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史上最大のショートスクイーズ大作戦【3】ショートスクイーズの仕組み

ショートスクイーズとの出会い

投資を始めた当初、株価は企業の業績を反映するものだと素直に思っていた。つまり、これから業績が伸びる企業の株を安値で買い、期待通りに株価が上がったときに高値で売れば儲かるのだと。

米国株では「ロング」と呼ばれるこの考え方は、もっとも基本的な投資の考え方だと思う。だからこそ「これから業績が伸びる企業」の選定が重要なのだが、それだけでは複雑に立場が絡み合った「市場」というものは理解できない。私にそのことをいきなり突きつけたのが2021年1月の「GameStop騒動」だった。

既に米国への投資は始めていたので、潰れそうなゲーム会社の株が急上昇しているという話題をtwitterで見かけた。日本語圏では「すごい急上昇しているぞ」「redditの中のWSBが仕掛けたらしい」「でもこんなのすぐに値下がりするぞ」程度の、安全な外野から眺めたしか見つけられず、英語の情報を急いで漁った。「short」「squeeze」という単語が目に入ったが、「短い?」「搾る?」と訳しても意味がわからなかった。

redditでWSB(wallstreetbets)のコミュニティを探し出し、情報を拾ってみた。どうやら$GMEだけではなく他にもいくつかの銘柄でショートスクイーズを仕掛けようとしているらしい。$AMCと$BBという銘柄が2番手3番手だというカキコミがあった。$AMCの方が上を狙えるぞ、というカキコミも見かけた。

とりあえず少しだけ買ってみた

$GMEは、単価が高かったので何も知らずに飛び込む勇気は持てず、まだ高値が20ドル程度だった $AMCの方が思い切って飛び込んでみるには安全なように思えた。$AMCは映画館らしいという程度のことしか知らなかったが、とりあえず余剰資金で少額ずつ飛び込んでみることにした。

これが私の当初の売買履歴。

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$AMC投資初期の購入履歴

最初に買ったのは現地の1月27日(購入履歴は日本時間なので28日)。15ドルで5株。チャートを眺めていたら13.5ドルまで下がってきたのでチャンスと思って追加買い。急反発して16ドルまで上がったので今が最後の安値かもと思ってさらに追加買い。その後18ドルまで上がったので余っていた資金でさらに追加買い。
翌28日は7ドルまで値が下がったので「失敗したか」と後悔しながら様子見。
しかし29日には再び値が上がったので「やっぱり上がるのか」と思って14ドルでビクビクしながら追加。redditを見ると「下がるのは次に上がるための準備だから気にするな」とか書いてある。
その後下がったので、12ドルでも少しだけ追加。

2月1日にはプレで急上昇を見せていたので、やっぱり上がる説で正しかったのか!と15ドル台で追加したところ、なだらかに下落。
2月2日には一旦6ドルまで下落。redditを見ると「Buy the dip!」とか叫んでいるけど、怖かったので手を出さず。
2月3日は再び上昇。なんで昨日6ドルで買わなかったんだろうと後悔しながら9ドル前後でロットを増やして購入。

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$AMC投資初期の株価と心理面の推移

振り返ると、まさにダメな買い方の見本。ショートスクイーズ銘柄ではこういった感情と短絡思考に基づく短期の売買は厳禁。ボラティリティが大きいのが特徴で上にも下にも大きく動きやすいため、購入資金と相談して計画通りに淡々と買い増す。売る。それ以外はやらない方がいい。

ショート(空売り)の仕組み

こうしてダメダメな買い方を進めつつも、redditではやたら熱い議論がかわされているので、抱えた含み損は見なかったことにしてredditで見かけた単語を順に調べてショート(空売り)の仕組みを理解していった。

ショートは貸株制度が前提

ショートは、証券会社が株を売るのではなく貸す「貸株」のシステムによって成立する。

①投資家が証券会社から株を借りる
②借りた株を市場で売る(売り圧力になる)
③株価が下がるのを待つ
④株を市場から買い戻す
⑤株を証券会社に返す

この5段階。
実際的には①と②は同時に行われ、④⑤も同時に行われるので、投資家としては通常は「ショートする(売る)」「株価が下がるのを待つ」「買い戻す」の3段階だけを意識すればいい。

お金ではなく株を借りる

ポイントは、お金を直接借りるのではなく、株を借りていること。株を借りたのだから、返すときの株価がどうあれ借りた数の株を返せば返済完了。貸株の手数料等々ほかにも気にすることはあるものの、基本はこれだけ。

貸株を借りている間に価格が下がれば差額が利益となるし、価格が上がれば差額は損失となる。

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ショート=売り圧力。ショート買い戻し=買い圧力

ショートをかけた②の段階では市場に対して株を売るので、「ショート=売り圧力」であり、大量のショートをすることは積極的な値下げにつながる。

一方で、ショートをかけた株を買い戻す④の段階では、株を買うので「買い戻し=買い圧力」であり、大量のショート買い戻しは積極的な値上がりにつながる。

ショートの命運は買い戻しの状況次第

また、ショートをかけた株を買い戻す際には必要十分な株数が市場に出回っている必要がある。
何しろ、ショートをかける→取り引きが成立している→誰かが株を買っている、ということだ。
ショートをかけた分だけ市場に出回っている浮動株の数は減っているから、取り引き相手が値下がりで株を手離さなければ株の供給は減る。株価は基本的に需給のバランスに関係するから、供給が減ると株価は上がりやすい。
また、貸株の手数料も需給関係に関係している。貸株できる株の供給が減り需要が上がると、手数料は上がりやすい。

