親子ワーケーションの現在地と未来〜新潟を例に〜
場所を変えて豊かに暮らし働くライフスタイルの1手段として、興味を持つ方は明らかにコロナ禍前と比較すると増えたワーケーション。そのあり方は、多種多様となっており、ニーズも分かれていっているところだ。今後も細かいニッチな分野が様々に分かれていき、それぞれの特性が問われていくことだろう。
その中で、最近話題が上がってきているのが、親は仕事、子供は現地の体験を楽しむ家族の働き方・ライフスタイルとしての「親子ワーケーション」。「子育てワーケーション」などとも言われるケースもあるが、その現在地と未来について、考察してみた。
潜在的なニーズの高さは?
まず、率直に本当にニーズがあるのか?を問う必要がある。株式会社リクルートじゃらんリサーチセンター森成人研究員の調査によると、滞在型ワーケーションの意向度は以下の通りだ。
・既婚×子供あり:実現している4.2%、実現したい29.5%
・既婚×子供なし:実現している2.9%、実現したい22.4%
・未婚×子供あり:実現している1.7%、実現したい21.7%
・未婚×子供なし:実現している2.3%、実現したい17.9%
もちろん、この数字には「1人になりたい」という層の数字も入っている可能性があるので一概には言えないが「既婚×子供あり」が最も実現している、実現したいという滞在ワーケーション意向度が高いというデータになる。
そして、ワーケーションに興味を持ったきっかけを見てみると、全体では「自分のライフワークをもっと楽しみたくなった」「自分の趣味をもっと 楽しみたくなった」が最も高い。一方で、既にワーケーションを実現している層では「子育てのしやすさ」35.8%、「子どもの教育環境」30.9%と高い割合で回答をしており、非常に高い数値となっている。
さらに、希望のロケーションのヒアリングでは、全体では「子供や家族、パートナーと楽しめるところ」がトップで実現層では59.3%。さらに「子育てのサポートや教育環境が良いところ」も実現層では38.3%と非常に高く、ワーケーションの実現欲、実施状況が高まるほど、子育て環境へのニーズが高まっていると言える。
これは即ち、今後の親子ワーケーションにおける大きな可能性を示唆したデータでもあるのだ。
親子ワーケーションの今
そんな親子ワーケーションが注目されたのは、コロナ禍になってから。株式会社毎日みらい創造ラボ兼毎日新聞記者で公認ワーケーションコンシェルジュの今村茜さんは「親子ワーケーション部」をFacebookグループで立ち上げ、コミュニティを運営している。このグループには既に1,600人を超えるユーザーが登録をしており、日々親子ワーケーションの情報について行き交う。
今村さんご自身は、会社員だが、子供たちと一緒に、日本各地でワーケーションもたくさん楽しんで、子供の成長も見守っている。なぜ興味を持ったかというと、ワーケーションをしてみたいと思ったが、共働きで子どもがおり夫は多忙なので、親子で実践するしかなかった、というきっかけだったそう。
その一方で、ちょうど娘が小学校にあがり、長い夏休みに自分が休みをとれなくても、どこかに連れて行ってあげたいと思ったこともあり、自分のしたい働き方にチャレンジする、子どもも楽しい、自分も嬉しい。といった根本的理由から、親子ワーケーションを実践していき、自らも事業として取り組みを始めたとのこと。
また、親子ワーケーションにクローズアップしたWEBサイトも立ち上がった。株式会社ソトエ代表で公認ワーケーションコンシェルジュの児玉真悠子さん達が運営する「親子deワーケーション」だ。
児玉さんに親子ワーケーションに興味を持った理由を伺ってみた。
そもそも、興味持ったというか、無意識にやっていたとのこと。というのは、出版社で働いていた会社員時代の3年間、8月に夫が繁忙期のため、共働きとして夏休みはいつも9月に取っていました。ただ、私が9月が忙しい場合もあり、お互いの繁忙期が重なると夏休みらしい夏休みが取れないこともあった。
