自作短編 第二弾 『冬みたい』
以前小説サイトにて書いた短編の一つです。前回は恋愛小説でしたが、今回はSFです。僕は星新一さんにかなり影響を受けてまして、SF短編をよく読み、よく書きます。
『冬みたい』
目が覚めたら屋内は暖かく、しかし外では吹雪らしき音がうるさかった。
どうやら冬みたいだ。
そして僕は長い間眠っていたことに気づく。
「……今は何年ですか?」
隣に座っていた女性に聞く。
「今は2XXX年です。貴方は百年以上眠っていました。覚えていらっしゃいますか?」
「……ええ、覚えてます。コールドスリープは成功したんですね。人類は死なずに済んだ!! これは素晴らしいことだ!」
「それがですね……」
「?」
「コールドスリープから無事目覚めたのは貴方だけなんですよ、原住人の中では」
「えっ?」
「かつて地球は破滅の危機に瀕しました。氷河期の再来です。そこで人類は、月に一時避難をするという手を取りましたが、全員は時間や場所の都合上連れて行けない。しかし、こんな氷河期の中に残して行ったら確実に死んでしまう。そこで取られた政策が」
「コールドスリープ……ですよね?」
「ええ、そうです。残りの人類たちには氷河期が終わるまでコールドスリープをしてもらうことにしました。それがその当時できる、ベストな選択でした」
「しかし、僕は何百年の時を越え、無事に復活することができました! なんて嬉しいことでしょうか! ……ですが先程の言葉は一体どういう? 他のみんなはどこにいるんでしょうか?」
少し間が空く。だがようやく女性は決心がついたらしく口を開いた。
「貴方以外、全員死にました」
「えっ……えっ、う、嘘ですよね? 嘘だと言ってくださいよ!!」
「いいえ、本当のことです。コールドスリープの機器の多くが故障したんですよ、なにせ長い時でしたから」
「じゃ、じゃあなんで僕は」
「貴方の機器だけが、たまたま、というか運良く、故障せず時を越せたのです。私たちが月から戻ってきた時……残念ながら貴方以外の地球に残っていた人類は……」
「そ、そんな」
「そしてもう二つほど悲しいお知らせが」
「えっ?」
「月に行く際、様々な事故が起こり半分が死亡。そして氷河期が終わり地球に戻ってくる際に、また様々な事故が起こり大勢が死亡。残ったのは一機だけ。私含め五人が乗っていた、一機だけがこの地球にたどり着くことが出来ました」
「そ、それはつまり……?」
「私たちが地球に辿り着いた時には、もう、貴方含め、人類は六人しかいなかったということです」
「なっ!?」
「そして二つ目の悲しいお知らせ。今は冬ではありません」
「えっ」
「私たちが帰る際に出会った事故、それは隕石群の衝突でした。しかもその隕石群は地球に衝突し、再び地球は氷河期を迎えてしまったのです。ですが、もう燃料も尽きかけ月に戻ることもできなかった私たち一同は、しばらく宇宙を彷徨った末、結局諦めて、仕方なく地球にやってきた次第……」
「そ、そんなっ!! 信じられない……信じてたまるか、そんなこと……」
「しかし、残念ながらこれが現実です」
悲しい目をしてその女性は僕を見る。そして僕はやっと落ち着いたのか、ふとある疑問を口にした。
「……あ、あの、一ついいですか?」
「どうぞ」
「じゃあなぜ僕をコールドスリープから目覚めさせたんですか? 何百年前で時が止まってる僕が皆さんの役に立てるとも思えないし、それに、氷河期なら食料も限られてるはずでしょう? こんな状況じゃ、少ない人数に越したことはないでしょうに。何故わざわざ僕のコールドスリープを解除したんですか?」
「簡単ですよ」
「?」
グサッ
さっと自分の腹の方を見ると、鋭利なものが刺さっていた。そこから赤いものが溢れている……。
「……えっ? あっ……えっ?」
「コールドスリープしたいからです。しかし、一人分しかなかったので、横取りさせてもらうことにしました」
「い、い、痛い……? えっ、赤っ、血が出て……?」
「そして、生存していた他のメンバーも、今現在はもう地面の下、冷たい雪の下に眠っています」
「ど、どうして……!」
「私たちが地球に辿り着いたとき、コールドスリープの機器がたった一つだけ、正常に作動してました。そして、これを使えばもしかしたら氷河期を越えられるのではないか? と全員が思ったわけです。しかし、人数に対して枠は一つ。もう分かるでしょう? 奪い合い、殺し合いが始まるのはもはや必然でした」
「……で、でも誰がコールドスリープから目覚めさせてくれると言うんですか……もはや人類は貴方しかいないというのに」
「どうせ一人で生きたとしても、そんな長くは持たない……短い間に死にます。だったら、コールドスリープする道を選び、いつか宇宙人が地球にやってきて、偶然私を見つけて……とかの奇跡を信じた方がまだマシです。希望が持てます」
「そ、そんなの、この現実から目を逸らしてるだけじゃないですか……」
「うるさいですね。さっさと死んでください」
いかにも重たそうな氷石を彼女はよろよろと持ち上げ、こちらに向かってくる。
逃げたい……逃げたいが、もはやそんな力はなかった。そしてドンッ……。
* *
長い冬が終わり、春の季節。ようやく地球は日の目を迎える。しかし、悲しげに眠る彼女を起こしてくれる人間はどこにもいない。
まだ今が冬だと信じ続け、そこでずぅっーと、ずぅっーと、安らかに眠るのであった……。
(冬みたい、冬みたい……冬みたいに冷たい。ああ、そうか。コールドスリープをしてるからだ。外は暖かいのかなぁ……でも、誰かが起こしてくれないと私はずぅっーと眠ったままだからなぁ。誰か起こして、お願い。もう冬だとしてもいいからお願い、誰か起こして。このまま眠ったままなんてやだ……! 冬でもいい、外が見たい。外見たい、外見たい、冬見たい、冬見たい、冬見たい……ああ、寒いなぁ。まるで……冬みたい)
短編『冬みたい』はここまでです。
どうでしょうか? 楽しんでいただけたでしょうか?
SFというのはやはり面白いものです。現実にはありそうでないこと、それを表現するのがSFであり、ワクワク感やドキドキ、時には非現実を通して人間の本性や核心に触れる。そんな面白さがありますから。
この作品を楽しんでいただけたのなら幸いです。次回作も頑張りますので、新たな短編が綴る世界を、是非楽しみに待ってくれると嬉しいです。ではまた。
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