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深田晃司監督の話を聞き、一流のクリエイターの表現力に感動した話

カンヌ国際映画祭の作品賞を受賞した「淵に立つ」などで有名な深田晃司監督が、アイルランドのアジア映画祭にゲストとして来られ、幸運にも彼のトークイベントに参加させてもらいました。

恥ずかしながら私はあまり映画を知らず、せっかくの素晴らしい機会に、私のような者が参加していいのだろうかと、少し後ろ向きな気持ちで参加しました。

しかし、その後ろ向きな態度を一変させ、前のめりになってしまう素晴らしいイベントでした!心の底から深く感動したのですが、何に感動したかというと以下の3つだと思う。深田監督の表現力の高さ、一流の人の魅力、そして曖昧な作品の持つ意味。

①表現力の高さ

一流のクリエイターって素晴らしいですね。映画って言葉だけでなく、視覚に訴える芸術ですが、深田監督がその根本に持っている想いやテーマは、驚くほど洗練された言葉に昇華されていました。表現力が半端ない。

彼がテーマにしているのは死や孤独という人間が根本的に恐れているもの。それらから逃げ出すために、人は仕事や家庭や何かに打ち込むのだと。

メメント・モリ(死を思え)というラテン語がありますが、見たくない現実に対峙することが実は人生を深くするのだと私は解釈しています。
多くの芸術家が死をテーマにしているのはそのためだと、監督は考えており、ご自身もそれらに向き合う機会を作品を通じて提供していきたいのだと。

カメラワークの事や、感情に訴えかける音楽を多く使わないことなど、映画製作のノウハウもお話しされていましたが、私が何より感動したのは彼の映画製作にかける情熱とその源泉、そしてそれを言葉にする表現力でした。
人の前でたくさん話をしてきたことがわかる、面白くわかりやすく情熱を伝えることのできる方でした。

一件熱い感じの方じゃないんですよね、飄々としていて。
そのギャップがまた魅力的でした。

②一流の人とは何らかの形で自分の強みの表現に成功している人

自分が何に影響され、何を感じ、何を想い作品を作っているのかが、完全に美しいまでに言語化されていて、聞いていてうっとりしてしまいました。ストーリーテリングの偉大さですね。

興味深い話を次から次へと話してくれ、聴衆の質問にも丁寧に答えてくれ、あっという間に1時間半が過ぎてしまいました。

私は実は深田監督作品自体は、薄気味悪く不条理で、あまり好きではありません。しかしそれでもなお、作品そのものよりも、それを生み出すクリエイターの魅力に引き込まれてしまった印象的な経験でした。

どんな世界でも一流の方はやはりすごいですね!あまり興味がない、好みではないなどという気持ちで自分の世界を狭めず、機会に恵まれればどんどん人に会いにいこうと思わせてくれました。

一見興味がない分野だとしても、一流の人とは何らかの形で自分の強みの表現に成功している人だと思う。そんな人に触れると、分野は違えど、自分を活性化させるのだと、気づかせてくれる出来事でした。

③曖昧さは自己認識の一助となる

繰り返しになりますが、私は深田監督の作品はあまり好みではなく、その大きな理由は不条理でバッドエンドな物語が多いこと。何のために、何を主張したくて制作しているのかが理解できませんでした。

でも監督の話を聞いて、彼が具体的な映画から何を受け取るかは人それぞれに任せていることがわかりました。自分の解釈で映画を見てほしくて、何も得ることがなければそれも構わないと。
現実世界でも答えのある質問は多くないため、個々の答えを持てるよう曖昧なままで終えている作品が多いのだそうです。

その考えを聞いて、彼の作品から得た私の答えがわかりました。
彼の作品は、私の中の恐怖の源泉が何かを直視させるものだった。怖くて不快で後味が悪いから、見たくないし考えたくないのだけど、曖昧なこの映画を見ることで、自分のことがわかる。芸術は、自己認識の一助ともなるのだと学べた素晴らしい機会でした。

具体的なことからは意図がくみ取れなくても、抽象的な概念を理解することで、視野が広がることがある。
例えば、仕事で上司やクライアントの具体的な指示がわからない時、その背後にある概念や希望を理解することで、なぜその具体的な方策がでてきたのかわかることがあります。
人の根本にあるモチーフや、テーマを理解することは、世界を広げると感じられました。


天空の城ラピュタに感激し、そのモチーフに使われたガリバー旅行記に大きな影響を受けたという深田監督。
ガリバー旅行記は小人の国が有名ですが、その他の話は実は暗い内容が多く、深田監督作品に通じるものがあるとか。アイルランドに埋葬されている著者ジョナサン・スウィフトのデスマスクを訪ねたりしたそうです。

私もガリバー旅行記の小人の物語は読んだけど、他の話も読み、今しばらく深田監督の魅力に酔いしれようと思います!

深田監督の初小説、「淵に立つ」も映画とはエンディングが異なり、参考になりました。
多くの学びと感情の変化を感じることができるイベントでした。深田監督、ありがとうございます!



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