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2005年度 情報関係基礎 第4問「デジタルカメラのユーザインタフェース」の問題


白井詩沙香(大阪大学)

 今回の連載「教科『情報』の入学試験問題って?」では,2005年度大学入試センター試験科目「情報関係基礎」本試験の第4問を紹介します.

 この問題は,井手先生の記事「じゃんけんをプログラミングするよ」で触れられていた放送大学の辰己丈夫先生が厳選した「情報関係基礎」$${^{1)}}$$の良問の1つで,ユーザインタフェースの仕様が異なる2種類のデジタルカメラの使い勝手を比較させる問題です.


問1:デジタルカメラX型の設定変更操作に関する問題

 第4問では2種類(X型・Y型)のデジタルカメラのユーザインタフェースを比較しますが,問1ではX型のデジタルカメラのユーザインタフェースの仕様が扱われています.まずは,前半部分の文章を見てみましょう.

 ここでは,X型の4つの機能(画像サイズ,フラッシュ,撮影対象,セルフタイマー)の設定変更手順を説明しています.ユーザインタフェースは図1,2に,そして詳細な設定変更手順については,表1と共通テスト手順記述標準言語(DNCL)を用いて図3に示されています.続いて,問題の後半を見てみましょう.

 後半は,設定変更時にボタンを押す必要回数を求める処理を考えさせる内容になっています.【ア】はフラッシュを「自動」から「手順─入」に変更するために必要な回数を問うもので,表1と図3から◎Ⓕ◎の順にボタンを押せばよいことが分かります.したがって,3回が正解です.

 【イ】〜【エ】は設定変更時にボタンを押す最大・最小必要回数を問う問題です.始めと終わりには必ず◎を押す必要があるため,最小必要回数はどの場合でも変わらず3回,最大必要回数は(「選択可能な値」の種類-1)に◎を押す2回を加えた数であることが分かります.したがって,フラッシュの最大回数を問う【イ】は,4回(「自動」から「手動─切」の場合など),そして,撮影対象の最小必要回数を問う【ウ】は3回(「標準」から「人物」の場合など),撮影対象の最大必要回数を問う【エ】は5回(「標準」から「スポーツ」の場合など)となります.

問2:デジタルカメラY型の設定変更操作に関する問題

 続いて,問2ではY型のデジタルカメラのユーザインタフェースの仕様が扱われています.まずは,前半部分の文章を見てみましょう.

 Y型もX型と同じ4つの機能を実装しており,ここではY型の設定変更手順について説明しています.問1と同じくユーザインタフェースを図4,5に,そして詳細な設定変更手順が図6,7に示されています.それでは,問題の後半も見てみましょう.

 後半は,問1と同じ視点で,Y型の設定変更時にボタンを押す必要回数を求める処理を考えさせる内容になっています.【オ】,【カ】はフラッシュを「自動」から「手順─切」に変更する際に押すボタンを問うものです.◎↓→→◎をまず考えつくかもしれませんが,「ボタンを押す回数が最も少なくなるような手順を選ぶ」とあり,また,選択操作回数は【オ】【カ】の2回となっていることから◎↓←◎(【オ】③,【カ】②)が正解です.

 次に,【キ】〜【コ】はY型の設定変更時に必要なボタンの最大・最小回数を問う問題です.撮影対象のボタンを押す最小必要回数を問う【キ】は,たとえば「標準」から「人物」の場合などが挙げられ,◎↓↓→◎または◎↑↑→◎となりますので,5回となります.そして,最大必要回数を問う【ク】は6回(「標準」から「スポーツ」の場合など)となります.一方,【ケ】,【コ】で扱っているセルフタイマーを選択するのは↓↓↓でなく↑で済み,機能の値は「入」と「切」の2値のため,最小/最大必要回数に違いはなく,最小/最大必要回数はともに4回となります.

問3:X型・Y型の設定変更操作の使いやすさの比較

 問3は,問1,2で確認したX型・Y型のデジタルカメラの使いやすさを3人のユーザを対象とした実験結果に基づき,比較する問題です.まずは,前半の文章を見てみましょう.

 3人のユーザA,B,CにX型を一定期間利用してもらい,設定変更を行った機能の比率が表4に示されています.前半の問題ではY型も表4の比率で設定変更したと仮定し,操作に要する手間(ボタンを押す必要回数)を比較します.

 【サ】は,ユーザAが画像サイズの設定変更時にX型・Y型ともに最小必要回数だけボタンを押すことを仮定した場合を比較しています.問1〜2で示されているように,各機能の設定変更時のボタンを押す最小/最大必要回数は以下のとおりです.

 X型・Y型ともに最小必要回数は3回ですので,①が正解となります.

