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史上最大のショートスクイーズ大作戦【9】なぜ1月27日と6月2日だったのか

#今回の記事はredditのu/airplane3579による投稿にインスパイアされたものです。

2021年1月の$GMEショートスクイーズが、ロビンフッドによる「買いボタン禁止措置」で勢いを削がれた話はこのシリーズの第4回に書いた。

では、なぜそもそもこのタイミングでスクイーズが起きたのか?
もちろんショート側にマージンコールがかかり、ポジションの清算を余儀なくされたからなのだが、同時期に行われたルールの変更がマージンコールの状況を後押しした可能性がある。

大統領令13959と1月27日

まだドナルド・トランプ前大統領が在任中だった2020年11月12日、大統領令13959にサインが為された
これは、アメリカ人投資家やNY市場で取引する投資家が中国人民解放軍と諜報機関に関連する31社に投資することを禁止するもの。2021年1月11日以降には新規の投資が禁じられ、署名から1年後の11月11日までには既存のポジションを閉じることを命じられた
トランプ前大統領の対中国政策が、対中関税の引き上げなど厳しい姿勢を取っていたことを思えば理解しやすい話だ。

これを受けて、年が明けた2021年1月8日に、財務省外国資産局の文書が出された。同局が指定するブラックリスト外共産主義中国軍事企業リスト(Non-SDN Communist Chinese Military Companies List)に掲載されている企業でも、大統領令13959に該当していれば2021年1月28日の午前9時30分以降は投資禁止になるよ、というもの。

午前9時30分はもちろんNYSE取引開始時間だから、これはつまり「問題のあるポジションは1月27日までか、遅くとも28日のプレマーケットまでに清算しておかないと無価値になるぞ」ということだ。

これらの銘柄にロング・ポジションを取っていた機関からすれば資産の担保能力が大きく下がり、証拠金が苦しくなる話だ。ショート・ポジションを取っていた機関からすれば、期日前の買い戻しを迫られる。いずれの立場であっても、ポジションを清算してポートフォリオ全体のバランス再考を迫られるわけだ。$AMCや$GMEに対してショート・ポジションを持つ機関も、大統領令の影響を受けてショートポジションを減らさざるを得なかったかも知れない。
1月28日までの、時間外取引も含めた $AMC $GME の値動きはこのようになっている。

$GME
$AMC

上部のRSI指標(30分足)を見れば、いずれも値動きが小さい段階から「買われすぎ」になっていることがわかる。1月27日のプレ・マーケットの出来高も、時間外取引としては突出している。

また、1月13日には、トランプ前大統領は大統領令13959の細かな修正を行う大統領令13974に署名している。米議会が次期大統領としてバイデンを正式に認定した1月7日のあと、トランプ前大統領が自らの任期内に命令を強調したかたちだ。

大統領令14032と6月2日

2021年1月20日から現バイデン大統領の任期が始まる。それから5ヶ月ほど経った6月3日、バイデン大統領は先の大統領令13959を修正強化し、大統領令14032に署名した。

投資禁止とする範囲を59社に拡大し、2021年8月2日以降の追加投資を禁じるとともに、既存ポジションについては2022年(つまり今年)の6月3日0時1分までに清算せよとするものだ。
規制内容としては強化されているが、清算期限はトランプ前大統領の大統領令13959での2021年11月11日から、2022年の6月2日までに延長されたかたちだ。
米国にとっての脅威となりつつあった中国への制裁強化自体は自然な流れかもしれないが、新たな大統領令の発令が$GMEや$AMCスクイーズが再び始まっていたこのタイミングと重なり、プレマーケット中に急落したことは、単なる偶然だったのだろうか?

2021年6月2日前後の$AMC。スクイーズが上昇しきれなかったことと大統領令は関係ある?

真の事情は外部からはうかがい知れないが、ケン・グリフィンがバイデンと民主党に対して群を抜く多額の寄付を行っていることを考えると、少なくとも彼がバイデンやその政権に対して働きかけることくらいは可能だろうと考えることも、無理な発想ではないだろう。

ショート・ポジションの閉じ方

ロング・ポジションならば、売るだけでポジションを閉じられる。
しかし、ショート・ポジションは買い戻さない限りポジションを閉じられない。
買い戻すためには取引相手が必要になるから、出来高が萎み流動性が減ると、ポジションを解消したくてもできない状況に陥る可能性すらある。
つい最近も、ロシア関連ETFにショートをかけた機関がポジションを解消できず手数料の支払いだけが続いていることが報じられていた。

大統領令14032の発令からは1年の猶予があったわけだから、その間に該当ポジションの整理もある程度は進んでいることだろう。また、昨年の大統領令14032の背景にケン・グリフィンやその他金融業界からの働きかけがあったのであれば、1年後の期限を迎える6月3日の前に再度の延長を認める動きが出てもおかしくない。
しかし、先日のバイデン大統領来日時の台湾防衛発言などにも現れているように、ロシアのウクライナ進行以後、中国への警戒が高まっている状況下での政治的判断だから、1年前よりは制裁の重要性が増しているとは言えるのではないだろうか。

レバレッジは強くかけられた市場環境を牽制するため、DTCCは5月2日以降機関に求める証拠金要件を厳しくしており、機関にとってはマージン確保へのハードルは1年前以上に高まっている状況だ。

$GMEの決算と株主総会

注目の6月3日の直前、6月2日にGameStopは株式の3:1分割などを議題とする株主総会を開く。前日の6月1日午後5時にはQ1の決算発表もある。

この種のアクションにおけるタイミング設定には類まれな鋭敏さをもつライアン・コーエンが設定した日程なのだと思うが、6月3日に向けた今週の動きには要注目だ。

だが同時に、$GMEも$AMCも、過去にこのような「期待される日程」には期待されるような動きにはならなかったことを忘れてはいけない。
6月3日までに何かが起こるかもしれないし、起こらないかもしれないが、それは「史上最大のショートスクイーズ大作戦」にとってはトッピングの一つに過ぎない。トッピングがあればラッキーかもしれないが、トッピングが無くてもデザートはそれだけで既に十分甘いのだ。
大統領令の関連銘柄に動きかないとしても、既に市場には十分なボラティリティが生まれ、重いレバレッジをかけていた機関には揺さぶりがかかっている。

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