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『手作りのプリンセス』


とある町で立派な白い家に住む双子の姉妹がいました。お母様のブロンズのきれいな髪を受け継いだステラとお父様のチャーミングな長くて濃いまつ毛を受け継いだモニカ。二人は仲良しでいつも一緒に遊んでいます。
今日は二人で窓の外を同じように頬杖をついて眺めていました。
「ねえ、モニカ。今日はあいにくの雨ね」
「そうね、ステラ。でも“あいにく”だなんて雨がかわいそうじゃない?」
「そうかしら、だって今日は二人で川へ行って水切りをして遊ぶと約束していたのに」
「確かにそうね」

二人は窓の外ではねるカエルを同じように目で追いかけました。カエルは最初こそ楽しそうにダンスをしていましたが二人の視線に気づくや否やそそくさと草むらへと逃げていきました。

今度はカタツムリが二人の目の前をのんきに歩きます。のそのそ歩くや否や二人の視線に気づき丁寧にお辞儀をしました。二人も同じように丁寧にお辞儀をしました。

カタツムリがちょうど通り過ぎたころ雨が弱まり、みるみる日が差してきました。
「ねえ、モニカ。雨が上がったね」
「そうね、ステラ。雨が上がったね」
二人はパジャマを脱ぎ、ステラは黄色、モニカは水色のおそろいのワンピースに着替えました。部屋を出て階段を駆け下り外に出ようとしたとき、ティータイムを終わらせたばかりのお母様と目が合います。
「お母様、見て。雨が上がったのよ」
「私たちのためにお天道様が顔を出してくださったのよ」
必死に説得しますが、お母様が首を縦に振らないので、二人はがっかりした様子で部屋へ戻りました。

おそろいのワンピースのまま二人は窓の外をまた同じような頬杖で覗きます。
「こんなにお天気が良いのに」
「なぜお外に出てはいけないのでしょう」
窓に映る二人の顔は同じように膨れていました。

お天道様のご機嫌もつかぬ間、みるみる黒い雲が空を覆い先ほどよりずっと強い雨が降り始め、二人がのぞく窓にも容赦なく大粒の雨が叩き込みます。
「ねえ、モニカ。これじゃ何も見えないわね」
「そうね、ステラ。真っ暗で何も見えないわね」
二人はとうとうカーテンを閉めました。

お母様の作ってくれたランチを食べる時も二人は憂鬱そうな顔をしていました。
チョコチップ入りのスコーンがおやつに出たとき、ほんのわずかにうれしそうな顔を見せましたが、やはりつまらなさそうな顔をしていました。

二人がまた部屋へ戻ると、ステラがカーテンをちょっとだけめくりため息をつきました。
「ダメよステラ。今日はやみそうにないもの」
そういってモニカは水色のワンピースを脱ぎ、二人の白いベットシーツを体に巻き付けました。
「なにをしているの?モニカ」
「これを上手にまいて、お父様のベルトを締めるの。ほらドレス。結婚式のお母様の写真みたいでしょ」
モニカの体には大きいベットシーツを引きずり優雅に歩き始めました。
「素敵ね」
そういってステラも黄色のワンピースを脱ぎ枕のシーツを胸に巻きレースのカーテンを外し腰に巻きました。
「私のほうが優雅なドレスよ」
ここから二人のファッションショーは始まります。お父様の部屋からこっそりとってきたネクタイは髪飾りに、タオル類はスカートにもトップスにもなりました。アルミホイルはくしゃくしゃと丸めてアクセサリーに、押し入れにしまい込んだ分厚いお布団はそれはそれはゴージャスなドレスになりました。

盛大な二人のファッションショーは時間も体力も必要です。ステラはベットシーツのウエディングドレス、モニカはブルーのカーテンでつくったカクテルドレスのままお昼寝の時間に入ってしまいました。

日はすっかり落ち、雨も上がったころ、車のエンジン音が聞こえてきます。お父様が帰りました。二人は同じタイミングでバッと目を覚まし、階段を駆け下ります。着飾った二人を見たお父様とお母様は驚いていましたが、可愛らしい二人の姿にお父様は抱き着き、お母様は二人のドレスをさらに直し髪形を整えてくれました。

本日のディナーは双子のプリンセスの大好物のハンバーグでした。
窓の外には恥ずかしがり屋のカエルと紳士なカタツムリがうらやましそうにこちらを覗いています。



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