韓国におけるワーケーションの今とこれからの日本との交流
2023年に入り、日本ではコロナが5類へ移行し、人々の往来が活発化された。それにより、私は日本のワーケーションはよりコミュニティ化しており、ライフスタイルや働き方の着眼点で加熱ではなく少しずつ緩やかな市民権を得ていくと考えている。
そうした中で今年初めから、私自身は特に周辺地域の国のワーケーションにも関心を持ち、関わり合いや交流を増やしてきた。その中で学んだことを、今回記事にまとめてみた。
韓国と日本の地域課題は非常に似ている
まず、韓国語でもワーケーションという言葉がある。「워케이션(ウォケーション)」と表記されており、ニュアンスとしては日本と殆ど変わらない。
韓国国内でワーケーションの機運が高まったのは、日本とほぼ同じコロナ禍を迎えてリモートワークなどの働き方などへの関心度が高まったことに由来する。企業としては、働き方の多様化を考えるようになり、個人としてはライフスタイルの多様化を考えるようになり、結果、推進が進んだとされている。
そして、韓国は日本と同じ「首都一極集中」「少子高齢化」の問題を抱えており、日本よりも深刻な状況となっているとされている。例えば「首都一極集中」は日本の東京首都圏の場合は日本の人口の約28%が集中するとされている(参考国土交通省データ)。一方で、韓国のソウル首都圏の場合は、半分以上の51%がソウル・仁川・京畿道の首都圏に集中するとされている。
日本の場合は、2015年から2020年への国勢調査で人口増加数のトップ10に首都圏以外にも福岡市(2位)、大阪市(4位)、名古屋市(7位)、札幌市(9位)など大都市ではあるが首都圏以外の都市も上位に位置しているのに対して、韓国は上位10カ所のうち首都圏でない市郡区は世宗市(セジョンシ)(1万6000人)と忠清南道牙山市(チュンチョンナムド・アサンシ)(1万4000人)だけで、両地域は政府中央省庁が密集していたり、先端戦略産業特化団地に指定されたところだという。
また、少子高齢化についても、出生率が日本も韓国も低く、特に韓国は建国以来続いていた人口増加が2022年についに減少に転じた。出生率は世界で最も低い水準となっており、国全体の課題となっている。
後述することになるが、韓国第2の都市の釜山ですら、かなり深刻な状況となっており、歯止めが効かなくなってきた。それにより、ワーケーションの機運が高まり、国も挙げて推進するようになったと言われている。この地方都市への流れを作りたいというきっかけは日本と似たようなものがある。
リードする釜山市、日本を参考にしたが、目標設定は違った
そうした韓国におけるワーケーションの機運が高まった中で、先ほど述べた韓国第2の都市・釜山市が動いた。始めたきっかけは明確で、人口減少の歯止めがかからない状況の中でなんとか打開するきっかけの1つにしたいということだ。
釜山市は、事業を始めた当時は、日本の中でワーケーションのフロンティアとされている和歌山県を参考にしたという。ただし、この次が日本の自治体と目標設定が異なっていた。釜山市の行政は事業を始める段階で、既にデジタルノマドが集まるチェンマイ(タイ)などへも視察へ行き、事業の開始時点から「既に韓国国外から来てもらうこと」を想定していたのである。
私たちは、2023年9月上旬に行われた、釜山市と韓国観光公社が主催する、釜山のワーケーションファムツアーへ参加した。約30人の参加となった。釜山市の釜山産業創造センターのKwakマネージャー(곽규열)が街の取り組みを紹介してくれた。
釜山市はアスティホテルに大型な拠点となるワーケーションセンターを作った
釜山市はワーケーションをする方は企業の合宿から、個人のデジタルノマドまでいることを世界を視察したことで把握しており、将来的には多様な働き方を受け入れられる街を目指していく
釜山市は街の中で、ワーケーションのネットワーク機能を構築している
釜山市の考え方は「ワーケーションという生態系を創造すること」だ
釜山市の対象はソウルだけでなく、世界中から来てもらうことだ
