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元投資銀行マンが本当におすすめする本~バリュエーション~

最近バリュエーションはかなり投資銀行以外の方々から興味を持たれることが多くなってきた。IBDの採用人数が増えたこと、FASや仲介などM&Aにかかわるプレーヤーが爆発的に増えたことに加え、IdecoやNISAなど我々の資産がかなりの部分株式市場のリスクにさらされるようになってきたのが背景だと思われる。

本投稿ではそんなバリュエーションに関連する書籍を、初心者からプロ、理論重視から実務重視まで幅広く紹介していく。

なお別途モデリングやバリュエーションについてはおすすめ財務モデル講座として別途紹介させていただく予定である。

Investment Banking: Valuation, LBOs, M&A, and IPOs

いきなりの英書であるが、やはりM&Aの本場は欧米でありかなりの部分欧米からの概念を日本でも輸入している側面が大きいため、まずは本場の書籍を紹介する。

本書はIBDバンカーが投資銀行の実務を詳細に、かつ平易に説明している書籍であり、バリュエーションに限らず例えばM&AのプロセスやIPOまで幅広に解説している点に特徴がある。

その中でもValuationについては、Comps(類似会社比較法)、DCF法、LBOモデル等IBDでベースに使用する手法を丁寧に、かつエクセルの作り方まで解説しており、日本語版での類書は存在しないといっても過言ではない。

そのためモデリングを勉強したい方はまず本書をしっかりと取り組むことができれば、確実にスキルアップにつなげることができるだろう。英語版のみであるため、英語の練習にもなる点を本書のメリットとしてあげておく。

そして加えて本書には準拠した問題集があります。財務モデルやバリュエーションモデル、LBO等が実際に自身の手を動かせる形で掲載されています。
本で読んで理解できることと、実際に自分で手を動かしてそれを実行できることはかなり大きな乖離があるため、一度原版を読んだ後は、この問題集を試すことで、自身の理解力を確認しつつ理解が及んでいない箇所をあぶりだすことができる。ぜひ合わせて手に取っていただくことをお勧めしたい

なおこちらの書籍は日本語版が存在している。価格も原版と異なり比較的リーズナブルなため、原版を読みこなす自信がない方はぜひ、こちらを手に取っていただきたい。

MBAバリュエーション

日本語版でのバリュエーションの説明本と言えば、MBAバリュエーションだろう。元GSの森生明氏による初学者へのためのバリュエーション入門編といったところである。バリュエーションのざっくりした理論的な説明から各種手法の概要、実践編とバリュエーション入門編としては、幅広い内容がカバーされており、申し分はない。

一方、実務を行う上では薄すぎて話にならないので、他の専門書をお勧めするが、インターンを控えた就活生やM&A案件にアサインされた事業会社の若手の方、IBDと話す必要のある方に対しては、彼らと話が通じるだけの知識がこの本を幾度か読み返すうちに獲得できるはずである。

まずは本書から入っていくという使い方をしていただければいいだろう。

図解でわかる企業価値評価のすべて

基礎的な書籍の2つ目は今はやりのKPMG FASによる本書があげられるだろう。MBAバリュエーションよりは少し実務よりであり、より細かく数字を用いながら、DCF法に限らずマーケットアプローチも併せて解説されている。

MBAバリュエーション同様少し内容に物足りないところは実務的にはあるものの、MBAバリュエーションよりはより実務に即した内容となっており、これからM&A案件にアサインされ、IBDが作ってくるDCFモデルをレビューしなければいけない、もしくは資料を理解しなければいけないとなった時に手に取るといい本である。

コーポレートファイナンス 理論と実践

少し難易度が高い、かつ実務に近い本書を読み、実践してみることをお勧めする。本書は理論を学んだ後の読者が実際に実務にその理論を応用できるようにする、いわゆる「架け橋」になるように作られたと著者が語っていた通り、非常に実務に近い内容が書かれている。

本書の特徴はROAから会社のキャラクターを明らかにして、そのキャラクターを基にバリュエーションを行うという、事業と数字がいかにリンクしているかを平易に解説しているところだろう。

実務に近い細かい手法(Compsのカレンダライズ等)も紹介されており、一度読みこなし、自身の手を使って実践できればバリュエーションの入門編はいったん完了し、あとは個社ごとのプラクティスを少しずつ覚えていくことを意識すればよいのみである。

ぜひMBAバリュエーションの次に読んでいただきたい本である。

新版 財務3表一体理解法

バリュエーションの概観がつかめてきたら、次はバリュエーションのキャッシュフローのベースになる財務諸表の理解を進めるのが良いだろう。

本書は財務3表、損益計算書・貸借対照表・キャッシュフローがどのようにリンクし、どのように相互に作用しているかを図を用いながら明快に説明している超良書である。

恐らく簿記等で仕訳を学んだ方もいらっしゃるだろうが、仕訳は仕訳で重要なものの、結局それがどう財務諸表に反映されるのかの大局を見失いがちである。

本書は、ある経済的な行動(例えば5で仕入れたものを10で売上げる)が財務3表それぞれにどのように影響を与え、どのようにリンクしているかが具体的な事例をベースに説明しており、それを紙とペンを使いながら追っていくだけで影響が分かるようになるだろう。

