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おじさん、イルミネーションとって!


 クリスマスプレゼントが欲しい。そう小学二年生の姪の遥にせがまれたのは、クリスマスが来週に迫った週末のことだった。
 社会人2年目、実家暮らしで彼女と別れたばかりの俺はこのかわいらしい姪のお願いに二つ返事で答えるとすぐに姉に承諾をとって遥と街へ繰り出した。

「亮くん、星が降ってきてる!」

 遥が腕を大きく振りながら目を輝かせている。左腕には先ほど俺が購入した子ども向けのブレスレットがイルミネーションに反射して同じくらい光っていた。

「星が降る、良い表現だね」

 遥の頭を撫でながら俺が言うと遥はそうでしょ、と得意げに笑う。

 12月の日没は早い。昼過ぎにショッピングモールに入った俺達が買い物と早めの夕食を済ませて出てきた頃にはもうすでに空は暗くなっていた。
 ショッピングモール前の広場のイルミネーションが点灯され、クリスマスの音楽に合わせ瞬いている。

「亮くん、もう帰るの?」

 イルミネーションの星の粒の中を歩く。遥は寂しそうに俺に言った。
 時刻は18時、そろそろ帰らなければ遥の寝る時間が遅くなってしまう。

「そうだね」

 俺が答えると遥は唇を尖らせながら頷いた。

「この星、ママとパパにも見せたいな」

 イルミネーションを指差す遥。

「写真撮ってもいい?」

「いいけど、ちょっと難しいかも」

 イルミネーションの撮影はなかなかうまくいかない。光がどうしても小さく写り、見たままには撮れないのだ。

「やってみる?」

「うん」

 スマートフォンのカメラを起動して遥に手渡す。遥は数回シャッターを切って俺にスマートフォンを返した。
 遥の撮った写真の画面にし遥にもどすと、遥はうーんと唸った。

「うまくとれないね、亮くんも撮ってみて」

 遥に言われて、俺も数回シャッターを切る。今度は二人で確認して二人で唸った。

「星っぽくないよ」

「そうだね」

 その後も二人で何度か機能やフィルターを変えて撮ってみたがうまくは行かず、遥の顔がすこし曇っている。

「来週はパパとママと来たらどう?」

「……うん」

 渋々と言った頷きにこれではダメかと頭を抱えたくなる。せっかくのお出かけだ、どうせなら楽しかった気持ちのまま帰ってもらいたい。

 何かないものかと思って辺りを見回す。和菓子店とお茶の専門店が並んでいるのを見つけて別れた彼女が見せてくれたネットの特集記事が思い当たる。

 イルミネーションを撮るのは難しいがこれならいいかもしれない。

「あ、遥。ちょっとあのお店いこう」

「亮くんどうしたの?」

「あの星は持って帰れないけど、別の星、持って帰ろう」

 そう言うと、遥は不思議そうな顔をして着いてきた。

「ただいま!」

 帰宅した遥はとてもいい笑顔で母である俺の姉に飛び込んだ。

「おかえり、遥。楽しかった?」

「うん! ほら見て! 買ってもらったの!」

「ブレスレット? かわいいわね。ちゃんとお礼言えた?」

「うん! あとね! おみやげあるの!」

「おみやげ? なにかな?」

「えっとね、お星さま!」

 高揚しすぎて次から次へと言葉が出てくる遥の言葉を聞きながら、リビングへ向かう。俺は手を洗ってすぐ、キッチンへ向かいおみやげの準備をする。

 お湯を沸かしお茶をいれて、お菓子を準備する。
 晩御飯のあとに甘いものなんてと怒られそうだが今日くらいは許してほしい。

「亮くん! まだ?」

「できたよ」

 用意したものを持ってリビングに行くと姉は思わずと言った様子でわぁと声を上げた。
 カラフルな小さい金平糖と、バタフライピーのお茶。濃紺のお茶には細かい金粉が浮かんでいて星空のようになっている。

「お茶のお星さまと食べられるお星さまだよ!」

 遥は嬉しそうに早く食べようよ、金平糖はいろんな味あるんだよーと笑った。


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