手厚い補助などもあるが、私はそれよりも上記の考え方に日本の自治体との差を感じた。(私はそもそも6月に彼らが大阪に来た時に既に話を聞いていた)このファムツアーには、日本ワーケーション協会に所属している会員からも多く参加があり、彼らも上記の考え方に関心が高く、釜山市への質問が相次いで予定時間をオーバーした。そのぐらい熱い議論が繰り広げられた。
果たして日本はここ数年のワーケーションの取り組みで、多様化を受け入れ、生態系を創るといったビジョンのもとで国や自治体は動いてきたのだろうか?そうした疑問が日本の参加者から湧き出てきたのである。
そして、このような動きの中で、韓国政府は2023年に「ワーケーションビザ」を新設した。韓国国外の人がリモートワークやテレワークをしながら1~2年間、韓国に滞在できるビザで、観光ビザの滞在を大きく越える長期の滞在が可能だ。
◾︎釜山のワーケーションサイト(韓国語)
日本はワーケーションをドメスティック(国内的)に考え過ぎた。日本を参考にしてくれた韓国は、初めからグローバル(国際的)に考えており、私は現状で取り組みが負けていると考えている。この点だけでも日本も韓国から学べることが非常に多い。
なお、Kwakマネージャーは、私たちが日本人向けに行っているPodcast「ワーケーションのんびりラジオ」の収録を快く受け入れてくれた。是非こちらのPodcastも聴いて欲しい。(URLはSpotifyで添付しています)
個人が集まるコミュニティ「Digital Nomads Korea」
民間の取り組みにも目を向けてみたい。ソウルに住むJeongさん(조정현)は、hoppersを立ち上げた。いつでもどこでも働ける仕事文化を作り、韓国をデジタルノマドの聖地にしていくことをビジョンとしている。
◾︎hoppers(韓国語)
彼女は、2023年2月に「Digital Nomads Korea」というコミュニティを立ち上げた。これは世界中から韓国へのデジタルノマドやワーケーションに関心がある個人が集まるコミュニティでやり取りは全て母国語・韓国語ではなく、英語で行われる。DiscordやWhatAppなどでコミュニケーションが図られており、現在は世界中から300人を越えるワーカーが登録をしている。
◾︎Digital Nomads Korea(英語)
また、済州島(チェジュ)でのワーケーション・デジタルノマドに関するイベントを開催している。2023年10月22日〜11月19日にも予定をしており、個人ワーカーのコミュニティから多くの参加者が見込まれている。さらに、ソウル市内では、2023年9月下旬にコリビングを開設し、気軽に世界中から韓国へ訪れるワーカーを受け入れる準備を進めている。
彼女の韓国での動きは、まさに日本でも必要であるものが多く、日本でも参考にすべきことが多い。街やコミュニティのファンを作り、連れてくる。日本ではワーケーションをデジタルでプロモーションをするかに拘り過ぎている人も多いが、私自身は基本的にファンがファンを呼ぶ構図だと考えており、このような取り組みが今必要であると感じている。
ちなみに、彼女が運営するコミュニティには日本育ちのみえさんもコミュニティマネージャーの1人として参画している。そのため、日本人でも韓国へのワーケーションやデジタルノマドに関心が高い方には非常に入りやすいコミュニティとなっているので、是非推薦したい。(みえさんのInstagram)
B to Bの動きを創る「THE HYUIL」
続いて、日本でも想定されているB to Bのワーケーションについて、韓国の現状をまとめていく。日本ではこのワーケーションを「オフサイトミーティング」「開発合宿」などと言い換えていくことが増えているが、韓国ではその需要がありつつも、少し異なる取り組みも行われている。
異なる点としては、例えば社員700人を、従業員のリラックスなどを目的に済州島にワーケーションで行くと定め、チームや数名単位で期間中に入れ替わりに同じ会社から行くというモデルだ。日本ではこのポイントは、なかなかできていない着眼点であり、できていても、ここまでの規模感に至っている事例がない。
もちろん韓国企業にとっても、諸問題はあるものの「やってみてダメなら考えれば良いじゃん」という方向性があると感じている。一方で日本企業は初めから「できない理由を模索」していると感じている。是非この規模感で日本企業も行って欲しいものだ。
