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スタートアップのブランド戦略

1.ブランド戦略と知財

 ブランド戦略と聞いたとき、特に知財関係者の方は、「ブランド=商標」とのイメージを持つ方が多いかと思いますが、商標は、ブランド戦略において重要なものであるものの、ブランド戦略の一部分を担うものにすぎず、効果的なブランド戦略を構築・実行していく上では、ブランド戦略における商標の位置づけ・役割を認識する必要があるものといえます。また、ブランドというと、一見特許は無関係なものであるとのイメージも強いと思いますが、特許もブランド戦略の中で有効に活用できるものといえます。
以下、ブランド戦略と知財の関係について検討するに先立って、そもそもブランド戦略とは何か、ということを確認します。

2.ブランド戦略とは

そもそもブランドとは、明確な定義は存在しないものの、例えば、「ユーザーが企業の雰囲気やロゴ、商品やサービスを総合的に捉えて抱く何らかの印象」等と定義されています(山口義宏『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社、2018年)) 。ブランドの構成要素としては以下のようなものが挙げられ、ブランド戦略(ブランディング)とは、これらの要素を磨きつつ、一貫性を持たせる取り組みとされています(木村裕紀『ブランドファースト 中小・ベンチャーの成長はブランドから始まる』(日経BPコンサルティング、2015年)8~11頁) 。

・理念としての存在意義
・ビジョンという目指す未来
・創業から今日までのコーポレートストーリー
・大切にしている行動指針や社是、社風、価値
・USP(競合優位性)の明確化

上記の定義等をみると、スタートアップに関わっている方であれば、ブランド戦略がいわゆる「高級ブランド」や大手メーカー等の大企業のみが必要とするものではなく、スタートアップにとっても必要なものということが理解していただけるかと思います。
また、ブランド戦略は、後述のように、より積極的に、様々なリソースが足りないスタートアップだからこそ取り組むべき課題ということができます。スタートアップにこそブランド戦略が必要な理由を検討するにあたって、まずはブランド戦略の効果に着目してみましょう。

3.ブランド戦略の効果

ブランドの定義で確認したように、ブランドとは、社外への発信(いわゆるアウターブランディング)のみならず、社内への発信(いわゆるインナーブランディング)にも密接に関係するものです。
そして、アウターブランディングからは①営業面のメリット(ユーザー・取引先の獲得)、インナーブランディングからは②組織面のメリット(組織力の強化)、これら双方から得られるメリットとして③採用面のメリット(採用力・育成力の向上)が挙げられます。
これらのメリットは、いずれも、リソース等が不足しがちなスタートアップが欲しいものであることは明らかでしょう。
このことからすれば、スタートアップ「こそ」、ブランド戦略に取り組む必要性が高いものといえます。

4.ブランド戦略の策定・実行

ブランド戦略を策定・実行していくためには、自社として目指すべき「ブランド」像を設定し、当該「ブランド」と現状の自社の状況との間を埋めていくことが必要となります。

この過程においては、
①目指すべき「ブランド」のために必要なコンセプトの策定
②「ブランド」の実現に必要となるメッセージ・名称・ロゴ等の策定
③メッセージ等の社内外への効果的な発信
④その他ブランドの浸透・価値向上・定着に必要な措置の実行
等といったことが行われます。

これらの措置と商標の関係はイメージしやすく、例えば②で策定されたロゴや名称等について商標権を獲得すべく、商標調査及び商標出願を行うことや、③の過程で他社の商標権を侵害しないように留意すること、④で模倣品等自社ブランドの価値を棄損しかねない者に対して自社の商標権に基づく措置をとること、等が挙げられます。
しかし、ブランド戦略が商標の問題に留まらないことは、明らかであり、例えば法律の問題に限ったとしても、③の過程で各種プロモーション活動にあたって、不正競争防止法に定める不正競争行為に該当するようなプロモーションを行わないことや、景品表示法やその他業界規制に違反しないようにすること、他者の著作権を侵害しないようにすること等が挙げられます。

さらに、これらは専らアウターブランディングに関するものですが、インナーブランディングとの関係においては、目指すべき「ブランド」を社内に浸透させていくにあたっては、「ブランド」に即した社員を評価する人事制度を構築することも考えられ(例えば、ブランドを体現した行動をとることを報酬や昇格の評価項目の中に組み込む等)、この場合には、法律の問題に限ったとしても、各種労働法に関する知見が必要となります。また、ブランドブック(ブランドの概要を示す社内用資料。場合によっては、ロゴや名称等を使用する場合の細則を定める場合もある。)の策定・見直し等もインナーブランディングにおいて重要な役割を果たすものといえます。

また、商標以外の知財とブランド戦略との関係については以下のとおりです。
例えば、自社プロダクトの機能の高さをブランドの一構成要素とする場合、当該ブランドを裏付けるエビデンスを構築するにあたっては、技術的な性能 、製法や提供方法 等を示すことが考えられるが、技術的な性能をエビデンスとして使用する際には特許権による裏付けが考えられます。他方、ユーザビリティのためにデザインを工夫したということであれば、当該デザインについて意匠権を取得して裏付けに活用することも考えられます。

そして、マーケティングにおける4P施策(Product / Price / Promotion / Place)に関して、自社の特許権・意匠権等による他社への牽制により、他社のProduct / Price / Promotion / Place等に影響を与えることができることから考えても、商標のみならず特許や意匠がブランド戦略に貢献することは裏付けられるといえます。

5.小括

以上のように、スタートアップにとってもブランド戦略は極めて重要なものであり、同戦略を実行していくにあたっては、法律面の問題に限ったとしても、商標のみならず、特許や意匠、また、景品表示法等の各種法規制の遵守、さらにはインナーブランディングとの関係で人事制度を改変していくにあたっての各種労働法の遵守が必要になる等、総合的な取り組みが必要となります。

スタートアップのブランド戦略に関する専ら知財面の問題については、本年3月に出版予定のスタートアップの知財戦略についての書籍においても詳しく紹介する予定ですが、その余の問題についても、研究と実践を重ね、また何らかの形で皆さまと共有できればと思っています。

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