楽しいからやってる。で良い【京都大原における耕作放棄地再生・西陣の町家改修】
こんにちは。
私達は、iroiro agritectureという名で京都芸術大学に所属する学生で活動しています。
この活動は、大学でものづくりを学ぶ私たちが農業・建築といった原始的なものづくりを通じ、実際に社会とつながったうえで何を表現していけるのかという、実験と挑戦と行動がコンセプトの活動です。
これまで京都の大原で約一年半野菜作りをしてきましたが、メンバーそれぞれ、活動を始めるまでは深く農業に関わったことはありません。
そんな私たちが、なぜ耕作放棄地を開き、現在に至るまで野菜作りを続けているのか。
これまでの活動のストーリーを話しながらお伝えできればと思っています。そして最後は現在農業が抱える課題について、私たちの考えを話していきたいと思います。
ことの始まりは2020年の夏休みの終わり、元メンバー兼発起人の中留が、突然大原で畑を一反借りたから一緒にやろうという提案からでした。
そんな彼が初めに借りた土地は耕作放棄地として20年以上放置され獣の棲家になっており地域でも問題視されていた土地でした。当初土地を貸すことにネガティブだった地主さんでしたが、彼のここで農業がしたいという熱意により無償でその土地を貸していただけることとなりました。
そして夏休み明けに以前から仲の良かった山下と大塚が畑に誘われ。3人でiroiro agritectureとして活動を始めます。
当時なぜ僕らが彼の誘いを受け、畑を始めたのか思い返してみると、それは昨今の食糧危機や増加する耕作放棄地といった農業への問題意識とは関係なく、コロナ禍でのフラストレーションや、それぞれが今後のものづくりをしていく上で、命を作っていくという農業の行為が自分たちにとって必要な気がするといった感覚、そうしたものでした。何よりも大学と離れ、友人と自由に秘密基地を作っているようなワクワク感に突き動かされていとように思います。
そして、その3人での畑の開拓はゆっくりながらも進み、小さい範囲で野菜の栽培を始めました。
畑をし始めて最初の作付けでは、とりあえず野菜を作るぞ!意気込んだテンションそのまま、見ようみまねで畝を立て種を落としてみました。この時は約15品種の作付けを行いました。有機農法と自称しつつも土づくり・肥料の概念を知らず、雑草をひいて見守る。これしかしていません。僕らもこれで野菜ができるとは思っていませんでしたが、意外とできちゃった。自然すげえ!農業割といけるやん!って騒いでいた記憶があります。さらに大原の気候と親バカ心もあって普段食べているものと比べて格別に美味しく感じました。
初収穫を迎えた頃、今度は米を作ろう!と意気込んで2反めの耕作放棄地を借ります。
12月には新たに現メンバーの情報デザインを専攻する武内、僕と同じく建築デザインを専攻する重留が加入し、snsと町家改修プロジェクトが始動。
現在もこの町家は改修途中の段階なのですが、中留・大塚のシェアハウス、収穫した野菜の貯蔵、課題やこの活動をしていく上でのワークスペースとしての利用をしています。
町家の改修を始めた動機は農業と同様に、食住そのものを作ることへの関心や町屋で暮らしてみたかった・設計課題の中で考えていたことを実践してみたかったという個人的な理由が挙げられます。
しかし、実際改修を進めていくとこの町家が持つ構造的な欠陥に伴い多くの想定外なトラブルが発生します。
こうしたトラブルと向き合ううちに、京都で多くの町屋が破壊されている現状や、
その原因、それらに付随してくる文化の衰退など京都や建築分野の抱える課題を肌感覚で知っていくことになります。現在ではこうした社会問題と接続した上での改修が進んでいます。
2021年 にはいると、snsの効果もあってか、農業や町家に興味を持つ人が訪ねるようになってきます。そこで畑ワークショップを始めます。畑にきてくれる人の多くはコロナ禍で大学に行けなくなった同世代の学生です。私たちもコロナウイルスの流行により人と会う機会が少なくなっていましたが、畑という場所を通じ年齢所属問わず多くの人と出会うことになりました。
そうして徐々に活動が広がりつつ、2反目の耕作放棄地では畑にきてくれた人たちと共に開墾が着々と進んでいきます。
しかし2反目の土地に大きな木が生えていたこともあり、当初計画していた米作りは断念。木の根っこが残るところを避け、土地の半分をのこし畑として活用することになりました。
春からは2反目の畑も使い、収益化を目指した本格的な野菜の栽培を始めます。初の収益化を目指した私たちにとっては挑戦のシーズンです。多くの人に食べてもらうため、贔屓目抜きに美味しく良い野菜を目指します。
この時は前回の作付けとは異なり商品となるジャガイモに力を注ぐため、ジャガイモ四品種のみの作付けを行いました。ここでようやく土づくりがスタート。
隣の農家さんに習い宝ヶ池乗馬場でいただいた馬糞堆肥を土にすき込み、畑の土を目指します。
芽かき、追肥と適切な時期に施していきます。しかし、あまりの規模と大学が始まったことから手が回らなくなり、作付けしたものの半数以上が出荷できないものができてしまいました。
しかし、無事収穫できたジャガイモは美味しい。客観的にみても良いものができたと思っています。
そして、そのジャガイモ達は知り合った農家さんの直売所や八百屋さんに出荷、収穫祭や大学の文化祭での出品を通じ多くの人に食べてもらうことができました。
目標の収量や収益には遠く及ばなかったものの、作ること、保管すること、売ることと多くの学びがあったジャガイモ栽培でした。
こうして本格的に野菜を作るようになってからは、私たちの畑にくる人たち以外にも専業農家の方や直売所の方、
