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映画的ゲーム批評〜 『Life Is Strange』〜

『Life Is Strange』は、アメリカ・オレゴン州の架空の田舎町「アルカディア・ベイ」を舞台に、時間を巻き戻せる能力が発現した女子高生マックスと親友クロエの青春を描くテレビゲームです。

マックスを操作して様々なオブジェクトを調べたり人物と話をするなどして情報を集め、ゲームを進行させていくスタイルのテレビゲームで、ゲームオーバーの概念はなく、たとえ悪い選択を取り続けたとしてもストーリーはその選択に沿って展開が変化し、最後まで進行するマルチエンディング方式が取られています。

このゲームは映画的なゲームです。マックスを操作し、高校生活やマックスの周囲で起こる様々な出来事に対処していきます。

ストーリー
マックス・コールフィールドはオレゴン州の田舎町「アルカディア・ベイ」に5年ぶりに戻り、ブラックウェル高校の写真学科に通い始める。ある日の授業の後、女子トイレに現れた青い蝶の写真を撮っていると、男子生徒と女子生徒の二人組が争いながら入ってきた。口論は徐々に激しくなり、男子生徒は持っていた銃で女子生徒を射殺する。物陰から一部始終を覗いていたマックスが手を伸ばした瞬間、マックスはまたその日の授業の時間に戻ってしまう。時間を巻き戻す能力を手に入れたマックスはその能力を利用して事件を未然に防ぐ。

マックスは学校の駐車場で先ほどの男子生徒、ネイサン・プレスコットに詰問されるが、先ほど救った女子生徒に救われる。女子生徒は髪を青く染め、高校も既に退学していたためすぐには気づかなかったが、5年前に町を去るまでマックスの親友だったクロエ・プライスだった。

マックスはクロエを見捨て、クロエは見捨てられたという意識があり、二人はわだかまりを抱えていた。クロエはマックスが連絡をくれなくなったことや父親が交通事故で亡くなったこと、マックスが去った後に心の拠り所になってくれた親友のレイチェル・アンバーが失踪したことなどでグレてしまっていた。

孤独を抱えるクロエを救うために、マックスはクロエと共にレイチェル・アンバー失踪の真相を探り始める。

『Life Is Strange』にはいくつかのエピソードがあるのですが、物語に通底するテーマは「選択」です。物語に度々登場する青い蝶と竜巻というイメージは、『Life Is Strange』が「選択」に関する物語であることを示しています。

カオス理論と呼ばれる理論の一つ、バタフライ・エフェクトはアメリカの気象学者エドワード・ローレンツが講演の中で「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすか?」という問いかけに基づく理論です。これは気象学のみならず、量子理論学などにも応用でき、遠くで蝶が羽ばたくような些細な現象が未来で大きな竜巻を起こすような影響を与えるという考え方です。

このバタフライ・エフェクトはサブカルチャーの分野にも大きな影響を与え、レイ・ブラッドベリの小説『サウンド・オブ・サンダー』(バタフライ・エフェクトという言葉が誕生するより早く書かれた小説)を始め、『バタフライ・エフェクト』(2004)や『カオス』(2005)、『ミスター・ノーバディ』(2009)といった映画の基になっているほか、イギリスのロックバンドMUSEのButterflies and Hurricanesという曲もあります。


『Life Is Strange』は、このバタフライ・エフェクトが物語の軸になっています。マックスは作中で何度も時を戻して「選択」をやり直すことになります。そしてその選択が必ず良い結果をもたらすとは限りません。

マックスの前に現れる鹿


以下、ネタバレがあります!お気をつけください!



クロエを助けようととった行動が、むしろクロエを傷つけることになることもあります。そして最終盤にはクロエの命と町の命運の二つを天秤にかけた最も大きな決断を迫られます。

マックスが予知夢として見る竜巻の夢は全てクロエの死と密接に関係しており、クロエの生死に何らかの関連があるタイミングで竜巻の夢を見ることになります。

そしてその夢に現れるのが雌鹿です。夢に半透明な姿で現れたり、現実世界でもマックスの前に現れます。OPでマックスの夢に現れ、その後にクロエが女子トイレで射殺されるシーンに繋がります。その他にも雌鹿はクロエの生死が関連する前後で必ず現れます。

