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SS【終わりなきSOS】


私は暗く狭い場所で目が覚めた。

下からくる振動と衝撃が全身に伝わり、酷く居心地が悪い。

ここはきっとトラックの荷台で、トラックはそれほど大きくない。



家族で訪れた山中にある広い公園。

その日開催していたオリエンテーリングに母親と二人で参加した私。

一人で挑戦したかったが小1の私は駄目らしい。

母親がトイレに入っている間、私は十数メートル先に見えていたチェックポイントへ一人で向かった。

チェックポイントの看板のすぐ横には、二股に分かれた狭い道が続いていた。

次のチェックポイントへ向かう道と、公園の入り口へ戻る近道だ。

私は一人で先に行くつもりはなかったものの、好奇心から数メートルだけ狭い道に踏み込んだ。

すると突如背後から誰かに大きなハンカチのようなもので口を塞がれ、そこで記憶は途切れた。



それから私は一人で生きている。

正確には、私を連れ去った犯人である男と一緒だ。

私には狭い地下室が与えられ、そこには生活するための最低限の物がそろっている。

冷暖房に洗面所にトイレ、風呂、冷蔵庫もある。

ただ、その地下室の入り口は、男だけが知っている暗証コードを打ち込まないと開かないようになっていた。

たまに男がやってきては食べ物や飲み物を差し入れて、要るものはないかと聞いてくる。

外の世界と繋がることのできるものは一切許されなかった。

地下室の天窓からは大きなイチョウの木とお寺のような建物が見える。



それから数年後。

ある女が一冊の本を持って警察署に訪れた。

本は男がゴミ捨て場に捨てたもので、それを拾った男が古本屋で売って小銭に変えた。その本を買った女が警察署に訪れたのだ。

本の中の文字には所々に薄らと鉛筆で丸がつけてあり、それらを繋ぎ合わせると、ある名前が浮かび上がってきた。女はその名前に見覚えがあった。

失踪中の女の子の名前である。

本には意図的に数本の髪の毛も挟まっていた。

DNA鑑定が行わなれ、髪の毛は失踪中の女の子のものの可能性が高いことが判明した。本屋の防犯カメラの映像からは本を拾った男が割り出され、男が本を拾ったゴミ捨て場近くの寺の地下から女の子が救助され、犯人も逮捕された。



私は業を背負って生きている。

それはもしかすると私自身が招いたことなのかもしれない。

しかし人間は生きていれば多かれ少なかれ業を背負うもの。

それを拒むのではなく、受け入れる大きな器をつくって生きていきたい。

私は今、人知れず一人で苦しむ子どもたちのために何ができるか。そんなことを考えて生きている。


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