読書ログ:『LESS IS MORE』- 脱成長は世界を環境破壊から救えるのか?

最近流行っている脱成長について英国の人類学者Jason Hickelがまとめている、『LESS IS MORE - How degrowth will save the world』を読みました。内容が重いので、読書ログ後回しにしていましたが、ざっくりまとめておきます!


脱成長について、社会ができることに加え、個人ができることまでまとめてあって、非常に面白いです。日本語版が出ていないのが残念ですが、そのうち翻訳されることを期待。

希望の話

冒頭から、現在の絶望的なエコファクトが述べられます。海が死んでいる、土地が死んでいる、多くの動物が死んでいる。暗い話が続き、悲しい気持ちになります。

例えば多くの海で、既に魚よりプラスチックの方が多い事実や、6600万年前にpH濃度が0.2下がったときに、海洋生物の75%が死滅したのですが、科学者の予想によると今世紀末までに海のpH濃度は0.4下がる予測が立っていることなどです。
皆さんもいろんな話を聞いたことがあると思いますが、地球の現在の状況がいかに絶望的かを述べています。

しかし著者は、この本を希望の話だと位置づけています。まずは絶望的な現状を認識し、今すぐに適切な行動をとることで、未来の人類のためにより良い環境を残していこうと語る希望の本なのです。

資本主義の問題

広がる貧富の格差、教育や雇用機会が一部の人に集まり、不平等はますます広がるばかり。世界は、資本主義の限界が近づいていることに気づいていますよね。

著者は、何よりも成長自体が目的となっている資本主義が問題であると述べています。

すべての生物は成長を目的としています。植物は光を浴び水を得て、自身もどんどん成長し、そして種子をばらまきます。動物も小さな体で生まれ、どんどん大きく成長し、繁殖して子孫を残します。

しかし自然界の成長は自然制御されています。ある植物が繁殖しすぎると、それらを餌にする虫が大発生し、その植物の行き過ぎた繁殖を防ぐなど、生態系は絶妙なバランスを保っているのです。

しかし資本主義は違います。各国のGDPベースのインフレ目標は約3%に設定されていますが、その成長に終わりはありません。3%の成長は小さなものに見えますが、実際は23年ごとに2倍になる計算になります。46年ではそのまた2倍と増え続けます。これが複利の力です。

一体何のための成長なのでしょうか?

富める者の余剰資産を、貧しい者を救うために使えば、世界の貧困問題は解決します。しかしその後、人類がさらにGDPベースで成長を追い求める理由は何なのか、と著者は問いかけます。

今、地球で起きているのは、GDPが成長する毎に、エネルギーが、リソースが、無駄になっているということなのです。

脱成長に向けての5ステップ

著者は資本主義から完全に脱却することを勧めているわけではありません。目的なき成長をやめろと言っているのです。

また脱炭素が叫ばれており、多くの対策がとられていますが、それは究極的な解決法とはなりません。なぜなら、クリーンエネルギーは今あるいくつかの問題の解決とはなりますが、森林伐採や魚介類の乱獲、土壌汚染の抜本的な解決には結びつかないからです。

脱炭素だけでは足りず、以下の5ステップを踏みドラスティックな改革を経ることが、社会の成長を抑制する根本的な解決につながると著者は述べています。

① 計画的陳腐化を終わらせる

携帯や多くのガジェットは、ある一定期間過ぎると、新たな商品が欲しくなるように設計されています。これは購買者の責任ではなく、消費行動を煽り無駄な消費を繰り返させる販売者の責任です。

例えば長期保証を義務化したり、消費者が自分で簡単に修理可能な製品のみ販売するよう制度化すれば、物の寿命が延び、無駄な買い替えが減るはずです。

② 広告を削減する

ただ一時的に商品を売るためだけの広告を削減すると、資源の無駄遣いも減るし、無駄な消費も減ります。

実際にパリや、サンパウロで、屋外の広告を減らす、学校周辺の地域では広告禁止などの対策を取った結果、人々はより幸せを感じるようになったと言う研究結果もあります。

③ オーナーシップからユーザーシップへ

各国にて、所有から共有への動きは盛んだと思います。経済的な観念だけでなく、環境にも配慮した素晴らしいムーブメントだと思います。子供服や子供のおもちゃなど、期間限定のものも出来るだけ消費を減らし、共有していきたいと思いました。

④ 食品廃棄(Food waste)を減らす

日本語で食品廃棄と言うとフードロスとフードウェストを含む概念だと思いますが、ここで話しているのはサプライチェーンの下流であるフードウェストを減らす事です。

サプライチェーンの下流の食品廃棄とは、小売産業、外食産業、最終消費者である家庭などにおいて、必要以上に購入し、食べられるものを捨てる状態を指します。フードウエストを減らすことは、個人ですぐに行える重要な環境対策です。
私もいつも外食ではドギーバッグをお願いするし、無駄に購入しないように心がけています。

⑤ 生態系破壊をもたらす産業の抑制

化石燃料産業、食肉産業など、見直されなければならない産業が多くあります。一つの例として牛肉税の導入が挙げられていました。牛は、広大な土壌と飼料を必要とする最も非効率である食べ物であると結論づけられています。私は牛は好きなので寂しい気持ちもありますが、前半の地球の絶望的な状況を読むと、牛消費量を減らさなければと思いました。

コロナによって、どの産業が人類に必要で、どの産業が実際は上辺だけのものなのかが明らかとなった今だからこそ、人類全体となって産業抑制の議論をすべき時がきていると著者は述べています。

最後に

今ある快適な生活をすべて諦めて、急に環境重視一辺倒にするのは無理だと思います。しかし個人が、みんなやっているし、と責任を他人に押し付けているうちに、環境破壊はどんどん進んでしまいます。
私も小さな行動ではありますが、少しでもより良い未来を子供に残せるように自分の消費行動を見直していきたいと思います。

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