバーフェスト)」でした。

このビアフェスの企画を持ちかけてくれたのは、大塚駅南口にあるビアバー「Titans(タイタンズ)」さん。

インポーター(輸入事業者)であるTitansさんが取り扱う海外のビールや、豊島区・板橋区など東京北部のブルワリー(醸造所)で作られたビールを楽しめるビアフェスを大塚で開催したい、というものでした。

山口不動産は、かつて『水ba』を開催した駐車場をビアフェス会場として提供し、集客にも協力させていただくことにしました。

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結果は、2日間で2,000名を超える方が来場する大盛況。出店して頂いたビール店の方々も、想定以上の売れ行きに驚いたほどでした。

山口不動産は、今回主催者ではなく協力という立場でしたが、社員それぞれが自分の得意分野を活かして、クラフトビール店との関係づくり、コアなクラフトビールファンに届くような広報PR、ビアフェス会場とba01(eightdays diningとping-pong ba)を結んだ回遊動線づくりなどを行ったことで、イベントの成功に多少なりとも貢献できたのではないかと思います。

2021年3月に竣工した大塚駅北口駅前広場(ironowa hiro ba)の様子を、テンション高めにSNSにアップしてくれた来場者さんもいました。豊島区と協力しながら、ユニークなデザインの広場を整備したことも、駅を降りてイベントへ向かうひとの気持ちを高揚させるのに効果があったのではないでしょうか。

「つながり」を作り続けなければ、まちは変われない。

かつての山口不動産は、あらゆる部門の意思決定を僕一人で行っていました。それがここ2年くらいの間で、まだまだ途上ではあるものの、社員それぞれが任された部門に責任をもって自走する組織に変わり始めています。

僕ひとりが指示役で社員がそれに従うだけの組織では、プロジェクトの規模を拡大するには限界があります。

さらには、仮に社員全員が自走できるようになったとしても、山口不動産だけがプロジェクトを先導するのでは、まちをより良く変えていく継続的なサイクルは作られません。

目指すのは、僕がいなかったとしても、社員一人一人が山口不動産の顔となって主体的に動き、想いを同じくする仲間を増やし続けていくこと。そうすれば、「そこにいれば、つながりを感じられる」まち・大塚は、加速度的に実現に向かっていくはず。

「ba」というブランド名にも込めた「つながり」に僕がこだわるのは、これが理由です。「つながり」をつくり続けること無しに、まちの変革は叶わないのです。

僕たちと想いを同じくする仲間は、大塚の街に少しずつ増え始めています。

例えば、第10話でご紹介した、大塚の街の清掃活動「#CleanUpOtsuka」。2021年4月に山口不動産の社員のみで始めた清掃活動でしたが、徐々に大塚の企業や店舗、住民の方が参加してくれるようになり、7月には100人、11月には200人が集まってのゴミ拾いイベントを開催できるまでになりました。

200人でゴミ拾い

社員たった7名でも、仲間とつながることでここまで出来る、と実感した一方で、参加してくださった方々が「面白い」「また来たい」と思ってもらえるには、まだまだ改善の余地がありました。

現状に慢心することなく、大塚に暮らし働く皆さまの期待値を超える取り組みを、これからもどんどん仕掛けていきたいと思っています。

大塚のまちが変わる大きなうねりは、まだ動き始めたばかりです。

次回は、世界的デザイナー・コシノジュンコ(JUNKO KOSHINO)さんとの対談。コシノさんは、池袋にあるグローバルリングシアターで9月、オペラ・オーケストラ・バレエ・モードの各界のスターが共演した『TOSHIMA ARTS LIVE 2021 』を新たな野外エンターテイメントとしてプロデュースされたばかり。豊島区全体から大塚、これからのまちづくりについて語り合います。

大塚のまちをカラフルに、ユニークに

大塚が変わるプロジェクト「ironowa ba project(いろのわ・ビーエー・プロジェクト)とは?(▼)




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