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世の中のすべてが歪んで見えている? |『ケーキの切れない非行少年たち』
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私は2009年から法務省矯正局の職員となり、医療少年院に6年間、その後、女子少年院に1年余り、法務技官として勤務してきました。医療少年院には現在も非常勤で勤めていますのでもう10年以上になります。
著者である宮口幸治は、少年院に法務技官として勤務していた。
法務技官とは下記のような業務を行う仕事らしい。
少年院に送致された少年や保護観察処分になった少年にも、心理アセスメントを行い、継続的に関与する。 少年鑑別所において、一般の方や関係機関等からの依頼に応じ、心理学等に関する専門的な知見を生かした相談・助言や心理検査の実施等を行っている。
ありとあらゆる犯罪を犯した少年と対峙することに、最初こそ、内心びくびくしていた著者だったが、やって来たのは大人しそうな無口な少年だった。
様々な会話を試みるものの、思うように会話は弾まず、著者はそれまでの診察のルーチンにしていたRey複雑図形の模写という課題を少年にさせてみることにした。
複雑図形を見ながら手元の紙に写すという課題です。神経心理学検査の一つで認知症患者などに使用したり、子どもの視覚認知の力や写す際の計画力などをみたりすることができます。
そこで、著者は衝撃的な体験をする。
少年の模写した絵は、手本の絵を見て描いたとは思えない、歪んだ絵だったからだ。
歪んで見えているということは、〝世の中のこと全てが歪んで見えている可能性がある〟ということなのです。
そして見る力がこれだけ弱いとおそらく聞く力もかなり弱くて、我々大人の言うことが殆ど聞き取れないか、聞き取れても歪んで聞こえている可能性があるのです。
そして、彼は直感する。
これこそが、非行の原因なのではないか、と。
コミカライズもされているベストセラー
著者は 宮口幸治
新潮社の著者プロフィールは下記の通り。
立命館大学大学院人間科学研究科教授。京都大学工学部を卒業し建設コンサルタント会社に勤務の後、神戸大学医学部を卒業。児童精神科医として精神科病院や医療少年院に勤務。2016年より現職。一般社団法人日本COG-TR学会代表理事。医学博士、臨床心理士。
出版社 新潮社
掲載誌・レーベルは 新潮新書
発売は 2019年07月
現在、続編である『どうしても頑張れない人たち―ケーキの切れない非行少年たち2―』も発売している。
また、本作は鈴木マサカズの作画でコミカライズもされている。
既刊6巻。連載中。
出口の見えない問題
「私も読んだよ」と言われるレベルのベストセラー本ですよね。
発売された当初はテレビでもよく取り上げられていました。
専門的なことや、対策は置いておいて。
読んだ印象は。
『最貧困女子』にそっくりだなぁ、ということ。
アプローチこそ違うが、知的な障害があることを見過ごされ、適切な助けを得られないまま社会から、ドロップアウトしてしまい、罰せられる方が先に来てしまう。
また、原因も障害だけではなく、家庭環境や経済的にも問題があったり、と1つの原因ではなく、複数の原因が積みがなさっていて、本人はおろか、素人の他人でも、どこから手を付けたら見当もつかないような状態になってしまってる、ということだ。
コミカライズ版では2巻で妊娠した少女が出てくるが、本作ではその事例は出てこない。
『どうしても頑張れない人たち―ケーキの切れない非行少年たち2―』に出てくるんだろうか?
しかし、少女も同じだろう。
誰にも手を差し伸べられないまま、売春、妊娠……そして、そう遠くないところに犯罪がある。
加害者なのか、被害者なのかは別として。
もちろん、障害があったからといって、罪が許されるワケではない。
しかし、我々が事件のニュースを見ながら「普通だったらこんなことしないでしょ」という犯罪を犯した人は、それを“普通”と認識出来ない人かもしれない。
そして、“事件が起こってから罰する”のではなく、“事件を未然に防ぐ”為には、このような問題と対峙しなければならないのだと思う。
本書はKindleUnlimitedで読むことが出来るので、是非1度、読んでみてもらいたい。
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