 【シ】〜【セ】は,必要回数が「最小」あるいは「最大」の一方だけに偏ることがないと仮定した場合の使いやすさを問う問題です.ユーザAは画像サイズのみ利用しているため,X型・Y型の最小必要回数は同じですが,最大必要回数はX型が4回,Y型が3回となりますので,【シ】は②が正解です.ユーザBは画像サイズを除く3種類の機能を利用しており,各機能の最小/最大必要回数と表4の情報からY型よりX型の方が必要回数が少ないことが分かります.よって,【ス】は⓪が正解です.ユーザCはすべての設定変更機能を同じ比率で利用しており,各機能の最小/最大必要回数と表4の情報からX型の方が必要回数が少ないことが分かります.したがって,【セ】も⓪が正解です.

 それでは,続いて後半の問題も見てみましょう.

 前半の問題では設定変更操作に要する手間(ボタンを押す必要回数)を使いやすさの指標としていましたが,後半の問題では,その他の指標に着目し,Y型がX型よりも優れた点を解答する内容となっています.Y型はX型と比べ,選択可能なすべての値が表示されている点や選択時も上下左右ボタンが利用できる点が優れた点としてあげられますので.【ソ】,【タ】の解答は②,⑤です.

情報デザインとユーザビリティ

 本稿では,2005年度大学入試センター試験科目「情報関係基礎」本試験の第4問についてご紹介しました.ユーザビリティの訳語として,第4問で扱われた「使いやすさ」が用いられることが多いですが,2022年4月から全面実施となった高等学校の必履修科目「情報 I」で新しい学習内容として追加されることになった「情報デザイン」で,ユーザビリティが取り扱われています$${^{2)}}$$.

 ユーザビリティは,JISZ 8530:2021の定義で「特定のユーザが特定の利用状況において,システム,製品又はサービスを利用する際に,効果,効率及び満足を伴って特定の目標を達成する度合い」とされています$${^{3)}}$$.問3でも触れられているように,ユーザビリティを図る指標は効率だけではありません.対象ユーザや利用状況によっては,効率はそれほどよくなくても,スムーズに使えるものが望まれる場合もあります.たとえば,レストランでの注文を想像してみてください.コロナ禍以降,タッチパネルでの注文システムを導入するレストランが増えてきましたが,こうした注文システムは効率性よりも初見でも利用できるよう,分かりやすさが重視されます.また,PCでの文書編集操作では,入力したテキストをコピー&ペーストしたい場合,初心者向けにマウスで操作できるようGUI(Graphical User Interface)が用意されています.一方,熟練者にとっては,キーボードとマウスの併用は効率が悪いため,キーボードのみで同様の操作ができるよう,習熟するまでに時間はかかりますが慣れれば効率良く操作できるショートカットキーが用意されています.

 近年では,先人の知恵と努力により,情報デザインの考え方や方法が確立され,生徒たちが触れるシステムやサービスは,ユーザビリティの高いユーザインタフェースが当たり前になっています.そのため,生徒たちは普段利用しているさまざまな製品やシステムにどのような情報デザインの考え方や工夫がなされているか,意識することは少ないかもしれません.情報デザインの授業を通して,社会における情報デザインの役割やその重要性への理解が深まることを期待しています.

★なお,本稿で題材とした「情報関係基礎」は,1997年度から「数学②」枠で出題されている試験科目で,主な対象として専門学科の生徒を想定しています.2025年に実施される共通テストの「情報I」については,下記の参考文献4),5)を参照してください.

参考文献
1)情報処理学会 情報入試委員会:情報関係基礎 アーカイブ
https://sites.google.com/a.ipsj.or.jp/ipsjjn/resources/JHK
2)文部科学省:高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編
https://www.mext.go.jp/content/1407073_11_1_2.pdf
3) 日本規格協会:JIS Z 8530:2021 人間工学─人とシステムとのインタラクション─インタラクティブシステムの人間中心設計
4)水野修治:令和7年度大学入学共通テスト『情報I』の実施に向けて~問題作成方針に関する検討の方向性と試作問題~,情報処理,Vol.64, No.2, pp.74-77  (2023).https://doi.org/10.20729/00223448
5)植原啓介:大学入試センター「試作問題」の分析,情報処理,Vol.64, No.4, pp.e45-e58 (2023).https://note.com/ipsj/n/ne5b8f55f5346

(2023年9月7日受付)
(2023年10月10日note公開)

■白井詩沙香(正会員)
2015年武庫川女子大学大学院生活環境学研究科博士課程修了.博士(情報メディア学).2018年より大阪大学サイバーメディアセンター講師.ヒューマン・コンピュータ・インタラクション,教育工学,情報科学教育に関する研究に従事.

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