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上を向いて歩いていこう

閉業間際のスーパーに入ると、店内に『上を向いて歩こう』が流れていた。

 上を向いて歩こう
 涙がこぼれないように

会社員時代の一番辛かった時期の心のBGM。
残業帰りの夜道を独り歩いていると、なぜか、『上を向いて歩こう』が頭の中で鳴りだして、いつのまにか口ずさみ、じわじわと涙が溢れて滲んだ眼で夜の空を見ていた。
昼間は会社で弱みを見せないように、いっぱいいっぱいの強気でいたものだから、人影が無い夜の帰り道では気持ちも涙腺も緩々になって弱くなる。

 涙がこぼれないように
 泣きながら歩く
 ひとりぼっちの夜

そうだよ。
何と戦ってるんだか分からない毎日は、誰といたって心はひとりぼっち。
自己憐憫の涙は、ときに嗚咽になり、脇道から現れた自転車のおじさんを驚かせたこともあった。
弱って泣いてるくせに歩くのだけは速いから、だいぶ前方にいて影も見えなかったサラリーマンに追いついてしまい、ぎょっとされたこともあった。
カツカツと足早に歩きながら声を出して泣いてる女なんて、そうそういないものね。
驚かせてごめんなさいね。

 幸せは雲の上に
 幸せは空の上に

頭のずっとずっと上にあるかもしれない幸せに向かいたい。
辛いながらも、諦めずに歩いて生きたい。
自分の中で頭をもたげるちっちゃな希望の芽を感じつつ、それをなかなか育てられないもどかしさと悔しさ。
辛くていじけたり、自分を責めたり嫌ったり激しくあったけど、あの頃は七転八倒の中で大量にいろんなことに気づいた時期でもあった。
愚かだから、嵐に揉まれないと気づけないのだ。

そのうちに、いつの間にか風は上昇気流になっていて、涙して「上を向いて歩こう」を口ずさむことがなくなった。
“いいとき”が来ても、いろんなことにもっともっと気づいていこうと思っていたのに、気がつくと気がつけなくなっている自分に、ホント、呆れちゃう。

昨夜、スーパーで聞いた『上を向いて歩こう』が今朝も頭の中で鳴っている。
歌詞を口ずさんでも、辛さの絶頂のときのように涙を誘わない。
気持ちも涙腺も弱ってない証拠。

弱ってないときの『上を向いて歩こう』もいいものだ。
もともと名曲だし、何しろ歌詞が素敵。

 悲しみは星のかげに
 悲しみは月のかげに

爽やかな気分で歌える『上を向いて歩こう』に、気持ちが、口元が、軽く笑みになる。

で、改めて思った。

“いいとき”ほど気づけなくなることを覚えていよう。
知らず知らずの慢心の陰に見落とすことがないように。
自分についても、周りについても、心を配れるように。

心は大桜のようでいたい。


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