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「創作物の中の煙草」2021/05/15

・創作物の中の世界にはvaporが普及していない
創作物、特に人間が人間のまま人間を演じる映画やドラマや舞台で、喫煙シーンがあったとして、そこでIQOSやプルームテックなどの電子煙草・vaporの類が使われるのってまだ珍しい。私はまだ見たことないかも? 「花束みたいな恋をした」の2020年版が出たら誰か使ってるかな。
現実の世の中より創作物の世界の方がvaporの普及率が低いのは、「vapor使用者に対するイメージの共有がまだ完了してない」からだろう。何となくで登場人物に持たせるとノイズになってしまう。

・閑話
どこかで聞いた話だが、映画や舞台では喫煙シーン自体ノイズのようなもので、何となくで使うべきではないという。
何故なら登場人物が吸っていると、喫煙者は「自分も吸いたいな」って方向に気持ちが逸れてしまうから。納得できる。
自分は、創作物に何となくで入っていいものなど無いと思っているので、必然性の無い喫煙シーンが出てくるとその作品の評価を辛くしてしまいがちだ。お前さあ……ってなる。
閑話終わり。

・現時点でのvapor派のイメージはどんなものか
今の時点でもし共有できるイメージがあるとしたら、「vaporを使っている人は元々は普通(紙巻)の煙草を吸っていた人で、何らかの理由があって今のモノに乗りかえた人」しかない。
妻と思春期の娘に囲まれて肩身の狭い中年のお父さんが、冬の夜中のベランダでIQOSを吸っている、というような。この場合会社の喫煙所では普通の煙草を吸っているシーンがあるかもしれない。
或いは、居酒屋で20代後半くらいの男性が胸ポケットから電子煙草を取り出す。一緒に飲んでる友人が「あれ? 乗りかえたの?」と問い「ああ、今の彼女が煙草好きじゃなくて」と答えるやり取り。もしかして彼女は結婚を考えていて、まだ見ぬ子供の健康のために、彼に今のうちから喫煙をやめる努力をしてほしがっているかもしれない。今の生活に不満は無いけどそれが結婚や将来に繋がっていくという実感が見えない彼は、ニコチンもタールも入ってない水蒸気のため息をついているかもしれない。
何にせよ男性だと「誰かの意志が介入して変更を余儀なくされた」イメージがわくな。

・現時点のイメージは、現時点でしか共有できない
でもこのイメージって今だけのもので、きっと10年後には通じなくなってる。
とにかく喫煙者の肩身の狭い今日の状況を当たり前のものとして育った世代が20歳を過ぎたときには、vaporだけじゃなく紙巻煙草がもたらすイメージさえ変わってる可能性がデカい。
現に、登場人物がガラケーやポケベルを使ってる場面に出くわすと何だかシラける感じは既に自分の中にさえもあるし。

・また閑話
あのシラけが「ポケベルてwww」とか「こいつは○○って機種を使ってるのか、ふーん」とかってことに気をとられてしまって起こるものだとしたら、ガラケーやポケベルの登場で気が逸れる時代もいつか消えるということになる。
今見てる作品に白黒テレビが登場したとしても「そういう時代のオハナシなんですよ」てことを表すエスタブリッシングショットなんだなーくらいにしか意味は汲みとらないよね。

・三たび閑話
映画などの作品に出てくるモノは全て、登場人物・時代・作品のテーマなどを表すために使われている。
例えば、オフィスの机の上に吸殻が山盛りの灰皿が置いてあるだけで、持ち主は喫煙者で何の銘柄を選ぶようなパーソナリティなのか(それが「わかば」なら年配の方か、今あえてわかばカッコイイと思ってるサブカルクソ人間かも)、相当のヘビースモーカーであること、また片づけに対してはズボラで、かつオフィスが禁煙でなかった時代が舞台であることを示すこと(に加えて「今あえてわかばの奴」のセンは消えることと、持ち主が年配に限られなくなったこと)がわかる。あ、吸殻に口紅がついているかどうかで性別もわかるね。本人が姿を表さずともだ。
だから、何かのモノを用いて間接的に何かを表すのはすごく便利で上手いやり方なのよ。
でもモノと結びつくイメージというのは、日々変化していて、作者が意図したように受け取ってもらえるのはほんの一瞬だ。むしろ何かの説明のためにモノを配置すれば配置するほど、主題がばらけていき、解釈が意図しない方向に変わってしまう可能性が大きくなる。
私は作品に触れるときに「今の私」「過去の私」「未来の私」がそれぞれどう感じるか、どう解釈されるのが作者と私にとっていちばんいいことなのか、考えながら鑑賞する癖がある。
でも考えても基本的にはリアルタイムで触れるのがいちばん幸せなことだと思うし、結局現実の自分が触れたとき以外のタイミングでの感想は想像でしかないから悔しい。「ああ過去/リアタイ/未来でこれに初めて触れたかったなあ」と思ったりもする。
あと「このモノが登場するとなると、これ何年したら作者の思うとおりの解釈がしてもらえなくなるか」を考えて、そう遠くない未来の人がこれに触れたらもうこのニュアンスはわからないままなんだなーと勿体なさを惜しみ、同時にゾッとする気持ちにもなったりする。
閑話終わり。

・vapor使いがこれから先、どんな人物の背景になりそうか予想する
個人的な予想としては、
vaporの専門店に行って
リキッドに凝ったり
凝るあまり個人輸入したり
水蒸気がもっくもくに出るように改造したり
耳以外にもピアス穴がバシバシに空いてる
社会生活が不可能になるレベルにタトゥーが入ってる
黒いアイシャドウと口紅とマニキュア(時には男でも)を使う
ヴィヴィアンウエストウッド
フードをいつも被っている
何にせよオシャレ感動高め
パンク
ストリート
渋谷
下北沢
マニア気質
趣味がアングラ方面に偏る
サブカル好き
……てな単語群と部分的に同じ意味を持つ要素になるのでは。
下北だか渋谷だか裏原だかのちっちゃい路地に面した汚ねえ雑居ビルのB1にvapor専門店があってさ、昼でも薄暗いその店に入っていくと、パンクとストリートの要素が入ったオーバーサイズの服を痩せぎすの体に纏った、タトゥーとピアスだらけの男か女かわかんない奴が、狭い店のいちばん奥で、もうもうと水蒸気を吐いている感じ。わかる?
そういうアングラ感の奴ってもう紙巻煙草より海外産のぶっといvaporの方が似合ってる気がする。
あ、ちゃんと読んでないから間違ってるかもだけど、東京喰種のあのお面作る人、確かCVが櫻井孝宏の人、ああいう感じの人。絶対紙巻よりぶっとい海外vaporだよ、あいつは。知らんけど。あーあとハンターハンターでさ、念の存在をまだ知らないクラピカが仕事の斡旋所に行ったとき「あんたこれが見えないんでしょ?」とかなんとか言ってクラピカを門前払いにしたモブとか。あいつはvaporじゃないならドラッグだね、うん。
アングラパターンと家族などの周りの人のために仕方無く移行パターン以上に強烈なイメージが今後現れるなら、一層興味深いわ。

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