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なぜカフェなのにアポイント制なのか

nagiをオープンして3週間ほど。

ありがたいことに連日満席に近い状況が続いているのだけれど、ぼくらは営業時間中どなたでも入店できるわけではない『アポイント制』をとっている。1日の営業時間を3つに区切り、それぞれ2時間制にしている。

オープンするまでに色々なことを体験・思考した結果この形態を選んだ。インスタのDMでアポイントの受付をしているので日々のやりとりはそれなりに手間だけれど、現段階としてはこれでよかったと思っている。

すべてはコンセプトありき

お客さんには「コロナだし密は避けたいよね」と言われるが、コロナ禍以前からアポイント制にすることは決めていた。

店名の「nagi」は「凪」が由来だ。風が止み穏やかな海の様を表す言葉であり、僕らがこの地に移住して実際に暮らして一番に感じた素晴らしさがこの「凪」だった。それは決して海に限った話ではなくて、この地に流れる時間そのものが「凪」なのだ。この僕らが魅せられた時間をお客さんにも感じてもらえたらなという想いで「nagi」という店名にした。だから、僕らもお客さんもできるだけ忙しない状況には置きたくないと思ったのが一番の理由だ(蓋を開けてみればガラガラでお客さんが来てくれるかもわからないのに、なぜか混雑する前提で思考していたのは不思議だけれど)。

尾道市街に僕らの大好きな店がある。去年のゴールデンウィークの時にランチに行ったらそのお店は開店直後に満席。外で待っている人もいるし、おそらく問い合わせの電話も鳴っていたのだろう、お世話になっている店員さんがエントランスに来られた時の表情にいつもの余裕はなかった。

そのとき「確かに売上はグンと伸びるのだろうけれど、本人たちも本意ではないだろうし、自分も本意ではないだろうな」と思った。この学びはけっこう僕の中では大きくて、すぐさまメモ帳にその時の思考を書き残した。

nagiで過ごす2時間でいろいろなことをお客さんに感じてほしいと思っている。nagiにはカフェにしては珍しく"spend time plants have."というタグラインを設定している。ここにも「時間(time)」を含んでいて、他にも様々な表現を検討した中でこのワーディングに落ち着いた。これが意味することはまた別でnoteに書こうと思っているけど、とにかく僕らは「時間」を大切にしたかった。

アクセスがとにかく悪い

nagiはアクセスが悪い。尾道観光ついでと思っても尾道から自転車で来るのはなかなか時間もかかる。だから車での来店をおすすめしているけれど、車がない人だっている、そういう場合はタクシーになってしまう。nagiのある地区は住宅地なので周りにたくさんお店があるわけでもない。あるのは美しい瀬戸内海だ(これはこれで最高に素晴らしい)。

だから、せっかく足を運んで来てもらったのに「満席でした」ということだと申し訳ないのだ。仮に満席で、外で待ってもらうにしても住宅地なので近隣の方に迷惑だし、敷地内に待ってもらってても今いるお客さんが気になってゆっくりできない。そういう状況は避けたく、アクセス悪い中来てもらったお客さんには確実に入ってもらえるようアポイント制にした。

避けたかったフードロス

noteにもしばしば書いているが、僕らは環境意識が比較的高い方だ。自然と共にある生活をしているがゆえ、ますますその意識は高まっている。その一環で、フードロスについても気を配っている。小さな店の小商がゆえ少しのロストも経営に響くというのもあるが、それ以上に「食糧は食べきる・使い切る」というのを大事にしている。

アポイント制にすれば、来店人数は事前に把握できるためある程度仕込むべき量が見えてくる。メニューはお客さんが選べるので100%ぴったりの量というわけにはいかないが、場合によっては売り切れというケースがあったとしても作り過ぎることはしない。その点はせっかくアポイントをとってまで来てくださったお客さんには申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、営業を重ねるごとに作る量の精度は上げていくつもりだ。

ちなみに、「売れ残ったとしても自分たちが食べたいと思うものしか作らない」というのは大前提にしている。だから今のところ売れ残ったものは、その後喜んで食べていてロストはない。

飲食店素人

僕らは夫婦ともに飲食店未経験者だ。バイトで働いていた程度で、どこどこで修行していたわけではない(厳密には妻は半年ほどとあるお店で習いながら働いていたが)。そんな飲食店素人の僕らは、もし仮にお客さんがたくさん来たとしたらうまく対応できる気がしなかった。店をどんどん大きくして多店舗展開をしたいとも思っていないし、身の程で営んでいくつもりしかない。だからお客さんの人数をこちらでコントロールできるアポイント制を選んだ。

アポイント制にするのとしないのとでは、多少なりともお客さんの期待値は変わると思っている。飲食店素人なのにアポイント制にするなんてクオリティ面ではハードル上がるよなと思ったが、そこは一つ目に書いた通りコンセプトを大事にしたかったこともあるので、この諸刃の剣を受け入れた。

なぜ「予約制」ではなく「アポイント制」なのか

最後に、これまでの『理由』とは異なるけど、大事にしていることなので書き留めておきたい。

僕らは「予約」ではなく「アポイント」と呼んでいる。実際に行われることは「予約」も「アポイント」も変わらず、その時間帯のその席を手配する、ということ。けれど、言葉が意味するものというか言葉から想起するものはけっこう違うなと思っているのだ。

予約というのは「〜を予約する」というように"物質的な対象物"がある。飲食店で言えば席であり、特定のメニューかもしれない。一方でアポイントは「〜をアポイントする(とる)」とはあまり言わない。多いのは「〜とアポイントをとる」だ。つまりはアポイントをとる対象は"人"である。nagiという店は、僕らが大切に作り上げた場所だ。そこには人格が宿っていると言ってもいい。「僕らに会いに来て!」と言っているわけではなく、僕らの人格と化したnagiに訪ねてもらうという意味で、予約制よりもアポイント制の方が僕らの考えを的確に捉えた言葉だなと思ったのだ。

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nagiがカフェなのにアポイント制をとっている理由はこんなところだ。他にも「賑やかしに来ただけ」みたいな人を避ける意図もあったりするけど、そこはさほど重要ではない。

アポイント制によって「次のお客さんを待たせている」という感覚もないので、お客さんとのコミュニケーションが盛り上がることもある。すでにリピーターさんも何人もできてきて、その方からアポイントの連絡が来るとすごく嬉しい。

まだまだオープンしたばかりで先行き不透明すぎるけど、まずはしっかり僕らの考えた通りに実行していきたいと思う。


10年先、20年先、未来の住民のために木を植えます。