今は、子どもが保育園だから勝手に休めばいいだけだけど、小学生になったら8月はずっと学童になるのか、と想像した先にあったのは、「そんな子育てしたかったんだっけ?」というモヤモヤした気持ち。
子ども時代の夏休みは大人になっても特別な思い出。また、子育てする中で、子どもの興味関心の移り変わりの早さを間近で見て(例:昆虫に興味を持っていたのに半年後には戦隊モノにハマっていたり)、子どもの好奇心の芽をジャストタイミングで育てたいと思うように。
上記のような経緯で、独立を決断し、以降、仕事を持って旅先で働くスタイルへ。
その過ごし方がワーケーションだと知ったのは、2019年の夏事務局メンバーであるフリーランス協会の案件で、山口県萩市のワーケーションパンフレットを作るために萩市に子連れて10日間滞在したこと。
それ以降、子連れワーケーションを発信したり、企画のお手伝いをするようになり、もっと広げたいという思いで株式会社ソトエを創業した。
児玉さんへの取材記事は下記も是非参照して欲しい。
親子ワーケーションには、未就学児と就学時で対応も異なり、きめ細やかな対応も求められるので非常に難しいところもあるが、基本的に満足度も高い傾向にある。
大阪府箕面市で実施された子ども環境情報紙エコチルとmidicaの共同での親子ワーケーションイベントでは、非常に高い満足度を記録した。子供の経験はもちろんのこと、同じ境遇の親同士が交流できるのもイベント型では非常に魅力的だということだ。
ついに子供と日本一周をワーケーションで達成する強者も。
現在は株式会社キッチハイクで「保育園留学®︎」事業などを推進している今井美香さんも、積極的に子供とワーケーションへ出向き、小学校入学前に既にお子さんは47都道府県を踏破していた。そんな今井さんのライフスタイルを覗いてみる。
今井さんに伺うと、現地でのワーケーションで意識することとしては、自分と子どものやりたいことの割合を最低1:1にするよう心がけること。1日につめこまないようにすることだという。
現地でやりたいこととしては、スバリ、その地・現地でしか体験できないことを体験させたい。それが叶わない場合は些細なことででいいから、現地の子どもと同じ体験をさせたい(現地の遊び場にいったりなど)こうしたことを考えているとのこと。
お子さんに家=地球、くらいにどっしり構えられる人間になって欲しいと今井さん。大人のやりたいことが子供の楽しいこととイコールではないと思うので、できるだけ好きなようにやってもらっているとのこと。
そして最近はタイ、ベトナム、カンボジアなどの海外へ。親子ワーケーションだとしても、比較的余白時間が多い、ゆとりある工程が求められうことも非常によくわかるライフスタイルだ。
糸魚川の自治体による親子ワーケーションへの挑戦
親子ワーケーションの事例を見ていこうと思うが、私もよく往来している新潟県上越地方の地域を紹介する。この地域は、北陸新幹線や北陸道などが行き交う要衝ではあるが、東京・大阪・名古屋などの大都市圏からも2〜4時間と離れている。
その中、親子ワーケーションで先陣を切ったのは糸魚川だ。糸魚川市産業部商工観光課宮路省平さんは、糸魚川市で特に親子ワーケーションに取り組んできた自治体職員だ。そのきっかけを聞いてみた。
2021年1月25日に開催されたオンラインイベント「子連れワーケーションってどうやるの?」を見たことが直接のきっかけ。そこに今村さんがモデレーター、児玉さんがゲストで参加。児玉さんが体験した長崎県五島市での体験入学は素直に糸魚川市でも実施したいと思い、教育委員会を巻き込んで事例を共有したとのこと。
その後、その2人のペルソナが連携する自治体を探していて、糸魚川市も何かワーケーションの型が欲しいと思っていたところに親子ワーケーションがまさに合致した。日本で初めて認定されたユネスコ世界ジオパークの地域資源も活用しようとは思っていましたが、児玉さんから提案いただいた図鑑系はドンピシャで、具体的に取り組んでいったとのこと。
そうしてできたのが「シー・ユー・アゲイン・プロジェクト」。子供は糸魚川の小学校に通いながら、親はリモートワークする”体験入学”を制度として導入したことだ。
