SS【くじ運の無い男】
今日のぼくはついている。
ショッピングモールで二千円以上お買い上げごとに一回できるくじ引き。そのくじで大当たりを引いた。
ハンドルをぐるっと回すと見たことのない金色の玉が出てきたのだ。
白い玉しか入ってないと思っていたぼくは心底驚いた。
玉を手に取った店員さんはすぐに玉を片付け、当たり鐘を力強く鳴らして「おめでとうございます!!」と叫んだ。
結婚式でもあるまいし恥ずかしいからやめてくれと思いながらも、予期せぬ幸運にテンションの上がるぼく。
同時にぼくは冷静さも失わなかった。
店員がすぐに片付けた金色の玉は微妙に大きく見えた。
だから不思議だった。
当たり玉は数が少ないだけではなく軽いと聞いたことがある。抽選機の中では重いハズレ玉の方が穴のある下へいきやすい。それに加えて微妙に大きいとなれば他の小さいハズレ玉が出やすいのは当然だろう。
では今回なぜ、クジ運の無いぼくが幻とまで言われた一等を引き当てたのか?
というより景品の並べられているテーブルに、一等のテレビが無いではないか。
すると別の店員が小走りにやってきて「鐘を鳴らした店員に「違う!! 違う!!」と小声で言った。
ぼくが聞き耳を立てていると、一等は数分前にすでに出ていて、たまたま席を外していて知らなかった店員が鐘を鳴らしたのだ。金の玉は手違いで二つ入っていたらしい。
ハンドタオルを受け取り去っていくぼくの背後からは、「かわいそう」という声が聞こえてきた。
食料品とハンドタオルの入ったお買い物袋を手に駐車場へやってきたぼく。
荷物を後部座席に詰めこんでいると、前の車の方から若いカップルの会話が聞こえてきた。
「ねえ、これ大きすぎて車に入らないんじゃない? だから送ってもらえばよかったのに」
「いや、後ろから寝かせて入れれば入るよ。座席も倒すし余裕でいけるわ」
ぼくはすぐに気づいた。
あれは一等のテレビだと。
「ねえねえ、後ろの車邪魔じゃない? 早く行ってくれないかな」
ぼくは車をバックさせながら、もう二度とくじ引きなんてしないと心に誓った。
終
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