マーケットのテーマはお待ちかねのポリシーフェイルへ
前置き
今年に入って1度もnoteを更新していませんでしたが、2022年度も早半分が終わり、下半期に向けた整理と共にマーケットのテーマがこの所変わりつつあるので久しぶりに更新しようと思いました。
皆さん、ところで今年の調子はいかがでしょうか?(黙れ)
パフォーマンスが優れなくてもインデックスより超過リターンが出ていればOKだと思いますし、何より日本人投資家はドル円相場に助けられていますので、実際のマーケット以上の悲壮感はないように感じます。
そんな事はさておき、下半期のマーケットを展望するにあたって、まずは上半期のマーケットを簡単に整理する必要があります。
上半期は昨年末ではだれにも予想できない展開に
ここまでのインフレとFedの引き締めスピードは正直、だれにも予想できなかったために株式市場はそれ相応の反応をしました。最早どうでもいいですが、以下がその結果です。
S&P500指数では1970年以来、52年ぶりの下落。
ナスダック100は2002年以来、20年ぶりの大幅下落。
テスラは史上最悪、アマゾンは2000年以来の下落。
さて、ここからは下半期につながる話をしましょう。
個人的に今年の最大のテーマはインフレ率が鈍化してデフレーションな局面にいるにもかかわらず、Fedが過度な引き締めをして景気鈍化・後退局面が訪れる事でした。
それをポリシーフェイルと表現しています。
戦争と止まらないインフレで遅れていたテーマがやっときました。
すなわち、年始はインフレ率が鈍化することを前提に置いていたので、今年の上半期、特に1月は非常に苦しみました。2月にはウクライナ戦争が勃発したせいで益々エネルギー価格を中心としたコストプッシュ型のインフレが進み、マーケットはボラタイルな展開にならざるを得ませんでした。
実は米国の原油生産量はパンデミック前の最高値よりも依然として少なく、OPEC +の原油増産が米国の希望通りに行われないだけではなく、自国内でさえこのような状況であると言うことが原因価格を下支えしているのは言うまでもないでしょう。
https://www.eia.gov/dnav/pet/hist/LeafHandler.ashx?n=PET&s=MCRFPUS2&f=M
Fedはこのような生活必需品のコストプッシュ型インフレに対して利上げを行い需要を抹殺しようとしても生活必需的であるため基本的にはなすすべがなく、パウエル自身もそれを認めており、それは1970年代のバーンズ議長を思い起こさせる節があるが、マーケットの不透明性をよりいっそう高めることになりました。
ただし、中間選挙を控えるバイデン政権にとってはそのような「言い訳」は(国民に金融政策たるものはなどと説いてもシカトされるので)知る由もない事で、そのバイデンに任命されたパウエルは無論、6月FOMC記者会見において次のように述べています。
要はこれまではコアにコミットしてきたかもしれないが、国民にとってコアかヘッドラインかはどうでよく、とにかく「インフレ」を沈静化させる事が大事であると。6月FOMCはこのツイートでショートカット。
パウエルFedの認識では遅行指数であるPCEや CPIが「連続して」(つまり、少なくも2ヶ月連続、出来れば3ヶ月連続)鈍化してこそ、利上げ中止や鳩化の話が出てくるというニュアンスでした。
そして、これこそポリシーフェイルが(ソフトランディングが厳しいという)現実味を帯びてくる話であると思います。
パウエルはFedをBOJにするわけにはいかない
ここでのBOJは「デフレ脱却が不可能」という意味ではなく「credibilityが地に落ちつつある」という意味で使いました。
パウエルにとって1番避けなければならないシナリオは間違いなくインフレが収まらないレベルにまで跳ね上がり、かつそれが長期化してしまうことです。これは事実上の通貨発行体であり、歴史と権威あるFedに泥を塗ってしまうことです。
Fedの仕事は基本的に2つ(3つ)で
・maximum employments
・Price stability
(・to support financial and macroeconomic stability)
雇用の最大化はやりすぎと言ったほどに実現され(The labor market has continued to strengthen and is extremely tight)、世界中の中央銀行が金融緩和の罠に陥ってしまった挙句、インフレを止められなくしてしまった今、ここで$の信用を守る事、それだけにコミットしていると思います。
なぜなら、1回やらかしたから、、
パウエルの transitory 発言はまたも亡霊のごとく尾を引く
今や完全にネタ化したパウエルのこの発言は長期金利(米国10年)が1%を上回り、一時1.7%近辺に突入するなどした2021年3月頃にFOMC議事要旨上では初めて出た発言です。