小学校の子供がいる家庭の親子ワーケーションは夏休みのイベントが多いものの、糸魚川では、子供がそのまま小学校に通うことができるという画期的な取り組みだ。
年に3回、1学期・2学期・3学期毎に1週間ずつ、同じ糸魚川の小学校に通うことができ、一度会ってサヨナラではなく、「また会おうね」と約束できるのが子供にとっても非常に喜ばれるポイントだということ。
糸魚川では、株式会社イールーの伊藤薫さん(公認ワーケーションコンシェルジュ)が中心となって、交流拠点キターレなどで「Tinkering(ティンカリング)」が行われている。
世界に広がる「創造力」と「実践力」を育てる場。TinkeirngBase(ティンカリング・ベース)は地域と自然のなかの秘密基地。子どもたち自身の好奇心・ワクワクする気持ちを原動力に、21世紀に大きく変化していく世界を「生き抜く力」を育てる場であり、コミュニティを糸魚川で実施している。
「小学生向けコース」では、アフタースクール(民間学童)やウインタースクール、「中学生・高校生向けコース」では、プログラミング教室 Code Camp コード・キャンプなど。その他、細やかなイベントが随時行われている。
妙高で進む、親子ワーケーションイベント
また、糸魚川周辺の地域も親子ワーケーションのイベントが盛んである。妙高もその1つで、近年では春・夏休みと親子ワーケーションイベントを実施し、毎回満員御礼となる。妙高市グリーン・ツーリズム推進協議会(妙高ワーケーションセンター)の竹内義晴さん(公認ワーケーションコンシェルジュ)が企画・運営に大きく関わっている。
親御さんから見た子供達の様子や親御さんたちの評価も非常に上々とのことで、イベントの機会を通し、次のようにレポートしている。
満足度が非常に高いものとなるのが特徴で、リピーターも増えてきている妙高の状況。今後の展開としては、平日であっても親御さんが働きやすい環境で、お子さんも普段とは異なる自然体験ができる機会を増やしていきたい、と竹内さんは考えているとのこと。
今後は地域による特色が更に求めれていくことが予想されるが、親子ワーケーションは既に取り組んでいる地域は、助成金などに頼ることなく、実現をさせていっているのである。
妙高ワーケーションには、親子ワーケーションのレポートが掲載されているので、是非ご参照いただきたい。
これからの親子のライフスタイルを考える上で、1つの選択肢となる親子ワーケーション
ここまで見てきた通り、親子ワーケーションはこれからの親子のライフスタイルを考える上でも、1つの選択肢に入る可能性が出てきている。特に子供の経験という意味では、違う地域での経験は刺激になり、これからの子供の成長にも活かすことができるだろう。
一方で、親御さんの集中して働ける環境の確保と、お子さんを安心して預けられることや快適な仕事環境をつくることなども求められていく。
私自身も2児の父であるので、上の子が4歳になってから積極的に各地に連れていっている。母親主導の親子ワーケーションが目立ちがちだが、父親主導があっても良い。現地の方とバーベキューを共にする時は、一生懸命肉を焼いたり、琵琶湖では湖に飛び込んだりなど色々と本人の経験値は上がっていきそうだ。
今度は親子ワーケーションのニーズは高まっていくことが予想されるが、通常のワーケーションと同様に、出発地では全国各地の家庭にニーズは存在している。少しニッチなマーケットにもなりうるので、特定の地域の発着に拘るよりも、幅広い地域からの集客をしていく、プランの中身やきめ細やかさでカラーが出てくると思われる。
また、さらには特定の期間にとらわれない、行きたい時に、親子ワーケーションができるような環境にしていくことも求められていくだろう。これについては、社会全体での在り方も考えていく必要が出てくる可能性がある。
少子化の時代。だからこそ、働き方やライフスタイルの多様化を見直し、是非子供たちがイキイキと、親も楽しく働き暮らせる環境に日本社会がなっていくことを願っている。
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