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時間をかけた自殺

私の大好きなジャズミュージシャンに、ビル・エヴァンスがいます。
天才ジャズピアニスト、ビル・エヴァンス。
彼の生涯は不幸の連続でした。
父方にウェールズの名門の血統を持つ彼は音楽の英才教育を受けてクラシック音楽を得意とした幼少期を送りました。
青年期にジャズに傾倒し、朝鮮戦争に従軍。
除隊後に本格的に音楽活動に入ります。
ジャズの世界には珍しいヨーロッパ人の血を引く、大変ハンサムな顔立ちをしているのが当時の写真から見てとれます。
関係者が「音を外した演奏を聴いたことがない」とまで言う完璧な演奏はまるでパーティーのシャンパンのような華やかさを持っています。
ただ、私生活では恋人が地下鉄で投身自殺したり、演奏パートナーの事故死、妻子との別居、実の兄を拳銃自殺で失うなど波乱にとんだものでした。
兵役中から続く薬物依存僻もあって、まさに彼の苦難と絶望に満ちた51年の生涯は「時間をかけた自殺」と呼ばれるに至るものです。
生涯彼はメディアの前でクチを大きくあけて笑うことがなかったと言われていますが、それはけっして計算されたものではなく、薬物依存と喫煙で歯がボロボロだったためだそうで、当時のインタビュー映像をいま観ても歯が黒いのがわかるほどです。
彼が毎夜、ジャズバーで演奏した音楽は、彼の魂を切り売りするかのように消費されたものだったのでしょう。
晩年の彼を診察した医師は「(彼は)生きることを拒否しているかのように見えた」と後に語っています。
アルバム「Waltz for debby」に代表される華麗なハイトーンの鍵盤さばきを生演奏で聴くことはもう今は出来ませんが、彼が遺したジャズトリオの名演奏はこれからも多くのジャズファンとミュージシャンに影響を与えるでしょう。
彼の演奏を残した1960年代の音源の数々は グラミー賞に何度も輝いています。


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