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[短編物語] 『おこられ女』

私、どこ行っても怒られるんです。

今日も、朝から旦那に怒られました。旦那は、トイレのドアが開いてるのが嫌いなんですけど、私、いつも忘れて開けっ放しにしちゃうんです。お前は、何回言ってもダメだと、怒鳴られました。「ごめんね。」って言ったんですけど。そしたら、それも気に障ったらしく、さらに怒ってました。あと、さっき、洗濯したんですけど、旦那の使ってる布団を洗わなかったんで、怒られました。家、洗濯機ないんで、コインランドリー使ってるんですけど、お布団持っていくの重いんで大変なんです。こんな感じで、だいたい、一日3回くらい小言か怒鳴られるかします。いえ、殴ったりはされないですね。

ずっと10年くらい、黙って怒られてたんですけど、最近、時々、「いつも、文句ばっかり言うんね。」と、指摘したりしてます。だって、おかしいでしょ。何もかも、私が悪いって言うの。でも、私にそういう風に言われるのが、嫌らしく、「じゃ、お互い無視して生きるのが、良い」と提案されて。なんで、私、リビングのソファーで寝てます。体が、狭くて伸ばせないんで、体が痛くなるんです。ベッドで寝るのが夢ですね。

旅行ですか。行きませんね。旦那は、旅行が嫌いなんです。「旅行、行きたい。」って言うと、「貧乏人は、旅行とか行かないんだよ。」と返事が返ってきます。そう言いますけど、本当は、面倒臭いだけなんじゃないでしょうか。私たち、貧乏なのは、間違いないですけど。お金持ちじゃなくても、旅行くらい行きますよね。子供は、いないので、子供のことで、喧嘩にならないのは、良かったと思ってます。一人で、旅行、前は行ったりしてましたけど、今は、経済的に苦しくなってきているんで、行けないんですよね。

あと、最近、私、みじめな気持ちで毎日いるからか、年のせいか、口角が下がってきているらしく、「不幸そうな顔になった。昔の方がよかった。」と、言われました。それで、自分の顔を、携帯の写真で撮って見てみたんですけど、確かに、「みじめ顔」で、嫌になりました。これは、どうにかしたいと思ってます。整形とかで治るんでしょうか。多分、無理でしょう。不幸が原因だから。

離婚した方が良いのわかってます。でも、なんか出来なくて。文句言いつつも、離婚しないんで、友達にも怒られてます。それで、会わなくなった友人も結構います。「離婚しない私がダメ」っていうの、わかります。私も、自分でそう思ってます。

仕事でも、怒られてばっかりです。失敗が多いんです。コンピューターの入力とか遅くて、「のろい」って、先輩の女性に言われてます。私より20歳くらい年下なんですけど、私、最近入ったバイトなんで、後輩なんです。だいたい、どこの会社行っても、怒られるんで、嫌になって1年くらいで仕事やめちゃうんです。もちろん、仕事が続かないって、旦那にも、言われてますよ。

5年くらい前に働いた職場で、ある時、同僚と昼ごはん食べた時、彼女が、私は「言いやすい相手なんや」と教えてくれました。「それ、知っとくことも大事やで」って。以来、怒りを向けやすい相手なんだと自分を理解してます。確かに、私と同じ程度にミスする同僚でも、全然怒られてない人もいます。なんで、文句を言いやすい人間なんだろうと思います。旦那にしても、気づいてないとは思いますけど、私、言いやすいから言ってるだけで、ある意味、言葉のサンドバッグですよね。

そうそう、子供の頃は、親に怒られてました。部屋汚いとか、忘れ物が多いとか、わがままとか。あと、中学の同級生に、「生きてる価値ないから、自殺したら」とか言われたこともあります。それが、ショックで、本当に死のうかと思ったんですけど、怖くて、実行できなかったですね。

私のこと、生きてる価値ないと、周りの人全部じゃないにしても、部分的に思ってるかもしれません。自分でも、生きてるのが嫌になることありますけど、自殺はしないんです。これ、10年くらい前に決めました。月並みなんですけど、生きてる自分は、自分にとって尊いと思うようになったんです。社会的価値とか、関係なく、とりあえず、こんなんでも生きてることに、意味あると考えてます。

私に怒ってくる人達、親や家族、同僚、知人は、私が死のうが生きようが変わらないでしょう。私が死んだら、棺桶に向かって怒りと文句を言うかもしれません。そうか、すぐ、私のこと忘れて、他の、文句言える相手見つけて、同じことをするんじゃないでしょうか。でも、周りが価値ないと思ってるからと言って、私が生きる価値ないとかではないでしょう。周りが私の価値決めるのには、納得出来ません。すごい価値ある人間とは、言いませんけど、最低限の価値は、私にもあると思ってます。

そうそう、若い頃の町工場みたいな所で事務の仕事したんですけど、隣の席に座ってたMさんという女性に、怒られてばっかりだったので、辛くなってやめたんです。ところが、Mさん、私が辞めると思わなかったみたいなんです。それで、その後、反省したみたいです。別の同僚に会った時、Mさん、私の次に入った女性には、優しくしてるの、私が辞めたからだと言ってました。その人、私が、「かわいそうだった」と言ってました。

今、考えてみると、この工場で、私が怒られたんで、次の女性は、働きやすくなり、私が、地をならしたと言えるかもしれません。辛かったですけど、それが社会の役に立ったと言えるかもしれません。旦那も、もしかしたら、私と離婚して、再婚したら、次の奥さんには優しくできるかもしれませんね。

輪廻とかあるかわかりませんけれど、あったとしたら、今生、私の場合、『おこられ女』という感じかもしれません。理由わかりませんけど、そういう巡り合わせみたいです。落ち込まないわけじゃないですし、しょっちゅう泣いてます。こういう私から脱出して、もっと幸せになれるように、色々、自己啓発本とか買って、幸せになるようにと、やってみたこともあるんですけど、なかなか、脱けられないんです。牢獄みたいなもんですけど、誰のせいでもないと思ってます。巡りみたいなもんでしょう。だから、もう、「好きに怒ってよ」って、開き直ってます。

旦那にしろ、家族にしろ、「怒られるのは、お前が悪いからだ」と言います。会社の先輩や、友達も、そこまでは言わないけど、そう思ってると思います。でも、本当にそうでしょうか。本当は、私でストレス解消してるんじゃないでしょうか。良い思いしてるんですよ。でも、流石に、こんなこと、50年もやってると馬鹿馬鹿しくなって、この頃、涙もあんまり出ないんです。もう、おこってよ、勝手にって。私、関係ないよ、って。


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