実はこのインフレは一時的(Transitory)という表現、FOMCにおいてはパウエルが初出ではなく、前任のベン・バーナンキが用いたものです。バーナンキは2014年末から2年以上にわたって「物価の上昇は一時的(Transitory)な影響によるもの」と発言するも、結局その後も物価上昇の流れは止まらず、一時的という文言も削除されました。
ご存知の通り、パウエルはこのフラグを見事に前回以上のインフレ率と短期間で回収しました。
8か月後の11月FOMCでは
'TRANSITORY' IS A WORD PEOPLE HAVE DIFFERENT DEFINITIONS FOR や
expected to be transitory
とし、雲行きが怪しくなり始めるとその2週間後の12/1議会証言では
TIME TO RETIRE WORD 'TRANSITORY' REGARDING INFLATION
と、完全に見誤ったことを認めました。
この transitory 事件は過去のものでは決してなく、現在の金融政策にも尾を引いてくるでしょう。
パウエルは先週6/29の議会証言で
WE UNDERSTAND BETTER HOW LITTLE WE UNDERSTAND INFLATION
と発言し、Fedの金融政策、引き締めは nimble and humble である必要があると再認識しています。
つまり、一度インフレを見誤った経験のあるパウエルは少しデフレーショナルなデータが出たからといって、簡単に引き締めを緩める姿勢を取る事はFedの信任やインフレ沈静化の面で今度こそ慎重にならざるを得ないのです。
もっと具体的に言えば、ヘッドラインの前年比数値がベース効果で減少するだけで判断するのはもちろん、ISMやPMI、雇用統計などの景気動向に関するデータが1〜2ヶ月悪化したごときで引き締めを緩めてしまう、もしくはそう捉えられかねない発言をする事は一度ピークアウトしかけたインフレを再び加速させるリスクが大いにあり、そう簡単にはできないでしょう。
金融政策に一つの変化を期待できるのは少なくとも
・PCE・CPIの前月比でコア・ヘッドライン共に2〜3回連続鈍化する
・雇用統計の平均時給など賃金に関するデータが2〜3回連続鈍化する
が出てからでしょう。
Fedですら見誤るのに、各自の経済観で相場を張るのは愚かです。
どんな優秀なファンドマネージャーやアナリスト、エコノミストでも後からだいたい数ヶ月前のコメントを見ると、wwwみたいな発言をしています。
「今」ハトは存在しないしできない
ハト派の定義は 「金融政策については景気への配慮を重視し、金融緩和に前向きなスタンスとなる」です。
今、ハトになることは長期的に見るとアメリカ経済をスタグフレーションに導き、破壊する事になるのでハト派の急先鋒カシュカリですら、
FED'S KASHKARI: I SUPPORTED 0.75 BPS INCREASE IN JUNE, COULD SUPPORT ANOTHER IN JULY
FED'S KASHKARI: PRUDENT STRATEGY MIGHT BE TO CONTINUE WITH 50 BPS RATE HIKES AFTER JULY MEETING
FED'S KASHKARI: NEED TO BE CAUTIOUS ABOUT TOO MUCH FRONT LOADING ON RATE HIKES
と述べています。
すなわち、手前の金利を大幅に引き上げて仮に長短YCがインバートすることがあっても長期的なインフレを抑えることこそ1番の鳩であると思いますし、僕もそれが結果的にマーケットにとっては良いのではないかと思います。
そして、それは(今度こそ…)「一時的な」リセッションを招いてでもインフレファイターでなければならないという覚悟でしょう。
Fedのポリシーを直接の言及は避ける事を条件に、『一時的な』リセッションを引き起こす事をコンセンサスにすれば良い
他のFed高官も同様の見方をするような発言が相次いでいます。
パウエル議長
>>FRBの金融政策が行き過ぎるリスクはあるのかという質問に対し、パウエル議長は「イエス」と答えつつ、それよりも大きなリスクはインフレを沈静化するための行動が足りないことだと述べた。
本当の危険は高インフレが長期化し、インフレ期待が制御不能になることだと議長は指摘。その上で、現在は長期のインフレ期待が制御不能になる「状況ではない」と言明した。
メスター:タカ派
ハーカー:タカ派
ボスティックのアトランタ連銀はQ2も実質GDPはマイナス成長で最速のリセッション入りを予想しています。
そもそもソフトランディングできる確率を信じる方が間違い
YCのインバートの示唆をマーケットや参加者の多くはかなり甘く見ていた