よく財務モデルでは貸借対照表の貸借が一致しない=バランスしないことが揶揄されるが、ある作用がそれぞれの財務諸表に与える影響が頭の中でわかっていればそのようなことを回避しながら財務モデルを作っていける。

そのため、バリュエーションの概観が理解できたあとは、もう一度基本の財務諸表に立ち返り本書を読んでみてほしい。

現代ポートフォリオ理論講義

本書はDCFで用いられる資本コストについて理論的な説明を加える書籍である。バリュエーションにおいてよく力点がおかれるのはわかりやすい将来キャッシュフローの方であり、財務モデルもどちらかというと将来キャッシュフローの予測に使われることが大きい。

一方で企業価値に大きな影響を与えるのは、将来キャッシュフローを何で割り引くか、という割引率であり、IBDのバリュエーションコミッティでも割引率(パラメータといったりする)の推定や各種前提はどのように説明されるかを聞かれることが多い。

現在は多くのIBDがバリュエーションは標準的なモデルが存在し、ともすれば数字をエクセルに打ち込めば勝手にDCFが回り、企業価値と株式価値が計算されるようになっており、自分自身では数字については理解せず、ただ数字を打ち込むマシーンとなりがちである。(そしてコミッティで前提の妥当性を詰められ爆死する)

そういうことを防ぐためにも、また自身の作業がどのような理論に基づいているかを理解しながら作業を進めるためにも本書は非常におすすめである。

道具としてのファイナンス

DCFのベースが一旦抑え終わった後は、そもそもDCF法やバリュエーション全体が依拠しているファイナンス全体の考え方を学ぶべきだろう。ファイナンスの理論がどのように発展しており、どういった考え方に依拠しているか?を知ることで自身が使っている数字を深く理解することができるはずである。

上で紹介した現代ポートフォリオ理論講義はそれらの理論を平易に解説しているが、理論を読んだだけではなかなか自分で理解できているかどうかが分からないことがネックである。

本書は「ファイナンスはある程度勉強してきたけど、何となく腑に落ちない」人を対象に書かれており、エクセルを使って徹底的に手を動かすことでファイナンスを体で覚えることを目標としている。

著者自身もMBAに行ったり、ファイナンス関連の本を買いあさり、すさまじい時間を投じてもなかなか腹落ちしなかったファイナンス理論をどう理解するか?が本書の出発点となっている。コーポレートファイナンスに限らないファイナンス全般の本であるが、ぜひ手を動かして理解を深めてほしい。

例にもれず本書にも公式の問題集が存在する。私は「手を動かす」原理主義のため、手を動かさなければ理解できないと考えている。そういった意味で手を動かす機会を豊富に与えてくれる書籍は大変貴重である。

なお旧版については著者の石野氏も認めているように理論的に間違った解説が存在する。(一つはアンレバードβとリレバードβを計算するための式である)そのため、少し解説が怪しいと思った場合は鵜呑みにせず、他の書籍を見直してみるのもよいだろう。一応ブログのリンクも貼っておくため、ぜひ参考にしてほしい。

企業価値評価の実務Q&A

かなり実務的な書籍であり、色々な状況やアイテムに対してどのように処理をするべきかを詳細に解説したものである、プルータスの「企業価値評価の実務Q&A」を紹介する。

プルータスは以下のHPにもあるとおり、公開買付けの特別委員会に対するファイナンシャルアドバイザーとして、ある公開買付価格が妥当かどうかを評価する役割でリテインされることが非常に多い、独立系のファイナンシャルアドバイザリーファームである。

彼らはいわゆる株価の公正価値をめぐる裁判において判例のもととなった価値評価を多数行っており、理論をベースとした企業価値評価に定評がある。
なぜなら理論から外れた企業価値評価を行っている場合、裁判においてはその処理の妥当性を説明することが難しくなるためである。

様々な投資銀行のアナリスト・アソシエイトにおいては、本書を自身のデスクの上に置いておき、必要に応じて該当項目を参照するという使い方がなされている。(実際に参照する頻度としてはマッキンゼーの企業価値評価より多いのが実感である)

バリュエーションを行う際、1冊は手許においておいてもよい本であるといえよう。

なおプルータスは彼らのHPでもバリュエーションにおけるいくつかの重要な論点について解説を加えている。(グローバルCAPMとか)そのため彼らのレポートについてもブックマークしておくことをお勧めする。

