スタートアップのリスクマネジメント①〜リスクマネジメントに取り組むべき理由

(1)スタートアップがリスクマネジメントに取り組むべき理由

 スタートアップは、短期間で大きく成長し、EXITを目指していかなければいけないため、リーンスタートアップの手法に代表されるように、try & errorを繰り返し、成長を目指していくこととなる。そのため、多くのスタートアップは、必然的に数多くの失敗を繰り返すこととなり、失敗を「0」にすることはほぼ不可能であるが、EXITまで至るためには、その数々の失敗を事業価値の大幅な低下等の「致命傷」にしないよう、すなわち、失敗しても再起できるよう、可能な限り努力していく必要がある。

 では、いかにリスクマネジメントしていくべきかが問題となる。スタートアップにとってのリスクマネジメントを論じるにあたっては、①大企業に比してリソースが不足していること、②当該リスクがEXITの実現にあたって与える影響にも着目する必要がある。

 そこで、スタートアップが、①各種リスクに対していかに対処していくべきなのか、また、②リスクへの対処法を踏まえ、当該リスクを未然に防止するためにはいかなる予防策をとるべきなのか、といった点について検討する。

(2)不祥事によるリスクとは

a.法令違反行為

いわゆる不祥事によるリスクが生じる場合、不祥事としていかなるものが想定されるだろうか。まず、法令違反行為があった場合が不祥事によるリスクに含まれることに異論はないであろう。法令違反行為は、例えば、以下のものが挙げられる。

①行政取締法規違反
例:インサイダー取引、粉飾決算などの金融商品取引法違反
②民事法規の違反に伴う民事責任の発生
例:営業秘密の侵害等の不正競争防止法違反
③刑事法規の違反に伴う刑事責任の発生例:横領、背任等

これらの法令違反行為がなされた場合、法令に刑事罰の定めがあれば、その行為に関わった役員や社員は刑事責任を問われ得ることとなり、法令に両罰規定の定めがあれば、企業自身も刑事責任を問われることになる。

また、民事責任が発生する場合には、当該役員又は従業員と共に、会社として損害賠償責任を負うことや、違反行為の差止を求められることがありうる。

b.不適切な行為

不祥事によるリスクマネジメントが論じられる際には、上述の法令違反行為のみならず、法令には違反しないものの不適切といえる行為も問題となる。法令には違反しないものの不適切といえる行為としては、例えば、以下のものが挙げられよう。

①対内的な問題
例:役員または従業員による社内規程違反等
②対外的な問題
例:各種SNSにおける会社公式アカウントによる不謹慎な発信活動等

これらの行為は、法令違反行為と異なり、明確なルールがない場合も少なくないが、不適切な行為がなされれば、いわゆる炎上現象等、自社のレピュテーションが低下するリスクは大きく、ひいては事業価値の低下にもつながりかねない。

このように、「法令に違反しなければ良い」というスタンスでは、EXITまでの過程で躓きかねないため、不適切な行為についての危機管理も十分に検討し、対応策を検討する必要がある。

(3)EXITとの関係での影響の大きいリスク

その他、自社内に留まる事項であり、トラブルとして顕在化していない事項についても、上場審査やDDにおいてリスク事項として評価されることにより、自社の事業価値に影響を及ぼすこともある。例えば、従業員の未払い賃金の問題などは、従業員との間で具体的な紛争となっておらずとも、潜在債務として、上場の可否に影響を与えたり、DDにおいて事業価値を下げることになりかねない。そのため、この点も意識的にリスクマネジメントすべき事項といえよう(スタートアップの人事労務の各記事をご参照いただきたい)。

また、上述の法令違反と重複はするが、第三者の知的財産権侵害は、プロダクトやサービスの提供を差し止められるリスクがあり、上場やM&Aに大きな影響を与える(例えば米国でのFacebookとYahooの例)ため、ステージが進むにつれて、知財のディフェンス面も強化していく必要がある(拙著「スタートアップの知財戦略」noteのスタートアップの知財戦略の各記事をご参照いただきたい)。

(4)スタートアップにおいてリスクマネジメントが問題となった事例

スタートアップにおいてリスクマネジメントが問題となった事例としては、例えば、次の例が挙げられる。

自動運転技術を開発するベンチャー企業の株式会社ZMPは、2016年12月8日、顧客の個人情報流出により、社内体制の見直しをせざるを得ない状態となり、当初予定していた東証マザーズへの新規上場を延期することを発表し、東京証券取引所も株式会社ZMPから新規上場を取りやめる旨の申し出があったとして同日、上場承認を取り消したと発表した 。この事案においては、まさしく不祥事がEXITに直接的に影響を及ぼした事例といえよう(なお、個人情報の流出との関係は明らかではないが、同時期にDeNAから業務提携の解消もされている)。

また、上記の例は上場に影響を及ぼした事案であるが、スタートアップにとってのリスクは、上場だけではなく、当然、M&A、資金調達、大企業とのアライアンス等にも悪影響を及ぼすこととなる。すなわち、M&Aや資金調達においては、実行前にいわば身体検査として、デューデリジェンス(「DD」)がなされるが、リスクが現実化していることや、不祥事等のリスクが生じかねない社内体制(コーポレートガバナンスが不十分)であると、その点が問題視され、企業価値を下げられ、又はM&A/資金調達の実行自体を見送られるリスクがある。また、大企業としても、不祥事を起こしているスタートアップや、コーポレートガバナンスが不十分なスタートアップとのアライアンスは社内決裁が通らないことも珍しくない。

このように、いくらスタートアップが、リソースが足りない存在であったとしても、それを免罪符としてリスクマネジメントに取り組まなくてよい理由にはならず、むしろ取り組みが不十分であると、上述のような大きな不利益を被ることになるのである。

次回以降、具体的な対策等について検討していく。

弁護士 山本飛翔

Twitter:@TsubasaYamamot3

拙著「スタートアップの知財戦略」

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