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東京大学東アジア藝文書院編『私たちはどのような世界を想像すべきか 東京大学教養フロンティア講義』(トランスビュー)感想

📗 概要

本書は東京大学で行われた講義を書籍化したものである。「私たちはどのような世界を想像すべきか」という書名であるが、「私たち」とはなにか、「どのように」考えるべきか、「世界」とはなにか、といったことが述べられている。

目次

第1講 「人新世」時代の人間を問う——滅びゆく世界で生きるということ
「人新世」における世界と人間/人新世はいつから始まったのか/「一つの世界」から「多なる世界」へ/「大加速」の時代における変化/人間とは「人間とは何か」を探究する存在である/“human co-becoming”としての人間/自由の再定義/「文人」という可能性/不確実性の想像力――世界の秘密に触れようとすること/滅びゆく世界の中で生きる人間とは…………田辺明生

第2講 世界哲学と東アジア
世界哲学の語り方/哲学の多様化/概念の読み直し/感情に基づく規範/〈かのように〉の礼/啓蒙と中国/概念の世界的循環/「哲学」を翻訳してみれば…………中島隆博

第3講 小説と人間——Gulliver’s Travelsを読む
人間は想像力をどのように働かせるべきか/『ペストの記憶』に描かれた光景/『ガリヴァー旅行記』が執筆された時代背景/小説という形式が発展した理由/『ガリヴァー旅行記』の構成の意味/スウィフトの仕掛けた罠/「馬の国」に住む退化した人間/スウィフトは全体主義を予想していたのか…………武田将明

第4講 30年後を生きる人たちのための歴史
コロナ危機と歴史(過去を振り返ること)の有用性/グローバル時代のパンデミック対策が進まない理由/歴史研究者に何ができるか?/「日本」という前提/「新しい世界史」の構想/世界における「世界史」理解/異なる言語間でのちの交流に必要な「翻訳」/「グローバルヒストリー」はただ一つではない…………羽田正

第5講 脳科学の過去・現在・未来
脳科学の歴史/心と脳はイコールか/その差は「一般化」できるかどうか/脳の多次元性/個人の能力は遺伝子で決まるのか…………四本裕子

第6講 30年後の被災地、そして香港
東日本大震災が破壊した「基礎」/なぜ、津波から逃げなかった人がいたのか/被災地巡礼を通して分かったこと/香港の現在と過去を知る巡礼/香港の歴史/忘却に抗うために…………張政遠

第7講 医療と介護の未来
医学における「ファクト」とは/高齢化による医療費増大は本当か/数字の背後にある「前提」を見極める/高齢者の医療・介護の本当の負担先は/新型コロナウイルスに対する「日本モデル」はあったのか/保健所が果たした役割/ただ一つの真実や正解はない…………橋本英樹

第8講 宗教的/世俗的ディストピアとユマニスム
はじめに――宗教と世俗、ユートピアとディストピア、ユマニスムの両犠牲/「イスラーム化」するフランス?/アルジェリアの文脈/『2084』と『1984』のあらすじ/主要登場人物と作品世界の比較対照――監視社会と歴史の改竄/『2084』はイスラームを批判しているのか/アビ語とニュースピーク/絶望のなかの希望の場所――いかに抵抗を組織するか/フロンティア=境界はどこにあるのか…………伊達聖伸

第9講 「中国」と「世界」——どこにあるのか
哲学としての中国/自分の国をどう呼べばいいか/「中華民国」と「大同」的ユートピア/「中国とは何か」を考える/「天下」という概念/趙汀陽の「天下システム論」/「天下システム」と世界史/テクノロジー社会はどこまで悪か/テクノロジーがもたらす幸福/テクノロジー社会と「天下」/どのような「世界」を想像す可きか?/天下の「すきま」性原理/中国学のパフォーマティヴィティ………石井剛

第10講 AI時代の潜勢力と文学
AIの持つ意味を文学から考える/AIが人間を超えるからこそ、見直すべき人間性とは/小林秀雄が人間に見出した「無知」という能力/アガンベンのいう「非の潜勢力」とは/文学における偶然性………王欽

第11講 中動態と当事者研究——仲間と責任の哲学
自閉スペクトラム症を通して「仲間」について考える/障害の「医学モデル」と「社会モデル」/「類似的な他者」から世界が生まれる/ディスアビリティは同じでも、インペアメンとは異なることがある/依存症の自助グループが発見した仲間の必要性/近代的な人間感がもたらした「自分依存」…………國分功一郎・熊谷晋一郎

📚 感想

上のツイートの他にも、歴史に関する章はいま自分が関心を持っていることもあって興味深く読んだ。また、王欽「AI時代の潜勢力と文学」で示された懸念も考えさせられた。

つまり、我々にとって恐れるべきは、機械の思考力が人間を超えることではなく、人間が機械をモデルにしてものを考え始めようとすることなのです。
(……)我々が文学を読むことの意味の一つは、まさにAIが賢くなればなるほどできないこと、すなわちある種の無知あるいは非の潜勢力を見出すことにあると思います。そして将来、さらなるAIの時代において、それらにどのような形式を与えることができるのかと言うことを常に考え直していかなければなりません。
そのとき、例えば人間の定義というものも必然的に変わってくるのでしょう。これまで我々は人間を理性を持つもの、それによって動物より優れたものとして定義してきましたが、そうではない人間観というものが必要になってくるのかもしれません。(326p)

👀 次に読みたい本

「世界史」を改めて考える。

中動態を考える。

当事者研究とはなにか。

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(2022.1.7)

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