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安全確保に必要な2つのこと

「太郎くん!! もうちょっとスムーズに運転できないの?」

車の運転中、妻はしばしばこう言います。
無理もありません。私は車の運転が超絶下手な自覚があります。

前を運転していたバスが停車して、車線変更ができずに、バスが発車するまでそのまま停車したままなんてことはよくあります。

私としては事故ったわけではないのだから、「そこまで言わなくても」と
思うときもありますが、妻からは危なっかしくみえるのでしょう。

私が運転する車に乗るだけで「怪我しないか?!」とか、「ぶつけたら車を売る時に値段が下がる!」とか考えてハラハラしているのだと思います。

けれども、私はかれこれ10年程運転してますが、他人様に怪我をさせるような事故を起こしたことがありません。運転技術はありませんが運転免許はゴールドです。

なんで事故らないのか?
少し考えてみました。

  • スピードを出さないから(1人で運転する時は高速道路を 80km/h で走るなんていうのも普通です)。

  • 外に出る時はかなり余裕を持って家を出るから。(Googleマップで所要時間が1時間と表示された場合は、2時間前には家を出ます。)

  • 車線変更に苦手意識があり、極力後ろの車が全て自分の前方に行ってから車線変更をするから。

総じて言えることは身の程をわきまえてリスクを取らない運転をしているということでしょうか。

では、私以上に運転技術がありながら、事故を起こしている人がなぜいるのでしょうか?

運転技術がある人の中には、私に比べて積極的にリスクを取る人がいると思われます。

私以上にスピードを出すのでしょう。想定より時間がかかるなんて経験もあまりないので、Googleマップ通りの所用時間をもとに家を出るのです。チンタラ走っている車があれば、すぐさま車線変更をします。

これらは全て、歩行者や車との接触リスクを上げる行為だと考えられます。

ではなぜこれらの行動を取るのでしょうか?

それは「所要時間通りに目的地に着く」という利益の獲得を目指しているからです。


場所を変えて、より危険だと思われるものづくりの現場においてはどうでしょうか?製鉄所を例に紹介します。

結論から言うと、「積極的にリスクをとり、利益の獲得を目指す」ということは起こり得ます。

製鉄所での作業は、決まった出荷日までに要求された品種・数の製品を揃える必要があるわけですが、圧延ラインに通すだけで製品がいつも準備できるわけではありません。

モノによっては製造途中についたキズを削ったり、倉庫に保管してある製品を仕様通りの長さに切る必要があります。

例えば、倉庫にある半製品を仕様通りの長さに切断する必要があり、5日後までに1000本用意しなければいけないとします。

その時にありがたがられるのは、1日に100 本分しか製品を切れない人でしょうか?1日に250本分切れる人でしょうか?

当然後者です。

管理者としては、納期に間に合わせることができる人の方がありがたいに決まっています。客先からの信頼を損なわずに済みますし。多くの残業代を払わなくても売上が見込めるからです。本当にありがたい人材でしょう。

しかし、いくら熟練者といえど無理に多くの製品を捌こうとするとどういうことが起きるのか。

切断機が完全に停止する前に製品に触れ、手を切るかもしれません。
設備の中にまだ人がいるのに、製品を搬送させて、他の作業員を骨折させてしまうかもしれません。

多くの現場では怪我をしないようにルールを作成して、それを遵守していますが、そのルールを破るというリスクを取った結果、作業員が怪我をする労働災害が発生するのです。

普段の生活においてもですが、製鉄所の中でも怪我をするのは決して喜ばしいことではありません。

かすり傷程度ならいいかもしれませんが、指の切断などといったような事案を出すと、なんとも痛ましい嫌な気持ちになりますし、何よりも被災された方やご家族の生活に不自由をかけてしまいます。

さらに近年コンプライアンスの重要性が特に叫ばれていますので、企業としても確実に安全を確保し、従業員を危険にさらさない、コンプライアンス上問題ない会社であることを証明する必要があります。

