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自作短編 『君がいなくちゃ』

以前小説サイトにて書かせていただいた作品の一つです。僕は短編をメインに書いてまして、文が短い分、質をよく、それでいて常に新しい短編を発表し、読者を飽きさせない努力をしてきました。是非、noteの読者様にも楽しんでいただけたなら幸いです。

ちなみに、この作品の題名およびとある文は、僕の大好きな歌を一部参考にしてます。是非当ててみてください。では。


『君がいなくちゃ』

 ある日、君がいない世界になっていた。
 教室にいつも通り入っていき、いつも通り隅っこの席に座る。
 でも、隣には君がいなくて、違うクラスメイトだった。

「席を間違えてるよ」

 じゃなければ。

「ごめん、僕が間違ってたかな」

 正解はどっちだろう。しかし、クラスメイトはこう答えた。

「どっちでもないよ。この席は私の席だし、その席はあなたの席。それに今言った人の名前……聞いたことないけどクラスにいたかな、そんな人?」

「えっ?」

 ガラッ

 扉が開いて先生が入ってくる。そして教室を見渡しある一言。その一言がさらに僕を追い詰める。

「よし、全員いるな」

「全員……いる……?」

 みんなの中に彼女はいないんだろうか。僕だけしか覚えていないのだろうか。それとも、僕がおかしいのかもしれない。彼女はもしかして……いや、そんなはずないけれど、心が痛くなってくる。

「先生、具合が悪いので保健室に行ってきます」

「そうか」

 そう言いつつ保健室には向かわない。僕はこっそり学校を抜け出し、自転車で道を駆け抜けた。

「なんで……っ、なんで……!」

 僕は彼女の恋人じゃない。
 ただの友達。
 でも、いつのまにか、僕の隣の話し相手が、一番の親友で、それで、もっと大切な人になっていた。
 彼女から見たら僕はただのクラスメイトの一人かもしれない。それでも僕にとっては……!

「なんで……っ、なんで……いなくなっちゃうんだよっ……!」

 告白しようと思ってた。
 勇気がないから何回も後回しにしていて、気が付けば一か月も経っていた。
 でも、それでも、そろそろ言わなくちゃ……言えなかったら後悔することが分かってるから……今度こそ。つぎこそは。
 そう思ってたのに。

「僕はあまり君のことを知らない……」

 いつのまにか自転車からは降りていて、ゆっくり歩いていた。天気は晴天で、僕の心と真逆だからくっきりと僕を映す。あまりに切なくて、後悔する気持ちになる。

「だから君が何処かにいなくなっても、思い当たる場所もない。君がどんな気持ちでいなくなったのかも、何も、僕は知らない」

 喋るだけで楽しかった。
 話の内容は些細なことで、ただのクラスメイトだからそんな込み入った話もなく、僕は君とよく喋ったがそれでも君のことはあまり知らなかった。
 だからこそ、告白しようと思った。もっと君のことを知りたいと思ったから。

「でも……もう……君はいない」

 そのとき、風が一瞬吹いた。そして後ろから聞き慣れた声が聞こえた。そう。

「落ち込まないで」

 君の声が。

「どうして……君はいなくなっちゃったんじゃ……」

「そんなわけないよ。ごめんね、全部私のせいなんだ」

「えっ」

 申し訳なさそうに彼女は話す。

「君の隣の席にいたのは私の友達でね、協力してもらったの。私がこの世界からいなくなった、って君に思わせるために」

「で、でも先生が」

「体調不良で休むって事前に連絡していたから、私を含めないで全員いるってことだと思う。ずる休みしちゃった」

 あらゆる疑問が浮かぶ。でも、君が目の前にいてくれたことが、何より嬉しくて、安心して、あまり嫌な気持ちになれない。

「なんで、こんなことを……?」

「君が、私を好きでいてくれていることは知ってたの。それで、いつ告白されるか待ってたんだけど、全然告白してこなくて……何回もチャンスはあったのに」

「面目ない……」

 思わず苦笑いをする。

「だから君の本当の気持ちが知りたくて、ついこんなことをしちゃったの。私がいなくなったら、君が本当に私のことが好きかどうか分かるはずだと思って」

「……」

「そしたら『保健室に行くと言ってそのままいなくなっちゃった』って慌てて友達から連絡が来て、私も本来の計画なんか忘れて急いで外に出てきちゃった……」

 彼女はそう言って遠くをぼんやり見ている。
 僕はようやく整理できた心の中で、やっぱり変わらないこの気持ちに向き合うと決めた。言わなくちゃ。

「……さっき君は謝ったけど、僕が謝るべきだったんだ。ごめん、待たせて」

「うん」

「そして言わせてください」

 また、風が一瞬吹いた。背中を押してくれているのだろうか……はぁ、恋心はなんでもポジティブに捉えるから良くない。でも、そう捉えた方が言えそうだ。この気持ち。

「僕は君が好きだ。君と付き合いたい。付き合ってください、お願いします!」

 ずっと心に留めいていた気持ち。でも、一度上手く言えたら勢いが増して言葉が出てくる。

「君がいなくちゃ、話し相手がいないんだ」

「うん」

「君がいなくちゃ、話が始まらないんだ」

「うん……!」

「君がいなくちゃ、心が落ち着かない。君がいてくれるから僕はいつも笑えるんだ」

「うん……!!」

 気付けば、僕も君も少し泣いていた。でも二人とも心地いい笑顔で互いを見ていた。そして。

「こちらこそよろしくお願いします」

 彼女のとびきりの笑顔を見て!
 この世界に彼女が必要なこと、僕の世界に彼女が必要なこと。
 そして、彼女がこの世界に帰ってきたことを心から知ったんだ。

 君がいなくちゃ。
 君がいてくれたから。
 ありがとう。今までも。これからも。


これにて、『君がいなくちゃ』は以上です。ここまで読んでいただきありがとうございました。また、参考にした歌というのは佐野元春さんの歌です。Youtubeにあるので是非聴いてみてください!

近いうちにまた短編を投稿するつもりなので、池人 竜の次回作を楽しみにしてくれると嬉しいです。ではまた。

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