https://twitter.com/invest_forever/status/1509047698309017600?s=21&t=1bKmvYg1ZodYwS70qfptkw
https://twitter.com/invest_forever/status/1537748859941597184?s=21&t=1bKmvYg1ZodYwS70qfptkw
https://twitter.com/invest_forever/status/1537749482133020672?s=21&t=1bKmvYg1ZodYwS70qfptkw
要はインバートしている時はまだまだ景気後退が長期的に見られているので、目の前にはいないが、景気後退局面が目先に訪れた場合は「ブル」スティープ化(10-2の25bpsは1つの目安)した場合こそ、リセッションの訪れる時という事です。
ちょうど本日2-10は3度目のインバートを記録しました。
まさに、今、目先の未来かもしれませんね。
個人的にはそんな感じがしてます。
リセッションでのボトム
やっとマーケットの話です。
リセッションの定義はアメリカにおいて、四半期ごとの GNP/GDPが2四半期連続して前期を下回る、とされているのでそれにのっとれば次のデータは有用かもしれません。
野村証券による過去100年間のリセッション時のデータでは景気後退初月が株式のボトムとなっていることがわかります。
もし、Q2でリセッション入りならば、6月の指数ダブルボトムが大底かもしれません。
しかし、このデータは少し雑で今回のリセッションとはタイプが違います。
リセッション前から景気が低迷し米債が上昇・CPIも低位です。
CSのリサーチではリセッション開始6か月前がS&P500指数の天井であることが示されており、もしQ2でリセッション突入なら完全に辻褄が合うことになり、大いに参考にすべきでしょう。
リセッション突入の可否は大きなポイント
マーケットの重要視点は「どれ程の」リセッションなのかではありますが、単なるベアマーケットとリセッション局面のそれとではパフォーマンスが大きく異なることがわかります。
1900年以降のダウ平均ベースでは、景気後退ではない弱気相場での平均下落率は-25%(9.1ヶ月間)、中央値は-18% (6.8ヶ月間)であるのに対して景気後退の場合のそれは -34.6% (15.3ヶ月間)となります。
すなわち、このデータでは年初~6月の米株の調整はリセッションを全く織り込んでいないということがわかります。
これはバリュエーションの観点からも同様の事が言え、それはshen大先生の素晴らしいブログがあるので割愛します。
年初から株式のバリュエーションを金利を無視した挙句PERやPSRで語る人が多い、と思っていたのでこれはとてもキレキレのプログでした。Shenさん大好き😘
参考
ちなみにS&P500指数では世界恐慌以降平均-35.62%、289日間となっています。
https://www.hartfordfunds.com/dam/en/docs/pub/whitepapers/CCWP045.pdf
一方、WW2以降では平均-30%(13か月)、中央値では-24%(15か月)となっています。
もしリセッションならば、S&P500のデータからは値幅というより日柄が足りないように感じます。寧ろ値幅は中央値とほぼ同じです。(ATH~ボトムで-23%)
リセッションなしのベアマーケットでも同様のことが言えます。
現在は年初の天井から約6か月、180日程度なのでもう少し日柄が必要な気がします。つまり、不透明感が強く、Q2決算前の今、わざわざ焦って買う必要はそこまでないと思います。
最後に、参考までに常時1年前パフォーマンス比較でのS&P500チャートが興味深かったので共有します。
ここから下半期の投資戦略を書こうと思いましたが、もうここまでで超長文になったかつ、時間が無くなったので【後編】という形でまた別で書きます。
今回は以上です。
その他参考文献
https://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20220316.pdf
https://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20220504.pdf
https://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20220504.pdf
https://www.federalreserve.gov/mediacenter/files/FOMCpresconf20220615.pdf
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