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SS【ドキドキ面接官】
長年勤めていた会社は倒産し、ぼくは新しい仕事を探していた。
ぼく一人なら安い給料でもなんとかやっていける。しかし教育にお金のかかる娘が二人もいるのでまだまだ頑張らなければいけない。
椅子にこしかけると、しばらくして一人の女性が目の前に座った。
彼女の胸に付けられたネームプレートには渡辺と書かれている。
正面からまっすぐにぼくの目を見て「こんにちは」と挨拶してきたので「こんにちは」と返した。
「寒い中お疲れ様です。担当の渡辺です。今日はどちらから来られたのですか?」
「富山ですよ。今から高山へ行く所です」
「まあ、いいですね。古き良き街並み、私も大好きです。食べ歩きなんか最高ですよね。私はいつも、まるっぽミカンは必ず買います。あなたは高山に行ったら必ず買うものはありますか?」
「そうですねーー必ず買うのはみたらし団子ですね」
「それは鉄板ですね。私も大好きです」
「では高山のお話はここまでにして本題に入りましょうか」
「はあ」
「当社は人間そっくりに作られたアンドロイドと人間を百メートル先からでも見分けられるサングラスを作っていることはご存じかと思いますけど、当社を志望した理由を教えてください」
「えーーっと、先行者優位を感じたからです。他の製品もそうですけど、まだ御社のような製品を作っている会社は少なく競争の優位性を強く感じたからです」
「なるほど、ではあなたはもし当社に入社したら、まだ他の誰も手をつけていないような独自の製品開発に挑戦したいと思いますか?」
「はい! もちろんです! 御社の製品を使うお客様が、その製品を持つことで手に入る明るい未来をイメージできるような製品開発を目指します」
「わかりました。あなたの当社に対する強い熱意を感じました。採用の場合は二日以内に電話連絡しますのでよろしくお願いします。本日は寒い中おつかれさまでした」
「ありがとうございました」
ぼくは思わず席を立ちそうになったが我に返った。
ここは電車の中で、ぼくは今、娘たちと共に高山へ向かっている。
しかし先ほど知らない女性が、他の席はほとんど空席だというのに、わざわざぼくの前に座り、ぼくを使って面接練習を始めたのだ。
それに乗っかるぼくもぼくだが、それがぼくの良い所でもある。
隣に座る娘は笑いをこらえながら聞いていた。
彼女は立ち上がりお礼を言って去っていった。
それから半月後、ぼくはダメ元で、今まさに波に乗って成長著しい会社の面接に臨んでいた。
娘の学費を稼がなければならない。
そのためなら無謀な面接にも挑戦し続ける。
ぼくが椅子に座ると、目の前の女性の胸に付けられたネームプレートには渡辺と書かれていた。
正面からまっすぐにぼくの目を見て「こんにちは」と挨拶してきた。
ぼくは思わず呟いた。
「あ、あの時の・・・・・・!!」
「ああ・・・・・・その節はお世話になりました。採用です!! 明日からよろしくお願いします」
ぼくは面接会場を出ると、こんなこともあるのかと心の中で喜びの雄叫びを上げた。
後から知ったことだが、渡辺さんは人事の偉い人で、採用面接をしたことがなくドキドキしていて、そんな時に偶然、とても話しかけやすそうなぼくを見て思い切って声をかけたらしい。
ぼくがあの時冷たい態度をとっていたら、ぼくはまだ仕事にありつけていなかっただろう。
やはり人の繋がりは大切にしないとなとぼくは思った。
終
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