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アメリカ生活: "Shrine" のこと

うちの近くでは、"Shrine"が、現れては消える。日本の神社も英語でShrineというが、ニューヨークの私の住む界隈で、Shrineは、ビルディング前の歩道に作られる弔い場所のことだ。

故人が出ると、住んでいたビルや、ゆかりの場所に、ガラスの入ったキャンドルが集められて、一日中、火がたかれることがある。花や生前の写真が一枚だったり、沢山だったり飾られ、メッセージが書き込まれる。

今も、家からすぐのところに、一つ大きなものができている。先月だったか、隣のビルにもできていた。

Shrineは、最低でも数日設置され、サイズも大きなものから小さなものまである。飾られている写真は、男性の場合が、ほとんどである。若いか中年が多い。お年寄りのShrineというのは、比較的少ない。

大きくて、何十本もローソクが立っているものは、写真を見ると、20代か30代、あるいは40代の男性だ。

私は、ドミニカ共和国出身の移民が多く住む地域に住んでいる。これが、ドミニカ共和国からの移民の伝統なのか、カリブ海の伝統なのかは、わからない。家の近くでは、よく見かけるのに、ニューヨークの他の地域で見たことは、ない。多分、文化的に似ているブロンクスでは、あるのではないかと想像する。

先月の隣のビルのも、今、徒歩2分のところに出来ているのも、30代か40代の男性である。

この地区では、その年頃の男性には、子供や奥さん、あるいは彼女がいるのが普通である。結婚せずに子供を産むのが普通だったり、離婚もよくあるので、必ずしも、日本の核家庭のようなものは形成されていないけれど、夫婦関係を解消しても、子供との交流は途切れないのが普通である。

Shrineには、女性や、子供といる写真が飾られたりする。先月の、隣のビルのShrineには、多分、友人だろう、「もう、暇になるなぁ」と書き込みがあった。男同士で遊ぶ相手を失ったという意味である。

聞いた話では、「撃たれたか、刺された」りして、亡くなった若い男性のShrineが、多いという。けれど、ロックダウンの年に、家の近所にあったShrineは、「若い子が自殺した」と言っていたし、今、近所に出来ているのも、自殺らしい。ドラッグのオーバードーズや病死も、中にはあるだろう。

亡くなったのが、突然だった場合、周囲がショックを受けている場合、より大きなShrineが設置され、多くのローソクが燈されるのではないかと思う。

今、近所にあるShrineは、かなり本格的で、キャンドルが消えないように、段ボールか何かの風よけが作られていて、お葬式で使われたものだろう、大きなお花の飾りが置かれている。周りで数人が、静かに会話をしていたり、何も言わず、立たずんで時間を過ごしている人たちがいる。たいてい男性だ。

昨日、昼間通りかかると、ピンクのワンピースも着た小さな女の子を連れた男性が、線香らしいものをライターで燈していた。Shrineによっては、車で訪れる人もいる。

これが、彼らなりの送り方なのだ。

うちの周りは、パーティー文化、めちゃでかい音量の音楽、通りでBBQ、ビールにドラッグ、怒鳴り声、子供など、常に騒がしい。日本の雑誌やテレビに登場するニューヨーク的なもの以外、なんでもありの世界なのだが、Shrineの周りは、静かなのが普通だ。

同じ市に住んでいても、電車や徒歩で来られるこの低所得者の住む地域に、現れては消えるShrineのことなど、知らない人、あるいは興味もない人が、ほとんどだろう。

日本に住んでいる人たちの中には、こんな雰囲気を理解できる人、あるいは理解しようとする人もいるのでは、と少し、思っている。

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