ソウルのスタートアップベンチャー「THE HYUIL」を運営するのはHoonさん(신동훈)私も釜山市で彼の1分ほどのプレゼンテーションを聞いて、直ぐに仲良くなりたいと感じた。韓国国内で展開を行った後に、日本への進出を考えていたとのことだ。
◾︎THE HYUIL(韓国語)
THE HYUILでは、企業向けのワーケーションのワンストップサービスを展開している。2020年の創業以来、17自治体・18の地域、260社の企業合計1,500名以上をサポートしてきた。さらにHoonさんは韓国国内での講演会にも呼ばれることが多く、日本における私の立ち位置に近しいと感じている。
彼の話によると、韓国の企業の中でも日本へワーケーション(オフサイトミーティングなども含む)に行きたいという声があがっているという。特に福岡などの九州地方を中心とした西日本方面だ。実はこの着眼点は今後非常に重要になる。
西日本地方では体感されている方も非常に多いのだが、実は大阪より西では、東京よりソウルが近い。大阪以西では、ソウル仁川空港からは広島、米子、高松、松山、福岡、北九州、佐賀、大分、熊本、宮崎、沖縄とかなり多くの地方路線と結ばれている。つまり、ソウル企業のワーケーションが東京の企業以上に射程圏内に入るのだ。この距離感は、島国目線で考えていると気付くことができず、視野を広げなければ気付かない部分だ。
これは、日本企業が海外へワーケーションに行くのも同じことが言える。大阪より西では、北海道よりも韓国の方が近くなる。日本も韓国へ訪れる機会を増やしていくことが必要だ。
今後、日本ワーケーション協会ではTHE HYUILの進出を支援し、日韓のワーケーションの連携を深めていく予定である。
これからは国を超えたワーケーションの連携が不可欠
このような韓国の現状があるなかで、これからの日本のワーケーションにおいて考えるとやっていかないといけないことは多い。シンプルに世界目線で見ると、日本と韓国は非常に近く、周遊レベルである。私たちが例えばヨーロッパでイギリスとフランスが近いと感じるぐらいの感覚で、訪れる方が多い。しかも課題感が似ている。そのためにも強固な連携が必要だろう。
まだまだ世界のデジタルノマド・ワーケーションの人口割合はアメリカやヨーロッパが75%と高く、アジア地域は8%。世界人口に比較すると非常に少なく、言い換えると今後はまだまだ大きく伸びる余地があると言えるわけだ。
日本も韓国も、個人での国内を巡るワーケーションをする人は増えてきた。特に日本では実施率4%〜6%と低いと言われがちだが、計算上、人口規模にすると500万人に近づいてきているとも言われており、これは登山家や頻度が非常に高いサウナーと数値が近くなってきている。
また世界と日本のノマドを繋ぐ英語でのコミュニティが必要であるが、それは日本デジタルノマド協会が担っていくだろう。日本ワーケーション協会は企業や自治体の会員で6割以上を占めており、日本におけるネットワークが非常に強いことから、ローカルサイドと日本人のワーケーションネットワークを活かした連携を進めていく。
最後に、この記事を読んだみなさんには是非、まずは近場で良いので韓国からワーケーションに訪れたり、視察したり、話を聞いたり、交流を深めて欲しい。
私は今回の記事に出た皆さんとは既に日本と韓国両方でお会いしている。日本人に多い「一方的な来てください」では誰も来ない。しっかり関わり、例え英語が苦手だとしても今は翻訳機でコミュニケーションを取る等、工夫はできる。パッションの方が大切だ。
日本から韓国へは最も近い海外だ。特に釜山のワーケーションファムツアーで意見が出た「時差がないので会社員にとってもワーケーションができる」というのは非常に大きなメリットだ。日本に多くの方に来てもらうには、日本からもたくさん訪れる必要がある。そのようなムーブメントをこれから起こしていきたい。
そして、それが私たちの日本人1人ひとりの豊かなライフスタイル、働き方の多様化にも繋がっていくだろう。私たちはこれからも1人ひとりの豊かなライフスタイルの観点から歩みを続けていく。