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【漫画原作】『WHITE OFFERING-ホワイト・オファリング』【恋愛ミステリー】

読切用の漫画原作です。
主人公が一切喋らないお話になっています。
複製、自作発言、無断転載、許可なき作画はNGです。


ジャンル

恋愛&ミステリー。ちょいホラー要素も。
若干、下ネタっぽいセリフやシーンがあります。

あらすじ

 芸術家を夢見る青年・晄は、美術展の落選やスランプが続き、30代という年齢もあって、芸術家の道を辞めようと決心する。散歩中に、偶々、女子高生の小夜子と出会う。小夜子の美しさに惹かれ、彼女をモデルに絵を描き始める。それから10年後。小夜子の絵がヒットし芸術家として大成、何不自由ない生活を送る晄だったが、他人には打ち明けられない「悩み」を抱えていた。それは「とある色」と「とある死」にまつわる事だった。

登場人物

・竜星 晄(りゅうせい・ひかる)
 40代前半の男性(冒頭の過去編では30代前半)。背が高く、痩せ気味。寡黙なタイプ。職業は芸術家で、写実系の油絵を描いている。小夜子とは画家とモデル以上の関係。「白色」に執着している。
・月景 小夜子(つきかげ・さよこ)
 20代後半の女性(冒頭の過去編では10代後半)。小柄で華奢な体型、清楚系。色白、黒髪、赤い唇が特徴。晄の絵のモデルを務めている。
・ヴェロニカ
 ヒマラヤンのメス。小夜子の愛猫。シャイな性格で、写真に写りたがらない。

本編

〇過去(10年前・春頃)
 晄の実家。
 居間に飾られたカレンダー、日付は〈201*年3月〉。
 一人くつろぐ父親。
母親 「晄ー?」
父親 「出かけたわ、用でもあるだか?」
 油絵具のセットを見せる母親。
母親 「コレ、要らないから棄てろって」

※絵は神社。会話(吹き出し)は両親の。ポイ捨てするシーンまで。
〇神社
 満開の桜。〈火気厳禁〉〈不法投棄禁止〉〈フンの後始末をしましょう〉の看板。
 ベンチに座る晄。ボサボサの髪、無精ヒゲ、高校時代のジャージにサンダル姿。背を丸め、無気力気味。ぼんやりとした目つきで煙草を喫う。手には公募の通知、〈美術展〉〈竜星 晄〉〈落選〉の文字。
父親 『子供ン時から騒いどったんにな、有名な画家になるーて』
母親 『イヤになったんでしょ。周りはみんな先行くのに、自分だけ置いてけぼりで』
父親 『しょうがねぇわ、そう言う世界だで。やること無ぇなら後継がせるわ。三十過ぎて職無しじゃ、みっともねぇ』
 立ち上がり、歩き出す晄。苛立たし気に通知を丸め、後ろ手に投げる。
 背後から聞こえる怯える鳴き声と宥める声。
小夜子「もうヴェロニカったら。大丈夫、怖いものじゃないから。ほら、触っても平気でしょ。何か書いてあるね…、絵描きさん?」
 立ち止まる晄、苛立たし気に振り返る。その瞬間、ハッとする。目を丸め、咥えた煙草を落とす。
 ヴェロニカを抱き、しゃがむ小夜子。
 二人の間にそよ風が吹き、桜の花弁が舞う。
 小夜子の美しさに心を奪われ、言葉が出ず、見惚れる晄。
 ふと顔を上げる小夜子。晄と目が合い、優しく微笑む。
小夜子「絵描きさん。描いて欲しい絵があるんです。お願い出来ますか?」