近くで畑を始めた人達や地域の農家さん達との交流が増えてきました。そして、そうした畑に関わる多くの人に助けてもらいなんとかここまでやってこれました。
ジャガイモ栽培と並行し作付けした夏野菜では、収益化は目指さず各々が食べたい品種の種・苗を持ち寄って六品種ほど育っていました。
また、この夏野菜の土づくりを始める頃に、知り合いの農家さんから耕運機をいただきました。それまで手で耕していた私たちにとって、これは革命的な事件です。やはり文明の力はすごい。
しかし、それでも野菜作りは思うようにいきません。とうもろこしやスイカ、トマトなど鮮やかな夏野菜に期待をしていたのですが、
獣・長雨・病気によりまともな収穫が出来ず、ジャガイモに続き多くの反省と野菜作りの難しさを感じた夏でした。
私たちが野菜作りをしてきて一番の学びは、あらゆるものに生かされているという感覚の芽生えです。
これは、これまで繋がってきた人たちに限らず野菜を作る中で向き合ってきた、自然環境や多様な動植物との関係からも言えることです。あらゆる事物が環境や生命を共有して存在しています。
振り返ってみれば私たちが個人的な事情で始めたこの活動も、活動を通じ多くの人と場所や時間を共有してきました。私たちが大学で学ぶものづくりも個人と他のものが関係を結ばれることで意味が獲得されるように思います。
こうした感覚の芽生えから、ものづくりだけでなく、こと作り・場づくりへと興味が膨らんできました。
そこで活動を始めてちょうど一年、昨年の秋に2反目の土地の木が生えていた場所を活用し収穫祭を開催します。
この収穫祭では畑で採れた野菜を食べるだけではなく、ワークショップを通じて知り合った、うちも何かしたい!という同世代の学生に出品者として参加してもらい、この収穫祭で挑戦してもらうというものです。
開催当日は天候に恵まれなかったものの、30人の方に来ていただきました。
また、この収穫祭をきっかけに出品者として参加してくれた方が食について活動を始めたという話も聞きます。我ながら良いイベントになったなと思っています。
2020から野菜作りを始め、短い期間ではありますが、これまで学んだことを糧に今回ファンタスティックマーケットに出品しているカブラ・大根を含めた9品種の作付けを行いました。
これまでの農業活動は学業に支障が出まくっていたため、植え付ける野菜それぞれの特性を考え世話をかける時期や収穫時期をずらし、学生である私たちなりの農業との良好な関係を築こうと実践しています。成長です。
また、より美味しい野菜を目指し、これまでより長い期間を土づくりに充てました。
多くの農家さんが、良い土であれば良い野菜が取れるとおっしゃっているように、野菜づくりにおける土の重要性をようやく理解できてきたように思います。
これまで使用してきた馬糞堆肥に加え、この活動を通じ知り合った農家さん達から籾殻・米糠・鶏糞をいただき、微生物資材や緑肥を駆使しながら良好な土中の環境を目指しました。そうして手をかけた土に植え付けた野菜たちの様子はやはり違いました。それまでと比べ虫の被害も少なくなり、初期生育から順調な成長を見せ、結果大きく味の良い野菜が取れるようになりました。
これまで野菜づくりをしてきて、アマチュアながらもあらゆる面で農業の大変さ、難しさを体感してきました。手をかけてもうまくできるかわからない野菜達、売っても思うように値段をつけられない野菜達。お金を稼ぐって難しいです。
それでも野菜を作りは楽しい。大原で野菜作りを始めた頃、地域の農家さんに声をかけられるたびに聞いた言葉は「野菜作るの楽しいやろ!」です。
私たちは農業、建築という食住を出発点にそれらに関わるいろいろなことに関心を持って活動しています。卒業するまであと一年弱と少ない時間しか残されていませんが、それまでにもっと色々していきます!
農業についての課題
農業の未来について、一番に考えなくてはならないのは農業の抱える課題ではなくこれからの農業との関わり方だと思っています。
というのも、農業の抱える課題が多く語られることで実際どれだけの人が農業を始めようと思うのだろうかという疑問があるからです。農業の抱えている課題のほとんどは農業への新規参入者が少ない事と関係づけることができます。
耕作放棄地の増加や後継者不足、地球環境への配慮にもこれが言えます。あらゆる問題定義がされ、地球環境に配慮した有機農業が推奨されていたとしても、多くの人が行動に移さなければ意味を持ちません。ですから、農業の未来にとって、農業を始める人は重要な存在であるといえます。
しかし、農業への新規参入者の減少は単に日本の少子高齢化だけが原因なわけではなく、農業をはじめとする一次産業に縛られない生き方を選択してきた人間の意思であり、そこから多様な職種が生まれてきた事が大きな原因と言えるでしょう。
簡単に言えば現代社会を生きる私たちは昔ほど農業をしなくてはならない理由が無くなり、始める理由もありません。
今は24時間コンビニで野菜が買える時代です。農業と繋がりがない人にとって農業の抱える課題や問題定義などはリアリティーがなく、深く考えることはおそらくないでしょう。
私たちのような若い世代が農業の未来について真剣に考え、日本の食を変えていくビジョンを描くなら、まずはどんな形であれ農業に関わって行きたくなるような魅力を発信していくことが先決です。
これまで私たちは個々の事情により農業を始め、結果として大原の耕作放棄地2反の再生をしました。そして私たちが開墾したことにより、周辺の耕作放棄地でも次第に畑を始める人が増えています。
始める理由がどんなものであっても続けていれば必然的に社会と接続します。だとしたら深刻な社会問題を問い上げるよりも、もっと大きい声で「楽しいから畑やれば良いやん」って、言っても良いのかもしれません。