極貧串カツ親子

⭐️⭐️⭐️
(星の数でこの記事のオススメ度を
5段階で評価しています)

20歳を迎えてすぐの頃

仲のいい友人たちと
大阪の新世界に行き
スパワールドで
お風呂にたっぷり浸かった後
周りの串カツ屋に行き
酒を飲んでは串カツを食べ
酒を飲んではキャベツを食べ
酒を飲んではどて煮をつまみ

いろいろな話をしながら
楽しんだ夜があった。


その時僕は思った。

大阪に生まれた男にとって
これほどの贅沢はないと



これは僕がまだ
小学校低学年の頃の話である。

時期はちょうど今くらいで
その日も、
日差しの照りつける暑い日だった。

夏休み

遊びたい盛りの僕は家族と
当時、仲の良かった友達家族とともに
スパワールドのプールに行くことになった。

スパワールドのプールは
様々な種類のウォータースライダーや
仕掛けが多く完備され、
大阪でも有数の
子供が楽しめる施設として有名である。

大量に残された
夏休みの宿題の存在など
一旦完全に忘れて
その日、僕達は出かけた。

小さい頃から水泳をやっていた僕は
泳ぐのが割と得意だった。

友達と競争をしたり
水を掛け合ったり
滑り台をしたり

あっという間に時間は過ぎた。


「そろそろ飯行こかー」

誰かのお父さんが言った。

まだ遊びたいという思いを抑えつつ
僕たちは渋々プールサイドにあがり
更衣室に戻って着替えを済ませる。


僕がこの時、
まだ遊びたいとごねる事なく、
素直に聞き入れたのには
ある1つの理由があった。


どうやらこの新今宮
いわゆる新世界、という街周辺では
串カツという料理が有名らしい。

串に刺さったカツ

美味しそうだ。

まだ一度も
串カツを食べたことがなかった僕は
もしかすると今日
その串カツを
口にすることが出来るのではないかと
心を踊らせていたのだ。

「串カツ食べたいなぁ」

僕は隣で着替えている父に話しかけた。


「確かにな。串カツええなぁ。」


髙橋親子満場一致で串カツ

お風呂上がりの
ゆるめの格好に着替えた僕たちは
一旦スパワールドの入り口に集合した。

皆が集まったのを見計らって
友達のお父さんが言った。

「この辺にな、
めちゃくちゃオススメの
焼き肉屋あるからそこ行こか」

え?

焼き肉?

本来、その日の晩ご飯が焼き肉だと
発表されれば
子供は喜ぶべきである。

しかし
僕は母の実家が
焼肉屋をしており
正直食べようと思えば
いつでも食べることができた。


せっかく新世界まで来て焼き肉?

僕は父に訴えかけた。

小声で
「串カツ、串カツ、串カツ」
と呪文のように唱える。

「串カツ食いたいなぁ」

共鳴したかのように父が言った。

思いが完全に通じた。

「ちょっとだけバレへんように行こか」

バレへんように行く?

最初は理解できなかったが
父は俺についてこいと
言わんばかりに走り出した。

僕もそれについて行く。

夢中で走る。


しばらく走ってある店の前で父が止まった。
僕も止まる。

2人とも肩で息をしながら
膝に両手をつき
しばらく呼吸を整える。

整え終わると顔を上げた

お互いに何かを企んでいるように
目を合わせてにやけた。

今思うと
これほど父と心を通わせたのは
これが最後だったのではないか
というほど
その日の僕たちは連携がとれていた。

店に入る。

中はおっさんだらけだった。

子供連れなどいなく、
若い女性もいない。

何か変わった場所だな。

はじめて入る居酒屋に
少し緊張しながら席に着く。

席についてすぐメニューを見た。
僕たちには時間がない。

サッと少しだけ食べて
すぐに元のグループに戻り
何食わぬ顔で焼き肉を食べないといけない。
(まさに何食わぬ顔)

結局、
最もシンプルな串カツを四本と
無料サービスでおかわり自由の
キャベツを頼んだ。

楽しみだ

串カツとはどんな味がするのだろうか。

目の前の店員さんを見る。

この人は一体
1日に何本串カツを揚げているのだろうか

次に壁を見る。
好奇心が止まらない

「ソースの二度づけ禁止」

なぜだ?

その当時の僕には
衛生面という概念が無く
禁止されている理由など分かるはずもない。

そうこうしているうちに
串カツが目の前に運ばれた。

なるほど

初めて見た串カツは普通のカツよりも少し黒いというか
濃いコゲ茶色だった。

「いただきまーす」

無邪気だ。

1本食べる。

はじめて食べた串カツは
家で母が作ってくれるカツとは違い
商店街の肉屋で買ったカツの味がした。

なるほど
こんな味がするのか

父も一口食べる。


父は生のキャベツが好きだ。


串カツを食べたあとはしばらく
大量のキャベツを食べていた。

僕も2本目を口にする。

美味い

正直もっと食べたいという気持ちもあったが
これ以上食べると
確実に焼き肉が入らなくなる。

みんなで焼き肉に行こうと言っているのに
勝手に抜け出し、串カツを食べた事で
お腹が一杯になり全く食べられないなど
絶対に避けなくてはならない事である。

父は更にキャベツを食べ進めていた。

残り1本

我慢できない

「なあなあ、これ食べていい?」

「いいよー」

父が言った。
連携が完璧すぎる。

3本目を食べる。

この時、
僕はある違和感を抱いていた。


何か周囲の視線が気になるのだ。

隣のおっさんや
隣の隣のおっさん
隣の隣の隣のおっさん

皆がこちらを何か
可哀想なものでも見るかのようなのだ。

僕たちを哀れんでいるように感じる。

なんなんだろうこの視線は。

しかし小学生の僕はあまり気にせずに
食べ終わり、ご馳走様でしたと言った。


父はまだちょっとキャベツを食べている。

更に視線が気になる。

ほぼ涙目で
僕を見つめているおっさんさえいた。


会計を済ませ、店を出る。

僕たちは急いで焼き肉屋に向かった。

みんなに
何かしらの言い訳をしないといけない。



大人になった今なら
この時なぜこのような視線が
僕たちに注がれていたのか
わかる気がする。

場所は新世界だ。
色々な経済的事情を抱えて
生きている人たちが沢山いる。

その近くで
ゆるゆるのみすぼらしい格好で
親子2人で入店し
串カツを4本しか頼まず
もっと食べたい、
食べ足りないという表情をしている息子僕と
キャベツばかり食べている父


結局空腹のまま
そそくさと店を立ち去る

僕たちの姿は周りの人々に
どう写っただろうか。

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