*****
〇現在(十年後・春頃)
 都内。高級料亭。レジ横に卓上カレンダー、日付は〈202*年5月〉。
 個室に晄を含めた男性三人。派手な服装の小説家(晄より年上)、スーツ姿の若い編集者(晄より年下)。
 ワイシャツにジーパンの質素な服装、短髪でヒゲを剃り清潔感のある晄。
 テーブルに料理、小説の原稿(『金鬼譚』『銀姫譚』著・焔李奇 画・竜星晄 上下巻)、挿絵のラフが数枚。和風ファンタジー風のキャラや世界が描かれている。
 上機嫌な小説家。
 険しい顔つきの晄、どこかイライラしている様子。
小説家「ンン~ッ! 流石は竜星クン! 今回も完璧な仕事してくれちゃってぇ! このシーンとか、ボクの想像イメージ通り! …でも表紙がさぁ、そそらないんだよねぇ」
 表紙案。鬼の面を被り、鎧を観に纏う男性と、冠を被り、煌びやかな衣装を着た女性が互いに横を向く。
小説家「出そうよ、オッパイ。金鬼かなきクンはプロレスラーみたいにムッキムキで、銀姫ぎんひチャンのは小振りで張りがあるの。そうそう、こんな感じ。ツヤツヤしてて、触るとプルルンって」
 刺身の盛り合わせ。ホタテの切り身にイクラの粒を乗せ、箸で突く小説家。プルプルと震えるホタテ。
 無言で席を立つ晄、襖を開け、何処かへ行く。
小説家「トイレなら、真っ直ぐ行ったトコだよぉ~」
編集者「空気読んで下さい」
小説家「何で? いつものコトでしょ」
 厳しい顔で顎を動かす編集者。
 晄のバッグパック、覗く資料、〈竜星晄〉〈個展〉〈都立現代藝術館〉の文字。

※絵は喫煙所。会話(吹き出し)は小説家と編集者の。
 喫煙所。
 険しい顔で煙草を喫う晄。指を動かし、吐き出した煙を掴もうとする。
編集者『神経質ナーバスなんですよ。展示用の新作、思うように進んで無いそうで。母校のOB会でトラブったり、大切な方亡くされたり、プライベートでも気を病んでるし、変な事言って悪化したら困るでしょ』
小説家『ならキャバクラだ! カワイイ女の子と話せば、ツラい事なんかすぐに忘れちゃうよ。ネットで良い店見つけてさぁ、一度行ってみたいと思ってるんだぁ、どうかな?』
編集者『だから止めて下さい、余計な事は』

*****
〇画材屋(後日・昼頃)
 晄の実家で店兼住宅。筆、鉛筆、漫画の原稿等の画材が所狭しに並ぶ。壁には美術館や博物館のポスターが何枚か。その中に手書きで〈竜星晄〉〈初個展〉〈来夏予定〉と書かれた模造紙。
 奥の部屋で額を作る父親。
 レジで晄とやり取りをする母親、注文品を確認する。
母親 「キャンバスに画用液。注文品は揃ってるね。そうそうコレも。試作品、営業さんが使って欲しいって」
 小袋を渡す母親。
 中身を確認する晄。白色のチューブ絵具が数本。全ての蓋を開ける。手の甲に少量ずつ付け、指で薄く伸ばす。数本の白い線。手を動かして色々な角度から見たり、照明に近付けて色合いを確認する。色が気に入らず、眉を顰める。
 察する母親。
母親 「伝えとくよ、お目当ての色じゃないって」
 額縁を手に現れる父親。
父親 「出来たわ、持ってけ」
 晄の顔を見て、険しくなる父親。
父親 「痩せたな。食っとるか? 精が付くもん。しっかりしねぇと、あの子に見せる顔無ぇでな」

〇晄の自宅兼アトリエ(夜)
 二階建ての住宅。主に一階がアトリエ、二階が生活空間。
 リビング。薄暗い室内。テーブルに雑誌や化粧品等、小夜子の私物。部屋の隅に猫用のトイレや玩具、キャットタワー。ゴミ箱から溢れた弁当や総菜の容器。
 ソファに座る晄、ぼんやりとした顔つきでテレビを見る。芸人やアイドルのトーク番組。
テレビ「休日は何してんの?」
   「ゲームしてますぅ。素っ裸でぇ」
   「えっ!? 裸? 何で?」
   「メンドくさいんですよぉ、服着るのぉ。誰も見てないしぃ、いっか~って」
 やり取りに眉を顰め、テレビを消す。無言で席を立ち、リビングを出る。
 静まり返ったリビング。部屋の隅に小さな仏壇。火が灯る線香、お椀にミルク。小さな写真立て、ヴェロニカを抱える小夜子の写真(ハプニング写真のようなもの。ヴェロニカは背を向き、小夜子は笑っている)と、写真より一回りサイズの大きい〈ヴェロニカの鉛筆画〉。