そのための活動としてはどのようなものがあるでしょうか。
考えてみたいと思います。

「安全に関する活動」が何もない状態では、多くの製品を切断することだけを考えていればいいわけですから、リスクをとることによる利益は大きいものでしょう。

そのままルールを無視していると、段々リスクをリスクと思わなくなっていきますからリスクを取る行動のコストは下がっていきます。

つまり何もしなければ、リスクを取ることによる利益が依然としてあり、リスクを下げる行動のコストは上がってくるわけです。

この事態に抗うような「リスクを取りづらくする」活動に取り組まなければなりません。

このためには大きく分けて次の4つの活動が考えられます。

  1. リスクをとる行動の利益を減らす。

  2. リスクをとる行動のコストを増やす。

  3. リスクを下げる行動の利益を増やす。

  4. リスクを下げる行動のコストを減らす。

1.に関しては「操業よりも安全が優先することを定期的に教育すること」でしょうか。収益は大事なことですが、危険を冒してまで取り組むべきことではないということを繰り返し伝えることで、操業の価値を相対的に下げることが期待できます。

2.に関しては「罰則」が考えられます。故意にルール違反をした作業員はクビにできないまでも、当該の職務から外れてもらうといったことでしょう。これにより他の作業員に対しても緊張感が生まれ、ルール違反を犯しづらくなります。

3.に関しては「表彰制度」が当てはまります。
例えば、*指差呼称を丁寧に実行している作業員を表彰する、といったことです。これにより安全作業をすることの価値の向上をはかります。

*KY(危険予知)活動の一環として、作業対象、標識、信号、計器類に指差しを行い、その名称と状態を声に出して確認することです。

職場のあんぜんサイト’より引用

4.に関しては「作業負荷を軽減させること」があります。
先ほどの製品切断の例でいくと、半製品を仕様通りの長さに切断する必要がありますが、その位置決めを毎回切断機の中に立ち入って確認していたのでは、時間がかかって仕方ありません。

その作業負荷を軽減させることために、カメラを設置し、設備の外からでもモニターを通しての位置決めができるようにすることで、ルール違反するリスクを下げることができます。これら4種の活動は、全て人の手によって作り上げるものです。

これらは作業員が「リスクを取りづらくする」ための活動といえます。泥臭く、効果が実感できるまで時間がかかるものですが、安全な職場を作るには必要なことだと思います。大事なのはこれらの活動にただ取り組むということだけではなく、これらの活動を通じて「リスクを取らない作業をすることが当然」という風土を作っていくことです。

が、


これだけでは不十分です!!


というのも、これらの活動は作業員が認知できているリスクに対してのみ 有効だからです。

慣れた作業といえど環境は次々に変化します。
設備のメンテナンスをすることがあれば、クレーンが普段は通らないルートを通ることもあるでしょう。切断機の上部をクレーンが通ることがあれば、吊っていた荷が落ちてくるかもしれません。

普段クレーンが通ることはありませんから、オペレーターは自身の上部のことなど気にも留めないでしょう。

このようなことを避けるため、現場の作業員は、仕事を始める前に、1日の作業の流れを整理し危険予知(KY)をしなければなりません。

管理・監督者はパトロールにより作業員に注意喚起しなければなりません。
現場のことを一番よくわかっているのは作業員ですが、それでもリスクを見過ごし、周辺のリスクに気が付かないことがあります。

管理・監督者としてはリスクを見つけたら、それをしっかりと認識してもらうために、一旦作業を止めてしっかりと対話をする必要があります。

された側としては、気分のいいものではないでしょうが、労働災害は起こってからでは遅い。「リスクを認識しておくこと」は「リスクを取りづらくすること」以上に重要なのです。


日常生活において、車の運転をする時に注意をしなければならないことは、前車との距離、歩行者・自転車の有無、車線変更のタイミング等多岐に渡ります。

私が運転している時、助手席にいる妻は、運転している私よりも広い視野で前を見ることができているはずですから、より多くのリスクが抽出できているはずです。

運転手のみでは認知できないリスクを、助手席の人間が伝えるということはまさに日常の安全を確保する上で必要なことなのかもしれません。




あんまり言われると、「イラッ」ときますが•••


*参考文献
事故がなくならない理由(わけ) 安全対策の落とし穴 (PHP新書)  芳賀 繁著

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