企業価値評価 バリュエーションの理論と実践

言わずと知れた超有名図書である、マッキンゼー著の「企業価値評価 バリュエーションの理論と実践」である。
本書は確実にある程度バリュエーションの経験がある方が読むべき本であり、初心者が読んでもあまり意味が分かるようにはならないと思われる。

本書で繰り返し伝えられているエッセンスとしては、「DCFを計算するフリーキャッシュフローは本業からのキャッシュフローである」という点であろう。開示情報から何が本業に資産として活用されていて、何が本業の資産を用いたキャッシュフローなのかを明確に分類するアプローチを紹介しているところにまずはエッセンスがあると感じている。

バリュエーションをまずは公開情報に基づいて行う場合は、注記等から本業に使用されている資産をまずは洗い出すところからスタートすればよいだろう。

下巻はそれよりさらに一歩踏み込み、様々な特殊な事情下にある企業に対するバリュエーションアプローチを解説しているところが非常に参考になります。

私がよく見るのはシクリカルな、要は景気が循環し業績に周期性があるような企業の分析や、銀行の評価をするときは金融機関の評価である。

ちなみにマッキンゼーの本書の標準とされているバリュエーションアプローチはかなり癖があり、一般的な投資銀行やFASで用いられるアプローチとは少し異なることがある。

例えばマルチプルを当てる財務指標は「EBITDA」であることが標準であるところ本書では「EBITA」(つまり減価償却後)を用いている。また類似会社のベータをアンレバード化し、再びリレバード化するためのアプローチにはマイルスエッツェル式を用いている。(一般的な投資銀行はロバートハマダ式を一般には使っているといわれている。)
また他にも重要な相違点としては、資本コストを算出する際に用いられるβの期間だろう。当書籍は5年月次を使用することを推奨している一方、一般的なIBDにおいては2年週次が用いられることが多い。(5年月次をつかわないわけではない)

こういったことを説明せずに本書を推奨するのは非常に不親切であるため、まずは最初に説明を加えたが、それを差し引いても様々な処理やアプローチが紹介されているため、一読の価値は絶対にある本だといえる。

バリュエーションの理論と応用

理論を学ぶうえで最後に目指したいのが、少し古い本ではあるが「バリュエーションの理論と応用」である。
本書は他の類書とは異なり、理論の解説に力を割いており、ともすればスキップされがちな類似会社のベータのアンレバード化のアプローチや二項モデル・三項モデル、可変WACCによる算出等、アプローチ面からかなり幅広くDCF法をとらえているところに特徴がある。

なお投資銀行の面接で、バリュエーションについて聞かれることが比較的多いが、その際に聞かれることとしては、パラメータの設定(WACCの各構成要素)の理由とターミナルバリューの算出方法である。

本書はそこに対しても解説を加えている。ターミナルバリューは比較的各社のスタンダードがあり、その理由を考察する機会はしっかりと意識しないとないことが多く、改めて自身が使っているスタンダードがどのような理論的背景を持っているかを、分解してみるのも手であろう。

難易度はそれなりに高いため、初学者にはおすすめできない。中級者以上が理論をより深く理解するために読むべき本と言える。

バリュエーションの理論と実務

本書はバリュエーションの専門家である鈴木一功氏と会社法の専門家である田中亘氏の共同編著であり、バリュエーションの理論と実務について、理論的な解説とそれが裁判においてどのように解釈されるかを非常に詳細に解説している。

この本の特徴はとにかくカバー範囲が広いことがあげられる。キャッシュフローの予測や計算における各種論点や最適資本構成の考え方、資本コストの計算に係る各種論点についての解説を加えており、またDCF法に限らず類似会社比較法等の他手法についてもカバーしている。

本書の問題意識としては実務においては、実務家が理論を都合のいい部分だけをつまみ食いし、日本のバリュエーション実務は必ずしも理論的に整合的なものばかりではないというところから始まる。

バリュエーションがアートである、やクライアントのいう数字の範囲に算定結果を収束させるプラクティスがまかり通る中で、理論的に整合的な実務を検討するアプローチが本書の特徴だと感じている。

1冊目でないことは確かだが、ある程度財務モデルは組めるものの、この数字の前提がなぜそうなっているかを深く理解するためには最適な書籍だと感じている。


ダモダラン教授のHP

書籍ではないが、NYUの教授でありバリュエーション研究の第一人者であるアスワス・ダモダラン教授のHPを紹介したい。

papersのところには、様々な項目で細かく理論を解説しており、使い勝手がそれなりに良いと感じていた。面白いコラムもあるので、ぜひ時間のある時に読んでみてはいかがだろうか。

https://pages.stern.nyu.edu/~adamodar/

疲れたので一旦、今回はこの書籍の紹介にとどめるが、今後もどんどん加筆していく予定なのでぜひサポート、スキやフォロー等をしてくれると非常に嬉しい。

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