*****
〇アトリエ(夏頃)
 一般的なアトリエ。使い慣れた作業台や椅子。床に零れた油絵具の跡。晄の使いやすいように置かれた筆や絵の具等の画材。
 壁に立て掛けられた無地のキャンバスがいくつか。
 ホワイトボードに大雑把な予定(年内:挿絵。新作。来年:個展。再来年:巡回展。地元祭り。等)
 収納棚に油絵。棚にメモ書き(〈鬼〉〈姫〉〈八月二十日打ち合わせ〉等)。
 壁に額入りの作品が数点。正面、横向き、黄昏る等様々な表情の小夜子。着物姿、桜の花冠を被る、シカの角を生やす等和風とファンタジーを組み合わせた作品。
 小夜子の絵を眺めながらメモを取る男性、スーツ姿で高身長。
男性 「ツキカゲサヨコさん。高校時代に先生と出会い、以後モデルを務めていらっしゃる。一般人で、今は日本を離れて暮らしていると。そうなると気軽にはお会い出来ませんね。それにしても、先生の作品はいつ見ても圧倒されます。写真のような質感で」
 男性の話を聞きながら作業する晄。絵の具を作る。(油絵具の作り方はネット等を参考に。匂い対策に換気扇が回り、窓が全開)。台に並ぶ白い石、白い蝋燭等の白モノばかり。白い貝殻を砕き、粉にする。展色材と粉を混ぜる。ゴム手袋を外し、絵の具を少量手の甲に付ける。指で伸ばし、色合いを確認。眉を顰め、気に食わない様子。
 ハンカチで口元を押さえ、様子を見守る男性。
男性 「ご自身で色を作られるとは。先生なりの拘りがあるのですね。拘りと言えば、来年の個展ですが―――」

  夕方。
 家の前に停まるタクシー。開いた窓から顔を出す男性。見送る晄。
男性 「本日はお忙しい中、有難うございました。掲載時期に付きましては、改めてご連絡致します。…あと、私事なのですが、一つお願いがございまして…」

*****
〇都内近郊(後日・真夏日)
 普通のマンション。
 リビングに簡易的な撮影用のセット(一人掛けのソファ、背後に幕)。
 来客用のソファに座る晄。男性の話を聞きながら、室内を観察。テーブルの菓子鉢や麦茶のグラスを始め、照明、棚、テレビに置かれた雑貨類が〈昭和レトロ〉や〈アンティーク調〉のもの。
 タキシード姿の男性、姿見の前で身嗜みを整える。
男性 「三十年前になります。上司と共に訪れた呉服店で、妻に出会ったのは。子育ては勿論、過労で倒れ、前職を離れた時も大分苦労を掛けまして。祝うなら形に残るものが良いと思っておりました。幸運にも先生と御縁が出来ましたので、是非、肖像画をと」
妻  「お待たせしました」
 現れるメタボ体型の妻、シンプルな化粧や髪飾り、抑えたデザインの着物。

 セット。ソファに座る妻、隣に立つ男性。
 二人をスケッチする晄。一枚描いては移動し、様々な角度から二人を見る。
 室内に響くクーラーの音。妻の顔に浮かぶ脂汗、息苦しそうな顔。
妻  「…いつまで、こうしてるの…?」
男性 「先生が納得するまでさ」
 立ち上がる妻、男性に背を向ける。
妻  「…苦し…、帯…、緩めて…」
 晄に構わず色々し始める二人。気にせずスケッチする晄。
妻  「…何で、絵なの? 写真で、イイじゃない…」
男性 「おいっ! 先生の前で!」
妻  「…だって、写真みたいな絵、描くんでしょ…、だったら…」
二人 「!?」
 帯が解ける。キレる妻、焦る男性。
妻  「ほどけなんて言ってないでしょ!」
男性 「だって…、やり方知らないし…」
妻  「毎週来てたじゃない! 着付け教室!」
男性 「それは…、母さんに会う為で…」
 玄関が開く音。ドタドタと廊下を走る三姉妹の足音。
娘1 「お邪魔しま~す! どう? お絵描きの方は…、!?」
娘2 「ちょっと、何してんのっ!?」
男性 「…これは、その…」
娘1 「まさかハダカにする気!? 外国の絵画みたいに!」
男性 「そんな訳無いだろ。ところで、お前達何しに?」
娘2 「そりゃ描いてもらうのよー、私達もー」
娘3 「簡単にお願い出来るもんねーっ、編集長ならーっ」
男性 「…いや、平社員だ…」
 和気あいあいと騒ぐ家族。
 いつの間にかベランダに出た晄、ウンザリとした様子で空(雲)を見る。