ショートは最強の買い圧力

ショートは必ず買い戻さなくてはならないので、ショートをかけた分の需要は保証済み。ショートポジションは、将来的には最強の買い圧力となる。
だから、万が一、ショートをかけている最中に自社株買いや別口の大量購入などで市場の浮動株が減ったり無くなったりすると、供給減+需要保証の強力な組み合わせが発生し、株価も貸株手数料も上昇する。しかも、必ず0ドルまでで止まる下落と違い、上昇に天井はない。

普通のロング投資にはショートのような強い買い圧力はない。ロングであれば「この株を義務で買わなくてはいけない」状況は生まれないからだ。
小口であろうと大口であろうと、買いたいと思えば買い、売りたいときに売る。保持したければ保持する。見方によっては売り圧力ですらあるのがロング。
それに対してショートは、ポジションを持った以上は、将来に必ず買い戻さなくてはならない。それも、マージンコールなどで自分の望まないタイミングで即時に買い戻さざるを得なくなる場合すらありえる。

ショートスクイーズの仕組み

2008年、フォルクスワーゲンのショートスクイーズ

よく引き合いに出されるのが2008年のフォルクスワーゲン($VOW)のショートスクイーズ。2008年10月24日(金)に154.8ユーロまで下がった株価が、27日(月)には488.8ユーロまで上がり、28日(火)には773.6ユーロにまで到達した。
3営業日の間に5倍の株価に達したこのショートスクイーズは、MOASS(Mother Of All Short Squeezes)のさらに源にあたるということでGMOASS(Grand Mother Of All Short Squeezes)とも呼ばれる。

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2008年フォルクスワーゲンのショートスクイーズ。奇しくも同年9月15日のリーマン・ブラザーズ破綻に象徴されるリーマンショックの最中に起こった

このショートスクイーズは、現象を説明しやすい例でもある。

2007年頃から、当時業績が悪化し伸び悩むフォルクスワーゲン社の株価を見て、同社に対するショートポジションが増加し株価はさらに下落した。
一方で、2008年の3月時点では同社の株の31%をポルシェ社が、20%をドイツのニーダーザクセン州(フォルクスワーゲン社の地元)が所有していた状態。ポルシェ社は、表向きはそれ以上のフォルクスワーゲン株所有を否定していたものの、10月24日(金)の市場クローズ後に普通株式とオプション株式で合計74%を所有していることを発表。
想定していた浮動株の買い占めが突然判明したかたちとなり、ショートをかけていた機関や投資家は阿鼻叫喚の週末を過ごし、月曜日から急いで買い戻しに殺到した。
これにより、圧倒的に浮動株が少なく供給が足りない状態に多数の買い戻し需要が発生し、需給の市場原理により価格が高騰。
買うのがあとになればなるほど価格は高くなるから、我先にと殺到するショートの買い戻しにより価格は前週の最低値から5倍に達した。
買い戻しが終わればその株は再び貸株に出されるか、市場で売られるかするので、29日(水)以降は再び供給が戻り始め、しだいに株価は落ち着いた。

$GMEと$AMCが狙うショートスクイーズ

$GMEと$AMCに期待されているショートスクイーズも、基本的には類似の構造である。大量にかけられたショートポジションに対して、買い戻せる浮動株の供給を急減させて買い戻しを困難にし、価格を高騰させる。

ただし、ポルシェ社の単独判断で浮動株を減らした2008年と違うのは、reddit等インターネット上で共感した個人投資家たちが、各自の判断で、しかし目的を持って両社の株を積極的に買うことで浮動株を減らしていこうというものである。スタンドアローン方式のショートスクイーズと言ってもいい。

今後述べていくように、買い戻しが極めて大きな上昇圧力につながり得る膨大なショートも既に積み重なっている。そして、株の供給を減らすための充分な浮動株も既に押さえてある。
ショートスクイーズが起きるに充分な条件は既に整っているのだ。

$GMEと$AMCのショートスクイーズが、なぜ史上最大なのか。そしてなぜ「まだ起こっていないのか」。それについては今後述べていく。

空売りの是非

「空売り」というシステムには投資以外ではなかなか出会わないと思う。転売ヤーやせどりも価格が上がることで儲けるものだし、「価格が下がることで儲かる」というシステムに、個人的には今も違和感が拭えない。

テスラのイーロン・マスク氏がかつてtwitterで呟いていた

u can’t sell houses u don’t own
u can’t sell cars u don’t own
but
u *can* sell stock u don’t own!?
this is bs – shorting is a scam
legal only for vestigial reasons

持ってない家は売れない
持ってない車は売れない
なのに
持ってない株は「売れる」
インチキさ。ショートは詐欺
退化した根拠しかない合法
(いんべス訳)

twitterより

学術的にはショートは「適正価格発見機能」を持っているとされている。ロングだけでみんなが人気株に集中すると熱狂してバブルになるから、ショート側がいることによって適正価格に落ち着くという論理。
一理あるけれど、ショートが適正な範囲に収まらず、「倒産を目的とした過剰なショート」が行われている場合にも「適正価格発見機能」を担っていると言えるだろうか?

米国トイザらスの倒産原因が過剰なショートだとしても、トイザらスの経営に問題があったと言えるだろうか?
未来の宝を開発しているベンチャーのバイオテクノロジー企業がショートで株価を弄ばれて倒産させられても、競争社会においてショートが適正に機能した結果だからそれは社会全体にとっての利益と言えるのだろうか?

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