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幸福駅

山のふもとにある登拝口付近には中世の石畳が残っている。流行りの疫病で訪れる人が少ないためか、苔は一段と鮮やかで美しい。周囲に広がるスギ、ヒノキの菩提林は、なんとも清浄な香りが漂う。

参道を下る途中、数少ない旅人や茶屋の女主人と言葉を交わす。橋を渡り、田んぼ道を黙々と歩くと、担い手の事情からか、休耕田が目立つ。思い思いに伸びている雑草に混じって朝顔が咲いている。


たどり着いたのは「幸福駅」。駅と名がついているけれど、小さな洋食レストランだ。

客はまだおらず、ひとりで切り盛りしていると思われる女主人に「好きな席をどうぞ」と言われ、席につき荷を下ろす。


メニューを開くと、ステーキが目立つ。初めての店では売りのメニューを頼むことにしているので、ステーキ定食を頼み、ぼんやりと待つ。

小さな庭に出られる窓には、この地には豪奢と思われるレースのカーテンがかかっており、その向こうには、駅舎を思わせる白木の柱と緑が広がる。

「ここは、確かに幸福駅かもしれない」と思いながら、運ばれてきたステーキをいただき、ついているテレビから流れてくる土砂災害のニュースに耳を傾ける。

ニュースになっている場所は、数年前に撮影でよく訪れていたところ。先月も近くを散策していたっけ。少し時間がずれていたら、私も巻き込まれたかもしれない。


今、ここは晴れているけれど、数日後は、今度はここが雨の予報だ。

「やはり、今、ここは幸福駅なのだな」と思う。結局、なるべく幸福な駅を選びながら、最後は運を天にまかせて、旅路を選ぶことしかできないのかもしれない。

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