書評「隣の女」by 向田邦子
向田邦子の短編集「隣の女」。
2日に一編ずつ読んで10日間。
至福の5編でした。
勝ち組、負け組という言葉が、頻繁に使われるようになってからだいぶ経ちます。
僕自身も勝ち組になるためというよりは、負け組にならないために本を読んでいた時期がありました。
当時、読んだ本は投資の本や会計の本、自己啓発の本などのいわゆる実用書がほとんど。
その後、人生の荒波で溺れかけたりなんだりしたお陰で、ふたたび小説を読むことができるようになりました。
隣の by 向田邦子
この小説にでてくる5人の主人公たちはいずれも負け組にあたる人たちです。
救われない状況の中で、主人公達は見栄を張り、嘘をつき、無理をします。
その様子がとても愛くるしい。
たぶん、向田邦子さんのフィルターを通しているからこそ、愛くるしく見えてくるのだと思います。
それら一見マイナスだと思われる感情を、向田邦子さん自身が肯定しており、愛すべき点だと思っているからです。
この5人にはもう一つ共通点があります。
浮気、不倫、失業、失望、失恋・・・。
不思議なことに、サクセスストーリーとは真逆の事柄によって主人公たちは救われていきます。
僕たちは日常生活で「〜しなければいけない。」「〜すべきだ。」という当たり前や常識に縛られていきています。
そして、常識に縛られているからこそ頑張るために見栄を張り、嘘をつき、無理をする主人公達を解放してくれるきっかけになったのが「常識的にはダメなこと」だと言われている言葉たちなのです。
最近は、ネガティブな言葉を聞いただけで身構えるようになってしまっていました。
でもポジティブ一辺倒の世界には人間の本質はない。
本質はもっと複雑だし、勝ち負けでは割り切れない。
だからこそ人生って面白いし、味わい深い。
そう思わせてくれる作品でした。
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