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とかくに人の世は住みにくい。|小説『草枕』


山路を登りながら、こう考えた。 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。 住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。

『草枕』

30歳の洋画家である“余”は、山を歩いていた。

そこで、出会う人々が噂をする、“美しいが訳ありの女”である那美の存在を知り。

「嬢様と長良の乙女とはよく似ております」
「顔がかい」
「いいえ。身の成り行きがで御座んす」
「へえ、その長良の乙女と云うのは何者かい」
「昔しこの村に長良の乙女と云う、美くしい長者の娘が御座りましたそうな」
「へえ」
「ところがその娘に二人の男が一度に懸想して、あなた」
「なるほど」
「ささだ男に靡こうか、ささべ男に靡こうかと、娘はあけくれ思い煩ったが、どちらへも靡きかねて、とうとう

あきづけばをばなが上に置く露の、けぬべくもわは、おもほゆるかも

と云う歌を咏んで、淵川へ身を投げて果てました」

『草枕』

たどり着いた温泉宿で、噂の那美と出会う。

「憐れでしょうか。私ならあんな歌は咏みませんね。第一、淵川へ身を投げるなんて、つまらないじゃありませんか」
「なるほどつまらないですね。あなたならどうしますか」
「どうするって、訳ないじゃありませんか。ささだ男もささべ男も、男妾にするばかりですわ」 「両方ともですか」
「ええ」
「えらいな」
「えらかあない、当り前ですわ」
「なるほどそれじゃ蚊の国へも、蚤の国へも、飛び込まずに済む訳だ」
「蟹のような思いをしなくっても、生きていられるでしょう」

『草枕』

そして、“余”と那美は何かにつけて、言葉を交わすようになっていった。


夏目漱石3作目の小説

著者は 夏目漱石。

1906年(明治39年)に『新小説』に発表。「那古井温泉」(熊本県玉名市小天温泉がモデル)を舞台に、作者・漱石の言う「非人情」の世界を描いた作品である。


ぶっちゃけ、よくわからないんだけど。

元々、高校生くらいの時に『草枕』を読もうと思って、読めなくて(何だか先に進めなくて)、それでも食い下がって、こうなったら読むんじゃなくて聴いてやる!

と、Audibleで夏目漱石全集を聴き始めた中にあった『草枕』ですが。

『吾輩は猫である』『坊ちゃん』にも言えることなんだけど……
ストーリーがわからない訳じゃないんだけど、最終的に何が言いたいのかよくわからない。

私が悪いのか……?

スルッと引用されるものを見れば、とんでもなく知識があるのはよくわかる。

でも、それしかわからない。

とはいえ、こんな状態で、何故この作品の感想を書こうと思い当たったのかと言うと。

今まで聴いた『吾輩は猫である』『坊ちゃん』『倫敦塔』に比べて圧倒的に描写が美しかったからである。

宮崎駿が、これを映像化したい、と言っていたらしいが、それはよくわかる。

特に、前半の山を歩いている時の描写は美しい。

その上どこまでも登って行く、いつまでも登って行く。雲雀はきっと雲の中で死ぬに相違ない。登り詰めた揚句は、流れて雲に入って、漂うているうちに形は消えてなくなって、ただ声だけが空の裡に残るのかも知れない。

『草枕』

それまではあまり感じなかった、小説としての描写の美しさ、時折挟み込まれる教養の深さを物語る話はとても良かった。

でも、最終的にこの小説が何を語りたかったのかは、よくわからない。


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