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IPO・M&Aと知財①(商標)

これまでスタートアップの創業期の注意点にフォーカスしていましたが、少し観点を変えて、何回かに分けて、スタートアップのEXITと知財の関係について考察してみたいと思います。

1.EXITと商標

これは、IPOでもM&Aでも共通するところになりますが、EXITの段階では、会社名・プロダクト(サービス)名について、適切な権利範囲で商標権を取得していなければ、減点は免れないです。

特にプロダクト(サービス)名について商標権を取得していない場合は、競合他社に同じ領域で同じ名前を使われてしまうリスクがあるのみならず、他社に先に商標権を取られてしまった場合には、自社で当該プロダクト(サービス)について当該商標が使用できなくなってしまうおそれや当該商標の使用について損害賠償請求をなされるリスクもあります。

このように、自社に必要な商標権を取得していないと、事業を進めていく上で大きなリスクがあることは明らかであるため、上場審査でも必ず確認され、M&Aの際の法務DD・知財DDにおいてもほぼ間違いなく審査されることになり、必要な商標権がないことは事業価値を下げる要因になってしまいます。

2.先に商標権を取得された場合の対抗策

では、他社が先に商標権を取得していた場合、何かできることはないかというと、考えられる対抗手段としては、

①商標権を買い取る

②ライセンスを受ける

③相手の商標権を無効にする(取り消す)

④会社名・プロダクト(サービス)名を変更する

等が挙げられますが、それぞれ難点があります。

まず、①については、EXITが見えた段階では、相手方もこちらが商標権がないと非常に困ることが分かるので、高額な条件を提示される可能性が否定できません。

また、②については、条件交渉が難しいことは①と同様ですが、さらに、自社で当該名称の使用を独占できない以上、自社のブランドとしての価値を構築維持することは困難であり、ライセンス契約を解除されてしまうリスクも残ります。

さらに、③については、無効審判や不使用取消審判請求を特許庁に対して行うことも考えられますが、弁理士や弁護士の代理人費用がかかる上、時間もかかります(相手方が争ってくれば、特許庁での審判のみならず、知的財産高等裁判所や最高裁まで争われる可能性もあります)。

④については、これまで当該商標により積み上げてきた信用やブランド価値が無駄になってしまうことは言うまでもありません。

したがって、①~④の手段を採らざるを得ない場合は仕方ないとしても、可能な限り自社で商標権を先に取得しておくことが肝要となります。

3.早い段階で商標出願をしておくことの重要性

商標権は、基本的には早い者勝ち(先願主義)なので、会社名やプロダクト(サービス)名については、可能な限り早い段階で出願しておいた方が、費用や対応に要する工数との関係で優位といえます。

なお、商標出願については、特許出願と異なり、金銭的なコストとの関係で、代理人を使わずにご本人で手続をとられる方も少なくはありません。

もっとも、スタートアップの商標出願においては、次の注意点があります。すなわち、スタートアップは、まずはニッチマーケットを独占するという方針の下でニューマーケットをターゲットにする傾向があり、その場合、プロダクト(サービス)はこれまでにない新しいものになる可能性が高いところ、商標出願は、商標権の権利範囲を画するため、商標権が及ぶ商品・役務の範囲を指定する必要があります(指定商品・指定役務)。

この商品・役務の指定を間違えてしまうと、せっかく商標権をとってもリスクが解消されていない、ということになりかねないのですが、スタートアップのような新しいプロダクト(サービス)の場合、いかなる商品・役務を指定すれば良いのか、その判断は容易ではありません。

したがって、スタートアップの商標出願については、商標実務に精通しているのみならず、スタートアップのプロダクト(サービス)に対する理解や想像力が優れた(ここが重要!)代理人に商標出願を依頼してしまうことが得策ではないかと考えられます。

なお、商標出願については、実費も代理人費用も特許出願の場合と比べれば安価なので(実費についてはこちら。代理人費用については、少し前のものですが、弁理士会のアンケート結果をご参照ください。)、創業期から無理なく取り組める(むしろ取り組まなければいけない)ものと考えられます。

4.先行商標の検索

以上のように、商標については、必要な商標権を取得していなければ、EXITの際に大きな不利益を被りかねないため、早期に出願することをおすすめしますが、自社の商標が他社により商標登録をなされているか否かについては、大まかな調査であれば、特許庁のデータベースであるJ-PlatPatを用いて以下の手順で確認することができます(なお、出願から当該商標出願が公開されるまでは、当該出願はJ-PlatPatでも確認できないため、ご注意ください)。

まず、J-PlatPatの商標のタブの「3.称呼検索」にアクセスし、検討している商標の読み方をカタカナで入力してみると、同じものや似たものがあるか否かが確認できます。

ここで同じ又は似た商標が出てきた場合には、商標権の権利の範囲を示す「商品及び役務の区分」並びに「指定商品又は指定役務」を確認し、自社が行おうとしている事業と重複しているか否かを確認することができます。

5.まとめ

スタートアップにとっての商標権の重要性は以上のとおりですが、IPOを行う場合は、商標権を含めた知財の管理体制もチェックされることになります。そのため、どこかの段階では自社でもある程度は商標を理解し、体制を整える(少なくとも、必要なタイミングで必要なことを外部の代理人に依頼できるアンテナを張れる体制を整えることは必須)必要があります。

自分も関わった本で恐縮ですが(笑)、「Q&A商標法律相談の基本-商品名検討からプロモーションまで-」では、事業の各段階において必要となる商標実務の基本がQ&A方式で掲載されているので、イメージを持ちやすいかと思います。もしよろしければ、参考にしてみてください。

ご不明な点やご質問があればお気軽にご連絡ください!
最後までお読みいただきありがとうございました!

弁護士 山本飛翔

Twitter:@TsubasaYamamot3

拙著「スタートアップの知財戦略」

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