見出し画像

さとうきび畑のお喋り

♪ざわわ ざわわ ざわわ
広いさとうきび畑は
ざわわ ざわわ ざわわ
風が通りぬけるだけ…♪

森山洋子さんの名曲「さとうきび畑」

初めて聞いたのは高校生のころ?

さとうきびの畑など見たことのない
北海道生まれ埼玉育ちの私

歌詞を頼りにイメージした
私の想像の世界のさとうきび畑は
それなりに広くて美しくて爽やかだった

我ながら絵になる光景???

「ざわわ ざわわ ざわわ…」

…40代最後の秋

ひょんなことから
沖縄の離島、久米島に行くことになった

画像1


親戚も知り合いもいるわけじゃない
しかも初めての沖縄にして
本島ではなく小さな離島へのひとり旅

あえてホテルではなく民泊を選んだのは
4泊5日の久米島での時間を
そこに暮らすように過ごしたかったから…

宿泊先の家は
ビーチから1kmほどの場所で
広い広いさとうきび畑の真ん中にたたずむ
築40~50年のコンクリート造りの民家だった

屋上に上って見渡すと
360度どの方向を見てもさとうきび畑

画像2


私の想像をはるかに超えたスケール

「私、また仕事に戻るんで
もし疲れてなければ
明るいうちにウチの自転車に乗って
この辺の様子とか見てきたらいいですよ」

画像3


お仕事の合間に
空港まで私を迎えに来てくださった
民泊のホストさんに言われるまま
さっそく自転車で島内を冒険してみた

まだ夕方3時前だというのに
外に人がだれもいない
車もバイクも走ってる気配がない

人が生活している気配が…無い!?

その代わり聞こえてくるのは

ざわわ ざわわ ざわわ ざわわ…

さとうきびのお喋りだった

画像4


私の背丈よりもずっと高いさとうきびが
吹いてくる風になびいて
同じ方向に揺れている

風が吹くたびに
さとうきびのお喋りが聞こえてくる

ざわわ ざわわ ざわわ ざわわ…

どこまでもどこまでも続く
緑色のさとうきび畑

しばらく自転車を走らせても
さとうきびたちの声が途切れることはなかった

ビーチに向かう道をちょっと外れて
農道に入ってみた

その時にふと思い出したのは
「さとうきび畑」の歌詞

「このまま緑の波に
おぼれてしまいそう
夏の陽ざしの中で」

画像5


なんだか鳥肌が立った

今、自分の前に
あの歌で伝えられている情景が
リアルに目の前に広がっている

そしてあの歌の中で描かれている
戦争で父親を失った子どもが
さとうきび畑の中でお父さんを探す
寂しくて切なくて悲しい想い

自分の姿が見えなくなるくらい
背の高いさとうきび畑の真ん中で
緑の波に飲み込まれてしまうような
感覚になる恐怖や孤独

…気づくと涙が溢れていて
さとうきび畑の中で泣いていた

高校生のときからずっと思い描いていた
ちょっとメルヘンなさとうきび畑の光景は
その瞬間から薄れていって

その代わりに
大地から真っすぐに伸びている
背の高いさとうきびの姿

男性的な力強さと厳しさ
そして包み込むような優しい印象

自分のちっぽけなスケールを
はるかに超えたダイナミックな景色

それが私の中のさとうきび畑になった

自転車を走らせてビーチへ…

さとうきび畑のお喋りが途切れると
姿を見せてくれたのは
遠くまで続くアクアマリン色の透明な海

画像6


おだやかで
まるで囁くような波の声…

さっきまで聞いていた
さとうきび畑の声とはまた違った
自然のおしゃべり

どちらの声も心地いい

旅の初日…
しかも到着してまだ数時間で
こんなに心が揺さぶられることになるとは!

すっかり時間が経つのを忘れてしまい
気づけば陽が西に傾いていた…

画像7


「さとうきび畑」の歌を聴くたび
想い出すのは久米島のあの情景…あの声

ざわわ ざわわ ざわわ…





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?