*****
〇都内・美術館(後日)
 賑わう館内。学芸員と歩く晄、展示の打ち合わせ。
学芸員「ここには挿絵の原画とキャラクターの衣装を展示します。作品の世界を背景に、写真撮影が出来るスペースも幾つか。代表作の〈インサイド〉シリーズは隣室に、新作も併せて展示しようと…」
 晄の顔が曇る。察する学芸員。
学芸員「難しければレイアウトの変更も検討します。なるべく早めにご相談下さい」

〇晄の自宅(夜)
 寝室。テーブルに睡眠薬。部屋の隅に猫用のベッド。
 大きめのベッド、一人横になる晄。ぼんやりとした目で天井を見つめている。

 アトリエ。薄暗い室内。冷房と除湿器の音が響く。
 壁に掛かる小夜子の絵。その前に立つ晄。真剣な顔つき。過去を思い出す。

+++++
〈過去〉
◎神社(冒頭のシーン。出会ったその後)
 距離を取り、ベンチに座る晄と小夜子。小夜子の背中(後ろ)に隠れるヴェロニカ、ちらちらと晄の様子を伺う。落ち込んだ様子の小夜子。
小夜子「無理ですよね、急に頼まれても。でも一枚だけで良いんです。ヴェロニカの為に残してあげたい。お礼なら何でもします。だから…」
 真剣な様子で小夜子を見る晄。

◎自宅(出会ったその日)
 自室。床に敷かれた新聞紙。立て掛けられたイーゼル。棄てる予定の油絵具のセットを広げる。ぼんやりした目に光が宿り、曲がった背筋がピンと伸び、やる気に満ちた晄。
 開いた襖から様子を伺う両親。驚く母親。嬉しそうな父親。
母親 「急にどうしたのかしらねぇ」
父親 「会ったんだわ、絵描きの神様かみさんに」

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◎画材屋(数ヶ月後・下校時間)
 店番する晄。制服姿の小夜子。
 店内。イーゼルに掛かる小夜子の絵が二、三点。魅入る小夜子。
小夜子「凄い、まるで写真みたい。こんな風に描いてもらえたら、ヴェロニカだって喜んでくれる。良かった、最高の絵描きさんに出会えて」

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◎晄の生活
 小夜子をモデルにした絵を描き続ける。その絵で賞を獲得。美術展の常連に。注目作家としてアート雑誌に取り上げられる(三十代半ば頃)。
 小説家と打ち合わせ。初仕事、挿絵の依頼。本屋に並ぶ小説(以後シリーズ化)。他にも絵の仕事を受ける。自宅兼アトリエも建ち、順風満帆な生活を送る。だが晄の顔色は暗い。

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◎神社(春頃・成人した小夜子
 くっついてベンチに座る二人。落ち込んだ様子の晄。慰める小夜子。晄の膝上、嬉しそうにくつろぐヴェロニカ(晄に懐いている)。
小夜子「絵ならたくさん貰ってるよ。この前の鉛筆画だって、ヴェロニカもすごく気に入ってる。だから謝らないで。だって竜星さんのせいじゃないもの。この世界に、欲しい〈色〉が無いんだから」

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◎後日
 絵の具の材料集め。川原で白い石を拾う。様々な品種のコメを買う。
 アトリエ。集めた材料で絵の具作り。クレヨン、色鉛筆、水彩画等他の画材も使ってみるが、納得いく色が作れない。

◎ある日
 アトリエ。ホワイトボードに〈小夜子 家族旅行〉〈202*年 個展決定〉の文字。
 ヴェロニカを抱く小夜子(下描き)が描かれたキャンパスを眺める晄。
 スマホに着信。出る。晄の顔つきが変わる。訃報らしく、目頭を押さえ、項垂れる。