用務員のサミュエルが言うように、この雌鹿はマックスの守護霊で、マックスを導いていると考えられます。

そしてこの雌鹿は殺害されたレイチェル・アンバーが転生した姿あると思われます。マックスの前に半透明で現れ、さらにクロエの死を回避するために時間を巻き戻すタイミングで現れます。そして廃棄場でマックスの前に現れた時に後を追うと、少し開けた場所で佇んで再び走り去っていくのですが、その場所は後にマックスとクロエがレイチェルの遺体を掘り起こして見つけるまさにその場所でした。
そしてレイチェルの遺体を見つけて泣きじゃくるクロエを半透明な雌鹿が俯きながら見つめています。

クロエへの死の予言

雌鹿はクロエの死を回避させるために現れますが、クロエが死ぬ運命は既に決まっているように思われます。

どの選択をしてクロエを救っても、より悪い方向に事態が進んでいくのがこの物語の流れですが、これが必然であることがいくつかの場面で示唆されています。

まずマックスとクロエが再会する場面で車に描かれえいたプロビデンスの目の落書きです。プロビデンスの目は三角形の中に目が描かれたマークで、キリスト教では全知全能を表す意匠です。
一番最初に車を覗けるシーンでは描かれていないプロビデンスの目が、一緒に車に乗ったシーンでは突然出現します。これはマックスが全知全能のような時間を巻き戻す力を持っていることを示しています。そしてその目の隣、クロエの座る運転席の後ろにYou're About To Die(あなたはこれから死ぬところ)と書かれており、これを合わせるとプロビデンスの目には神の運命の下にあるクロエの死の運命という読み解き方もできそうです。

そしてダイナーのトイレにはアメリカ先住民のホピ族の予言が血文字のように書かれています。
このホピ族の予言は「青い星のカチーナ」と呼ばれるもので、「欲望のままに生きると人類は滅びるだろう、そして浄化の日が始まる時、夜空に青い星が現れるだろう」みたいな予言です。そしてレイチェル・アンバーの写真に一枚くっきりと不自然な青いシミが写っており、レイチェル・アンバーは殺害されることから、青い星が死の象徴であることが分かります。
この予言の通り町が浄化されるか、クロエの死を受け入れるかの二択を迫られるので、クロエの死は運命づけられていたことが推測できます。

『Life Is Strange:Before The Storm』の引用 
タルコフスキー、シェイクスピア

『Life Is Strange:Before The Storm』は『Life Is Strange』の前日譚を描くスピンオフ作品。クロエが主人公となり、レイチェルとの交流を主軸にした物語になります。

親友のマックスが遠くに越してしまい、父親も事故で亡くした失意の中で出会ったレイチェルとアルカディア・ベイを捨てて生きるために様々な困難に立ち向かっていきます。

この作品で繰り返されるのは火の象徴性の引用です。

レイチェルが父親の写真を燃やしたことが原因で、山火事が起きます。

このシーンは恐らく、ソ連の映画監督アンドレイ・タルコフスキー監督の『サクリファイス』(1986)が基になっていると思われます。

『Life Is Strange:Before The Storm』
『サクリファイス』

『サクリファイス』は地球を核戦争から救うために自分の持っているものを犠牲にする男が主人公の映画です。
『Life Is Strange:Before The Storm』も、前作『Life Is Strange』も『サクリファイス』と共通するテーマを持っています。違う部分は、『サクリファイス』が自己犠牲によって世界を救う話であるのに対し、『Life Is Strange』シリーズでは、世界を犠牲にしてでも愛する人間を守りたいという全く反対の構造を持っていた点です。

タルコフスキーはこの火や水の象徴性を好んで利用しました。

アンドレイ・タルコフスキー

さらに『Life Is Strange』は全体を通して、フラナリー・オコナーの『善人はなかなかいない(A Good Man Is Hard To Find)』や『すべて上昇するものは一点に集まる(Everything That Rises Must Converge)』などの小説が根底にあると思います。オコナーについてはいつか詳しく書こうと思っていますので、よかったらお読みください。

クロエが『Life Is Strange:Before The Storm』で演じる劇はイギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピアの『テンペスト』です。クロエは精霊エアリエルを演じます。レイチェルを孤独から救う力を持つものの、過去の経験から自由を感じられないクロエ。レイチェルは舞台上で、アドリブを持ってクロエとの友情に応えます。
これは本当に本当に素晴らしい脚本であると感じました。

スマホゲームが増えていて、テレビゲームが減ってきている現状ですが、テレビゲームの魅力がちょっとでも伝われば嬉しいです。



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