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どんなに努力してもどうしようもないことがある|『もっと言ってはいけない』


現代の遺伝学が明らかにしつつあるのは、「どんなに努力してもどうしようもないことがある」という現実だ。

『もっと言ってはいけない』

“やればできる”

人は、本人が努力すれば困難を乗り越えることができる―― 

それは、本当だろうか。

(子どもがいる人は)自分の子どもを、もしく自分自身を見たとき、「そうであって欲しい」とは思っても、「そうである」と確信できるだろうか?

行動遺伝学の知見によれば、一般知能(IQ)の遺伝率は77%でやはりきわめて高い。だが東大医学部に4人の子どもを入れたママが出てくると、子どもが東大に入れないのは母親が努力していないからだという理屈になっていく。

『もっと言ってはいけない』

本書は、様々な研究の結果を踏まえながら、人間の人種や性別にある“知能の優劣” ――“人は、平等ではない”というタブーに深く切り込んでいく。

①日本人のおよそ3分の1は日本語が読めない。 ②日本人の3分の1以上が小学校3~4年生の数的思考力しかない。
③パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいない。
④65歳以下の日本の労働力人口のうち、3人に1人がそもそもパソコンを使えない。

「そんなバカなことがあるはずはない」と思ったひともいるだろう。だがこれはOECDの依頼を受けた公的機関が実施した調査結果で、それを疑わしいと感じるのはあなたが知能が高いひとたちの集団のなかで生活しているからにすぎない。

しかし、驚きはこれにとどまらない。こんな悲惨な成績なのに、日本はOECDに加盟する先進諸国のなかで、ほぼすべての分野で1位なのだ。

『もっと言ってはいけない』

私たちは、本当に“平等”なのか?
開けてはいけない、パンドラの箱。禁忌だらけの1冊。


大ヒット作の2作目

著者は 橘玲
元宝島社の編集者で、作家。
『言ってはいけない―残酷すぎる真実―』が50万部を突破する大ヒット。(すいません、私は未読です)
本書はこの“言ってはいけない”シリーズの2作目。

ちなみにこのシリーズは現在3冊あり、最新作である『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』の感想はこちら。

出版社は 新潮社

掲載誌・レーベルは 新潮新書

発売は 2019年01月


子育ては、子どもを変えられるのか?

大前提として。
生まれ持ったもの(本人の力では変えられないもの)で差別されることは許されることではない。

しかし、この“生まれ持ったもの”を周りが正しく判断できなかったが故に生まれてしまう悲劇もある。

「やればできる」イデオロギーは、ものすごく残酷だ。ちゃんと子育てすれば、どんな子どもでも(ビリギャルでも)一流大学に入れるはずなのだから。──さらに残酷なことに、祖父母やきょうだい、友人を含む周囲のひとたちは、あふれんばかりの善意によってこうした仕打ちをする。

『もっと言ってはいけない』

それよりも私が奇妙に思うのは、「知識人」を自称するひとたちが、「ほんとうのこと」を隠蔽し、きれいごとだけいっていれば、世の中がよくなると本気で信じているらしいことだ。
前提がまちがっていれば、そこから導かれる解決策は役に立たないのではないだろうか。

『もっと言ってはいけない』

個人的に、本書で印象的だったのは、この、“ほとんどは遺伝子で決まってる”ということだ。

というのも、私には2人の子どもがいる。
上は男の子、下は女の子。

息子は読み書きの苦手な子だった。今も悩まない訳では無いが、小学校に入る前は「どう教えたら良いんだろう」と頭を悩ませた。

が、娘はこちらから、何も教えなくても勝手に文字を読み、書き出した。

逆もある。
息子は基本危ないことはしないし、勝手にそばを離れない。必要かもと思っていた、子供用のリードなんていらないじゃん!と思っていた。

しかし、娘はというと、すぐどこかへ行ってしまうし、とにかく物を口に入れる。

2人だけでは、サンプル数としては少なすぎるし、自信を持って言えないけど、これ、私の子育て関係あるのか? と漠然と思っていた。

努力すれば変えられる、と思いたくなることが無いわけではない。

しかし、“子育ての影響は少ない”

この内容は、本当はたくさんの母親が求めている言葉ではないのか、とも思う。

 どんな子どもも親が「正しい教育」をすれば輝けるなら、子どもが輝けないのは親の責任だ。「犯罪が遺伝する」ことがあり得ないなら、子どもが犯罪者になるのは子育てが悪いからだ──という理屈もいまでは「言ってはいけない」ことになったので、「社会が悪い」となった。

『もっと言ってはいけない』

『言ってはいけない』でも述べたが、行動遺伝学が発見した「不都合な真実」とは、知能や性格、精精神疾患などの遺伝率が一般に思われているよりもずっと高いことではなく(これは多くのひとが気づいていた)、ほとんどの領域で共有環境(子育て)の影響が計測できないほど小さいことだ。

『もっと言ってはいけない』

この他にも「同性愛はなぜ自然選択されたのか?」「白人と黒人のIQの違い」「セロトニンとうつ病」など、気になるが、誰かを傷つけてしまうかもしれない、センシティブな内容が目白押しだ。

しかし、ひょっとしたら「あなたのせいではない」と少しだけ、あなたの肩を軽くしてくれる本になるかもしれない。


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