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ショートショート【修羅】

※ かなりネガティブな内容になっているので、気分を害したくない方はここでお戻りください。


去年の冬、中学二年生だった娘は、私の知らないところで壮絶ないじめを受けて自殺した。

娘は凍てつく寒さの山中でたった一人、死に場所を求め彷徨ったようだ。

冬の間ずっと身体は雪に埋まり、暖かくなって雪が溶け出してから登山者によって発見された。

発見時は雪の中から右手だけが見えていたようだ。


娘が精神を病んでいたのは知っていた。

娘は決して真相を語らなかったが、私はいじめを疑い先生に相談した。

しかし先生たちはいじめの存在を申し合わせたかのように真っ向から否定した。

娘が居なくなってしまった今となってはどうでもいいことだ。

憎くないと言ったらもちろん嘘になるが、危害を加えたのはあの人たちじゃない。


旦那は初七日法要が済むと、たった一人であの子が発見された山に入った。

そして同じ場所で首を吊って自殺した。

一人娘をいじめで失った悲しみは、もしかすると私以上だったのかもしれない。


二人を失ってから一年が過ぎた頃、私は市内で一番安いアパートに引っ越し、少ないパート収入でなんとか生活していた。


その頃、私はファーストフード店で働き始める。

私以外は学生ばかりで少し浮いていたものの、彼女たちともすぐ仲良くなった。

一週間もすると陰湿な人間関係がハッキリとあらわになってくる。

若い子の一人が残りの三人の若い子からいじめられている。

一人だけ明らかに疎外されていた。

私は仕事帰り、いじめられている子を食事に誘った。

なんだか娘のようで放っておけなかったからだ。


しかし彼女が何気に口にした、彼女をいじめていたリーダー格のフルネームを聞いて、心の奥底から黒く禍々しいものが湧き上がってきた。


それからしばらくして私は、彼女をいじめていたリーダー格の子と仲良くなっていた。

ある日、その子と二人で私の運転する車でドライブに出かけた。


「どうしても連れて行きたい所あるんだよね」

私は満面の笑みを浮かべてハンドルを握る。

急な誘いに戸惑いを隠しきれないのか、彼女の返す笑顔は少し引きつっているようにも見える。

「寒いですね。もうすぐ雪降りそう」

「私ね、本当はあなたのことずっと忘れようとしてたんだ」

「え? 何でですか? 忘れないでくださいよ。一緒に働いてる仲間じゃないですか〜」

私は彼女の言葉に対し沈黙した。

車は唸りを上げながら急な山道をゆっくりと登っていく。

私は車を左に寄せて駐車させ、「ここからは歩こう」と言った。

「あ、山道がある」

「ここから少し歩くと絶景ポイントよ」

「え〜撮りたいです。でもなんか今にも雪降ってきそうですよ」

「それでいいのよ」

私は一歩一歩踏みしめるように山道を歩いた。

私が立ち止まり、彼女も立ち止まった。

「この木なんの木かわかる?」

「え〜わかんないです。てか葉っぱほとんど落ちてるし」

そう言い終わった彼女の顔から血の気が引いた。

私は彼女の横腹に鋭利なナイフを突き刺し、それから彼女の悶える姿を見ながらゆっくりとナイフを抜いた。

「うあ あ あ」

「痛い? まだまだこれからよ」

そう言って今度は肩にナイフを突き立てた。

「この木はね、主人が首を吊った木なの。それでね、この木の下で雪に埋もれ凍りついた私の娘が発見されたの」

私は逃げようとする彼女の背中に勢いよくナイフを突き立てた。

彼女は激痛と急激に血を失ったせいか息をするのもやっとに見える。

「あなたの名前はよく知ってるわ。娘から送られてきた最後のLINEに書いてあったもの」

私は彼女の顔を足が痛くなるまで蹴って崖から突き落とし、上から大きな石をいくつも彼女目掛けて落とした。

私は車のエンジンをかけ、山を下った。

「これで私もあなた側の人間ね。憎しみは憎しみを生む。けっきょく私は誰も救えなかった。私自身もね」

アクセルを強く踏み込み、さらに下りでスピードの乗った車は、宙を舞い崖下へと落ちていった。

どこまでも、どこまでも。






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