〈過去終わり〉
+++++

 アトリエ。白モノや絵の具を作る道具が並ぶ台。器や瓶を手に取り、床に叩きつける。思い通りにいかない自分や状況に苛立つ晄。拳で何度も台を叩く。ガラスの破片や木片で手が傷付く。徐々に怒りが収まっていく。沈黙の中、荒々しい呼吸が響く。ゆっくりと膝から崩れ落ちる。悔しさに唇を噛みしめ、無力な自分に涙を流す。

*****
〇実家(後日・昼頃)
 居間。
 敷かれた布団、横になる晄。両手に巻かれた包帯、病人のように元気が無い。
 台所に立つ母親。
母親 「しょうがないわよ。自分の思い通りにいかない事だってあるんだから」
 一人用の土鍋を置く母親、真っ白なお粥。
母親 「まずはこれ食べて、元気になる」
 布団を頭から被る晄、白色は見たくない。
母親 「駄々こねない。保育園児じゃあるまいし」
 段ボール箱を手に現れる父親、箱には大量の茶色の絵の具。
父親 「店にあるの全部だ。茶色ばか集めて、土偶でも描くだけ?」
母親 「肖像画。レトロ物が好きな奥様だから、ネガフィルム風にって」
 ぼんやりと箱の中を眺める晄、何かを見つけ、手に取る。〈MUMMY BROWN〉と書かれた絵具。
母親 「〈ミイラの茶色〉、変わった名前よね。営業さんから聞いたの、昔はミイラで絵の具を作ってたって。今は名前が残ってるだけで、材料には使って無いそうだけど」
父親 「俺も作った事あるで。エジプト人からナントカ王のミイラ買ってな、擂鉢すりばちでよぉく潰して」
母親 「よして下さい、冗談は」
 何かを閃く晄。ぼんやりとした目が輝く。

〇晄の自宅(同日・夜・雨模様)
 庭の隅に真新しい石塔。その真下を掘る晄。カツンと何かに当たる。掘り出す。小動物が入りそうなサイズの木箱。蓋をこじ開け、中を覗く。晄の顔に不気味な笑みが浮かぶ。

*****
〇美術館(年明け・春頃)
 入口にポスター。〈竜星晄〉〈INSIDE A FIRE(個展名)〉の文字、火が灯る蝋燭を胸元に持つ小夜子の絵。
 内覧会(レセプション)。招待客や関係者の姿。飲食スペースに派手な衣装の小説家とスーツ姿の編集者。上機嫌な小説家。
小説家「いつ見ても最高だねぇ、竜星クンの絵は! ボクが見たいものばっかで。でもヌードには驚いたねぇ! 興味無いと思ってたよ、いっつもそう言う話スルーしてるから」

 新作のエリア。
 モノクロのヌードが数点。和風やファンタジー要素は一切なく、シンプルな作品。バレエのように躍動的な動きが目を惹く。
 スマホ(若しくはタブレット)を手にした晄。画面には小夜子。オンライン通信中。
小夜子「ゴメンね、裸描かせちゃって。ストレスだったでしょ? いつも描かないから。でも初めての個展だから、やらない事やったら面白いかなって。来月帰るよ。その時にゆっくり見ようね、一緒に」

 大きめのキャンバス、ヴェロニカを抱いて立つ着物姿の小夜子(初めて出会った時の年齢)。タイトルは〈遺影〉。作品の隅に〈for my dear VERONICA〉の文字。
 画面越しに魅入る小夜子。
小夜子「シャイなのよね、ヴェロニカって。見慣れない人が居るとすぐに隠れちゃう。鏡やカメラのレンズとか、姿が映る物も苦手で。だから一枚も無かった、一緒に撮った写真。でも絵なら出来ると思って、描いてくれる人探してた。あの時はビックリしたなぁ、ヴェロニカを描くお礼に、私にモデルになってくれって。今考えてもヤバイよね、高校生相手に口説くって」
 頬を染め、恥ずかしそうな晄。
小夜子「でも良かった。晄が欲しかった色見つかって。ねぇ、何て名前? この白色」
 晄に近付く学芸員。
学芸員「竜星さん、編集長がお見えに」

 学芸員の後ろを歩く晄。ポケットから硝子瓶を取り出す。中身は少量の白い粉。〈WHITE OFFERING〉と書かれたラベルが貼られている。

『ホワイト・オファリング』 終
ちなみに写真のネコは野良猫で、ヒマラヤンではありません。


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