見出し画像

『こんぺいとう』

学校帰り、大急ぎで家の階段を駆け上がり、ロケット型のルームプレートが掛かった僕の部屋に入りランドセルをベッドの上へ放り投げ、貯金箱から100円玉1枚を取り出しポケットに入れて僕は家を出た。玄関先にはもうすでに丸眼鏡をかけた友達がいた。
「負けたか。」
友達は歯を見せ、目を細めて静かに笑った。
自転車を走らせること5分、近所の駄菓子屋に到着した。僕は小さな青いかごに細長いソーダゼリー、風船ガムなど100円きっちり使えるように計算しながら入れていたのだが、友達は星形のカップに入った金平糖を5つしか入れていない。
「それしか買わないのか?」
というと、こくりと頷き駄菓子屋のおばちゃんに100円玉を渡す。友達もきっちりと100円玉を使い切っていた。
僕も会計を終わらせて駄菓子屋前のベンチに座ると、友達もそこへ座った。僕が何から食べようかと袋を漁っても友達は静かに空を眺めている。
「食べないのか?」
友達は頷いた。
「変な奴」
僕はそう言いながら、ソーダゼリーから食べ始めた。僕が袋の中身を空っぽにすると友達はベンチを下りすぐのコンクリートに落ちていた小石で絵を描き始めた。大きな地球の周りに惑星をぽつぽつ描かれている。僕はその絵にロケットを一つ書き足した。
「宇宙行ってみたいなあ」
僕がそう呟くと、
「宇宙行ってみたいなあ」
と友達も呟く。
「宇宙行ったら何がしたい?」
僕が問うと
「寝たい」
と言った。
「変な奴」

翌週、僕らはまた駄菓子屋へ行った。僕は贅沢に80円もするスルメイカとグレープのゼリーを2つかごに入れていたが友達は相変わらず金平糖5つ。
「それ何に使っているの?」
友達はまたはにんまりと笑い、小さな声でこう言った。
「もうすぐ完成するんだ」
「なにが?」
「この後、うちに遊びに来てよ」
僕らは自転車に乗りまた5分、友達の家まで走った。

「ちょっと待っていて」
そう言われ僕は友達の玄関先で立っていた。散歩中の犬が僕のことをじいっと見つめて通り過ぎる。僕はしゃがんで小石で地面に絵を描いていた。ロケットに惑星。いつも通りだ。
しばらくするとガチャと音がしてほんの少しか開いていない扉から友達が手招きしていた。

「おじゃまします」
入ってすぐの階段をのぼり星形のルームプレートがかけられた部屋に案内された。僕の部屋にどことなく似ている。宇宙柄のカーテン。惑星の写真が壁に貼られ、ロケットのおもちゃが落ちていた。
「これキミにあげるよ」
友達は恥ずかしそうに僕に小瓶を手渡した。それは金平糖がいっぱいに詰まった小瓶。僕がきょとんとしていると友達は慌てた様子で部屋の電気を消し懐中電灯で小瓶を照らした。暗闇に照らし出された金平糖は、小瓶の中でカラフルに輝きだす。
「すごい、これのために金平糖を集めていたのか」
友達は照れたように笑い
「宇宙」
と呟いた。続けて
「小さい宇宙、作ってみた」
暗闇の中、小さな小瓶の中に広がる宇宙。カラフルな星たちは優しくじんわりと輝いている。

それから数日が経ったある日、友達は突然引っ越した。僕は寂しくて友達と遊んだ場所を一人で廻ってから家に帰えった。青いベッドに勢いよく寝転がると天井には惑星のポスターが見え視界が滲む。僕が目をこすると宇宙柄のカーテンが優しく揺れはじめその静かな風と共に、ことんっと微かな音が聞こえる。
起き上がると窓の光に反射する小瓶の中の星たちがキラキラと輝いていた。
「宇宙行ってみたいなあ」
僕はそう呟いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?